39配信目 ビッグイベントを企画中なんです!ぜひ!

『キラキラフェスティバル……ですか?』


 ある日の夜、突然真根さんからチャットが来た。


 内容はよく分からなかったが、キラキラフェスティバルなるものに出てほしいというものだった。我はその単語を初めて聞いたが、なんのこっちゃ分からんぞ?


 とりあえず復唱する形でチャットにそう返信する。


『そうです! キラキライブを応援してくれるリスナーさんたちへの感謝も込めて、会場を借りてやる大きなイベントを現在計画中なんです。

 ライブがメインで、その他にも色々なイベントを企画中です』


『ライブというのは?』


『歌って踊るライブのことです。それにニーナさんも出てほしいんです!』


 我は内心えぇ…と思う。


 たしかにVtuberでも現実の人間のように、現実の会場を借りてライブをすることはある。キラキライブより1年先輩のVtuber会社もたしか半年くらい前にライブをやっていたと思う。

 知らない人からすると、「現実に存在するわけではない存在がライブをやる?どゆこと?」となるだろうが、実は前例が結構ある。Vtuberに限らず、ボーカロイドみたいな電子アイドルも現実でイベントをやってたりするのだ。


 学校や会社で使うプロジェクターやスクリーンは、スクリーンに対して、直接前から光を当てて映像を写しているが、こういったバーチャルとリアルを融合させたライブでは、透明なスクリーンに後ろから光を当てて、あたかもそこに存在するように見せる技術を使っている。

 ホログラムみたいな技術はまだないが、現代の技術でも似たようなことはできるのだ。


 なので、キラキライブが現実で大きなライブをやるとしても、別に不思議でもないし、応援したいと思う。



 じゃけどね?

 我に出演しろというのはいささか酷じゃなかろうか?


 我、自慢じゃないけど、コミュ障じゃからね?

 うん…… 言ってて悲しくなるけど、コミュ障なんじゃよ。コンビニで“袋はどうされますか?”って聞かれて、“え、え、あ、い、いります……”って言っちゃうくらいにはコミュ障じゃからね?


 そんな我に、大勢の前で、歌って踊って、皆を笑顔にしてください!っていうのは結構無理言ってると思う。


 まあたしかに? 最近は結構コミュ障とか改善してる気もするけどね?

 オフコラボとか大成功だったし?


 我、自分の成長が恐ろしいけどね?


『私にライブはまだ早いというか…… 無理な気がします。

 せっかくお金を払って見に来る人に申し訳ないというか……』


『大丈夫です!

 ニーナさんはきっと大勢の前に出ることを不安視されていると思うのですが、そこはVtuberですから問題ないです。

 お客さんの前には、大きな透明スクリーンが設置されていて、そこに等身大のライバーの皆さんが映し出されます。ライバーの皆さん自身は別室のキャプチャ部屋で歌って踊っていただきます。つまり、直接出るわけじゃないのです』



 確かに我はVtuberじゃから、直接お客さんの前に出ることはない、か。

 別室でモーションをキャプチャするための機器に囲まれながらライブをやるわけだな。


 うーむ…… それならできるのか?


 いや、でも、普通に考えて、あまり話したことのないキラキライブのスタッフさんと一緒にやり遂げられるか? レイやリリィ、ちーちゃんならまだしも、全然話したことのないライバーだってたくさんいる。

 コミュ障の我が見知らぬ人に囲まれてうまくできるか……? ボイス収録のときの比じゃない。甚だ疑問ぞ?



『うーん……』


『ファンの皆さんもニーナさんが出演してくれることをきっと期待しています!

 それにあれですよ! ニーナさんが目標にされているコミュ障脱却にも一役買うと思うんです!

 スタッフやライバーの皆さんと一緒に大きなことを成し遂げる。きっと皆さんと仲良くなれます』


『うーむ……』


『ニーナさんには私、個人的にも絶対来てほしんです!

 他のスタッフさんもそう思ってます。この前のオフコラボ、社内でめちゃめちゃ評判良かったんですよねぇ』



 うーむ……


 ん? 今なんと?



『そんなに評判良かったですか?』


『ええ! たじたじなニーナさんが可愛かったこともそうですが、なによりコミュニケーションがあまり得意ではないのに、オフコラボに一歩踏み出したその勇気を称える声も大きかったです。特に部長がめちゃくちゃ褒めてました』


『そんなに褒めてくれたんですね…』


『そりゃすごかったですよ! 部長って、たしかニーナさんの面接も担当してたんですけど、“自分の目標を見失わずに、着実に前へ進んでいる。誰にでもできることではない”って手放しに褒めてました!』


 ふふふ、そんなに褒められるとて、照れるのぉ~。


 部長とやらは我の面接を担当していたのか。

 ふふふ、なかなかどうして良い審美眼をもっているじゃないか。


『そんなに褒められると悪い気はしませんね…!』


『私含めファンのため、部長のようにニーナさんに期待している人のため、そして何より、ニーナさん自身の飛躍のためにも、参加、いかがでしょう…?!

 ニーナさんの声とっても綺麗だし、歌も映えると思うんです!』


 そこまで言われると悪い気はしない。


 やはり、見る人が見ればわかるものだ。

 我は成長している。そして我は素晴らしい。


 ……ふふふ。


 いかん、口角が自然とあがってしまうな(笑)。


『そこまで言われてしまうと断れませんね。分かりました。頑張ってみます』


「ありがとうございます!

 では早速参加の方向で調整しますね!」


 まあ、不安もあるが、……ふふふ。なんとかなるじゃろう。


 我ってば、まっこと天才じゃしな!

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