第20話

「手刀……初めてやりました……!」


バハムートはキラキラした目で手を眺めた。


「手刀って危ないんじゃなかったのか? 後遺症が残るかもしれないんだろ」


「だ、大丈夫です。アニメで予習してましたから」


「余計心配になるわ」


式馬が偽物のテスターの腹を探り終えると、2人は倉庫を出た。


街の中心部から離れたこの場所は、モンスターの出現によって放棄されている。今でも住み続ける頑固な人はいるが、ほとんどが都会へ逃げてしまった。


モンスターに襲われないようにと外出する人が減ったせいで、モンスターの数が逆に増えてしまった。


モンスターは人が存在していなかった場所に現れる。だからこそ、引きこもる人が増えるほどモンスターも支配圏を増やすのだ。


人は人が多い場所に避難するようになった。そのせいでじわじわと、このような放棄地帯が目立つようになっていた。


「バハムート、頼む」


「ま、任せてください」


ぎゅっと手を握る。助走をつけ、家の屋根まで飛び上がった。


『素早さ』に乗って屋根伝いに走る。人がいない放棄地帯なら怒られることはないし、モンスターとも遭遇しにくい。


「いつになったら本物のテスターと会えるんですかね」


「世論じゃ俺らは悪者だからな。名乗り出たくない気持ちもわかるが……」


「式馬さんの幸運でどうにかできないんですか」


「バハムートに会えただけでも十分幸運だ。これ以上は求められん」


式馬が幸せだと感じているならば、それ以上幸運は発動しない。もう1人と出会うことは当分ないだろうと式馬は思っていた。


「そ、そうですか。……にしても、今日の偽物、かなりのレベルでしたね」


「『力強さ』が10って言ってたな。本当なのか? 極振りだとしても8日でレベル10まで上げるのは相当だぞ」


式馬が2日で12まで上げられたのは休みなく倒し続けたからだ。たとえ休み休みでも、8日は早すぎる。


「だからテスターを名乗ったのかもしれません。刀は差さねばただの棹っていいますし」


「何か引っかかるんだよな」


2人は電線を飛び越え、たまにモンスターを蹴落とし、屋根を伝いながらバハムートの家へと帰っていった。

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