第6話 彼女は苦悩する

 バンド練習は放課後のほとんどで入っている。楽をするにもどこかで苦労をしないといけないのは当たり前である。今現在は眠いなんて言ってられないのである。


 学校の放課後なんぞは特に予定なんぞいれるものではないと豪語していたため、基本空いている僕は余裕で対応できてしまう。それがあだとなってこの多忙さである。


「休息が欲しい」


 これが今現在の僕の切実な願いだろう。


「休息か~そうだね~まあ根を詰めすぎてもいい結果は残んないよね」


 以外にもあっさり了承をくれる。


「ちょっと待って!今月末にはライブがあるのよ。今そんなことよりもこの新曲をいっぱい合わせていった方がいいでしょ」


 それを待ったをかけるあの子は何かに囚われているように言ってくる。


「何をそんなに焦ってるのかは知らないけど、個人的に休息だって大事なものだよ」


「うんうん。そうだよね~いつ休めるかもわからないし。だから今日はおしまいで明日も休みってことでちょうど学校もないしゆっくり明日は休むこと異論は認めませんリーダー命令です」


 有無は言わせないといった感じで頷いている。


「・・・・・わかった。でも今日はもうちょっと私は練習していく」


 焦らないでねと彼女は言いながらギターをケースに入れて出口に向かって歩き出す。


 僕もそれについていく感じでベースを担いで出ていく。


「付き合うぜ俺もまだ不安なところもあるしな」


「ありがと・・・・」


 二人はその後も時間が分からなくなるまで打ち込んでいった。




☆☆☆☆




 僕らは出た後は何をする出なくただ歩いていた。


「それにしても休みか~じゃあ何しようか」


 僕はその言葉に度肝を抜いた。明日も一緒にいることが確定だと。


「いや普通に休ませろよ」


「だーめ。君に当分休みはないの」


 さあ張り切っていこうという感じで腕上げる。


「君もさっき言ってたじゃないか休息は大事だって」


「言ったけど私がそれじゃあ暇じゃない」


「いや、わがままか」


「それよりどこ行く」


 ガン無視である。


「家一択だな」


「えっ!いきなりお家デートちょっと攻めすぎじゃないですか」


「誰がお家デートだ。普通に家でゆっくりしたいんだよ」


 第一こいつといるとほぼ一緒ではないか。


「う~ん確かにゆっくりできるけどやっぱり外で何かしたいな」


「それならお一人でどうぞご勝手に」


 インドア派とアウトドア派は相容れないのである。どっちかを押し付けることは互いの破滅を意味するだろう。


「よし決めたよ。明日は遊園地に行こう」


 僕が受け流そうとしたら彼女は時間と場所をまくしたてるように言い、走ってどっかに行く。


 角を曲がって見えなくなったぐらいでメールがくる。


『もし来なかったら、すっぽかされたって学校中に言いふらすから。よろしくね』


 拒否権はないらしい。


 言いふらされたらまず僕たちが遊園地に行く間柄という誤解を生じる上にそこから約束を守らないというレッテルを張られてしまうのである。


「本当に八方ふさがりである」


 そして僕は空を見上げながら思う。本当に休みが欲しいと。




☆☆☆☆




 今ここには居残って練習している二人がいた。


「今の結構よくなかった」


「ああ、確かにな。じゃあ今日このくらいにして帰ろうぜ」


 私はその言葉にうなずく。


「明日はさすがに休めよ。最近ちょっとあいつもテンション上がってて突っ走ってるからな」


 大吾の言葉は確かである。凛音がいつにもまして張り切ってしまていて、練習がいつもよりも長くなっているのである。


「わかってはいるんだけど、今のまんまじゃあ凛音に迷惑かけることになる。私はお荷物になりたくないの」


 そうこのバンドは凛音のバンドで私はそれに誘われたんだ。


「わかってはいるがよ。休息も大事っていう意味も分かるだろお前だって。特に凛音にはあいつはそんな体力ないんだから俺たちの無理に突き合わすのは極力やめようぜ」


「そんなことはわかってんのよ。ただ天才に追い付くには努力しかないのよ私たちには」


 ああ、わかる今私は困らしている。そんなことは相手も分かってるのに。


「ごめんちょっと焦ってた」


 いや、いいよと大吾は言いながらバックを持つ。


「それにしてもあいつも天才だな」


 ここでのあいつとは、あの男の事だろう。


「あのベーステクは一朝一夕じゃあ身につかねえだろう」


 そう思わせるほどすごく。


「あんな完璧に合わせてくるか普通」


 あいつは事も無げにそれをやってのける。悔しかった気に入らないとも思っている。


「まあ、心強くはあるがな」


 その言葉を聞いて私は飛び出していた。


 悔しいあいつに負けるのが、何もかも簡単に持って行ってしまうあいつが。あの子の隣を今歩いているのはあいつである。


 うまくなりたいのに時間が圧倒的に足りない、これは言葉には出せない言葉である。これを言えば私があそこにいるのは本当に意味がなくなってしまう。


 だから声には出さず走る。少しでも時間を置き去りにできないかと考えながら。


 彼女は苦悩し続けていく。

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