第四章 謝罪
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コンコンと、遠慮気味にドアをノックする音が聞こえる。起こすつもりがないのか、普通の人間が寝ているような時間ではないのか、布団に覆われた暗闇の中では何もわからない。
「お友達が来てますよ。出ますか?」
ドア越しに母さんの声が聞こえる。いまだに息子である自分に対して敬語で話しかけてくる、変わった人だ。
そんなに俺と距離を置きたいのか。
「出ないっ!」
俺が布団から顔を出して叫ぶと、ドアの向こうで母さんが驚いたのが伝わった。
「……わかりました。私の方からそう伝えておきますね。また、ご飯を食べるときにでも下りてきてください」
スリッパが床を擦る音が、ゆっくりと部屋から遠ざかっていく。
すっかり目が覚めてしまったので、俺は一息にベッドから出た。もうしばらくの間閉め切ったままのカーテンの隙間から、外の光が漏れている。それがいつの時間帯による日光なのかわからなかったので、スリープ状態にしていたデスクトップパソコンを起動して、時計を確認する。
15時50分。だいたい想像通りの時間だった。ここ最近ずっと夜はまともに眠れていない。いつ寝たのかすら覚えていない。そんなときに起きるのはだいたい今日みたいな夕刻だ。
お友達って、どうせあいつが学校帰りに来たんだろう。もう今更来てもなんの意味もないというのに。
日課のごとく、ニュースサイトをチェックする。朝影市や板滝町で検索しても、バラバラ死体に関する記事はヒットしない。もはや、俺が捨てたはずのバラバラ死体は誰かが持ち去ったということは明白だった。俺はすでに誰かに自分の犯行がばれているとおびえることにも疲れて、半ば開き直りのような状態になっていた。本当にあのバラバラ死体を見つけて場所を変えた――または持ち去った――やつがいるとするなら、何かしらコンタクトを取ってくるはずだ。今のところそれが来ない以上、余計な心配をする必要はないだろう。やることはやったのだから、ここまで来ればもう死体がどうなろうと知ったことじゃない。
コンタクトといえば――
ふと気になって、カーテンを少しだけめくって外の玄関付近を見下ろした。
俺は驚きのあまり目を見張った。
今日はあいつ一人じゃない。4、5人くらいのグループで来ている。ちょうど今から俺の家から離れようとしているところだった。見たことのある顔のやつもいるが、あの頭に包帯を巻いている女は初めて見た。
しかし、そんなことはどうだっていい。俺が驚いた原因はそこじゃない。
南戸、由利。
どうして、お前が、俺の家に……?
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