第一章 二年三組へようこそ

1

 喉が焼けるように痛い。息苦しいはずなのに、どれだけ息を吸っても満たされない。

 溢れた涙が止まらない。嬉しいわけでも、悲しいわけでもないのに。

 熱に浮かされたように、声にならない声が唇から漏れ出る。

 殺した。

 ついに、殺してしまった。

 もともとそのつもりではあったものの、今までに命を奪うという経験は、せいぜい道端でうろついている蟻を踏み潰したことくらいだ。そう考えると、途端に自分の行為の重みを強く感じて、脚の震えが止まらなくなった。

 いや、待て。落ち着け。

 ここで冷静さを欠いてはならない。そうだ、殺したことがあるのは蟻だけじゃない。風呂場に湧いた無数の小蝿を熱湯で叩き落としたこともある。それ以外にも冷蔵庫の裏から呑気に顔を出したゴキブリを、近くにあったスリッパで滅多打ちにしたことだってある。道端に生えた名前もわからない花なんて、何度も踏みつぶしてきた。

 他にもまだまだ似たようなことをした覚えがある。こんなこと、皆やっていることだ。自分だけじゃない。焦る必要なんてない。

 一度大きく鼻から息を吸う。錆びた鉄のような濃い臭いが思う存分体内に入り、むせそうになったところで、思い切り口から息を吐く。同じようにして深呼吸を三回ほど行うと、呼吸の乱れは治まり、幾分気持ちが楽になった。

 改めて足元にあるものを見下ろす。首を強く絞め上げたせいか、目は飛び出て、舌は驚くほどの長さで口からこぼれ出ていた。大人しくさせるために何度も蹴ったので、所々骨がおかしな方向に曲がったり、血が流れたりしていた。

 そういえば、首を絞めたときに手袋をすることを忘れていた。おそらく自分の指紋が強く刻まれているだろう。自分の愚かさを悔いたが、その点にすぐに気付ける程度に冷静になれたことを褒めるべきかもしれない。

 さて、問題を発見したはいいものの、どう解決したものか。

 腰を下ろして辺りを見回すと、はさみが落ちていることに気づいた。何も考えずに手にとって、おもむろにはさみの刃を開いて閉めてを繰り返した。はさみの刃と刃がかすれるときに鳴る音を聞いていると、唐突に有効なアイデアが頭に浮かんだ。

 ああ、そうだ。なんだ、そんなに考える必要はないじゃないか。

 自分だけじゃない。

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