箱の中の羊

タイラ

第1話 捕食


 近くにチカリチカリと明滅する光。

 久しぶりの餌かもしれない。


 期待して意識を向ける。その箱の中には、数個の生命体が存在しているようだ。迷わず内部へと入り込んでいく。


 入った先で半分ほど実体化すると、具合良くすぐ近くに小さな生命体がいた。

 これまで出会ったことの無いタイプだ。こちらに向けた丸いふたつの器官をいっぱいに開いている。若干グロテスクだと感じたが贅沢を言っていられない。

 なにせ久しぶりの生き餌だ。


「ひ、いやっ」


 それは細い声で鳴いたが、抵抗はなかった。

 怯えてぶるりと震えたソレから何かが滑り落ち、ぱさっと乾いた音をたてる。

 すかさず分裂し、全ての穴から身体の内部に入り込んだ。あとは内側から残さず食い尽くすだけ。生きている、温かい、みずみずしい感触。

 ああ、美味い。


 外気に触れる表皮部分を残してすべてを取り込み、それの大きさぴったりに広がると、わたし――、あたしは完全な擬態に成功した。


「ん」


 もちろん思考を司る部位から生命体の記憶と記録をコピーしてある。どうやらこの粗末な箱は星から星へと渡る船で、現時点では故郷の星への帰途にあるらしい。瞬きをもうひとつ、ふたつする間に、宿主の思考をほぼ完全に把握する。


「あたし は にあ」


 試しに声を出してみると、存外心地よい音が鳴った。にあ、ニアか。そうだ、これから“あたし”が名乗る名前。船にはあたしの他に数名のクルーが乗っている。せっかくの食事だ、一度に食い散らかしてしまうのはもったいない。ゆっくりと楽しませてもらうとしようか

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