同じ血液型
会議を終えた秋斗は、幸弥の迎えに保育園にやって来た。
幸弥は遊具で北斗と一緒に遊んでいた。
「あ、お父さん! 」
幸弥が秋斗に駆け寄って来た。
と・・・
「わーん! 」
大きな子供の泣き声が聞こえた。
「北斗君! 大丈夫? 」
保育士が北斗に駆け寄った。
どうやら遊具から落ちたようで、頭を怪我したようだ。
秋斗は北斗に駆け寄った。
保育士に支えられ、頭から血を流して泣いている北斗がいた。
「北斗君! 」
秋斗はハンカチを取り出して、北斗の頭を止血した。
驚いて集まってきた先生に、秋斗は。
「僕がこの子を病院に連れて行きますから、この子のお母さんに、至急連絡して下さい」
と言った。
「でも…」
「この子のお母さんは、僕の会社の顧問弁護士です。良く知っている人ですから。責任をもって連れてゆきます。その方が早いです! 」
「分かりました。そうします」
「病院は、金奈総合病院にいきます」
「分かりました、伝えます」
秋斗は幸弥と一緒に北斗を連れて行った。
金奈総合病院。
秋斗が北斗を連れてくると、すぐに手当てしてもらえた。
「北斗君、大丈夫かな? 」
幸弥が心配して秋斗に尋ねた。
「大丈夫だよ」
手術室から男性医師が出てきた。
「北斗君のお父さんですか? 」
「あ、いえ違いますが。どうしたんですか? 」
「出血がひどかったので、輸血が必要なんです」
「何型ですか? 」
「O型の血液が必要なのですが」
「僕の血を使って下さい。僕はO型です」
「それならお願いします」
「幸弥、ちょっと待っててくれるか? 」
「うん、大丈夫だよ」
秋斗は医師と一緒に去って行った。
しばらくして。
北斗は無事に輸血も終わり、頭を3針縫ったが問題はなかった。
一晩病院に泊まったら明日には帰れるとの事だった。
北斗の手当てが終わった頃、茜がやって来た。
病室にやって来た茜は急いできたようで息を切らせていた。
「北斗君のママ」
茜は北斗に歩み寄った。
「もう大丈夫だよ、3針縫ったけど。1晩様子を見て問題がなければ、明日には退院できるって」
秋斗が言った。
「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」
「迷惑だなんて思っていないよ、なぁ幸弥」
「うん。北斗君が痛い思いしているの、助けただけだもん。北斗君のママが、大変なのは知っているから大丈夫だよ」
幸弥の言葉が茜の胸にじーんときた。
「幸弥、飲み物買ってきてくれる? 北斗君のママ、走って来たからお水でいいから買ってきてあげて」
「分かったよ」
秋斗からお金を受け取ると、幸弥は病室を出て行った。
眠っている北斗傍に行き、寝顔を見ると茜はホッとした顔を浮かべた。
「ご主人は来ないの? 」
「え? 」
「だって、日本にいるじゃないか。連絡したんだろう? 」
「え、ええ。仕事がたてこんでいて、遅くなるって言われたから…」
そう答える茜はどこかよそよそしかった。
「子供が大怪我しているのに、仕事を優先するのかい? 」
「どうしても外せない事って、あるから…」
「ねぇ、ご主人の血液型は何型? 」
「え? 主人はAB型です」
「AB? 」
「はい」
秋斗は変だと思った。
茜の血液型は確かA型。
AB型とA型の間ならO型は産まれる確率は少ない。
どこか変だ。
秋斗の疑問はますます深くなった。
「お父さん、買って来たよ」
幸弥が戻ってきた。
「はい、北斗君のママにはこれあげる」
幸弥が差し出したのはパックの甘い珈琲牛乳だった。
それを見て、茜は驚いた目をした。
「北斗君が、これ大好きって言っていたんだ。だから、きっとママも大好きだと思って。疲れた時って、大好きなものを飲んだり食べたりすると、元気が出るんだよ」
「ありがとう、幸弥君」
飲み物を受け取ると、茜は目が潤んでいた。
「北斗君に痛い思いさせて、ごめんねママ」
「え? 」
「だって、僕と一緒に遊んでいたんだけど。お父さんが来たから、北斗君の事忘れて僕だけ行っちゃったから」
「そんな事、気にしないくていいのよ。遊んでいて、怪我した事なんだから」
「うん。僕、北斗君の怪我が治るまで。お見舞いに行っていい? 」
「それは構わないけど、しばらく北斗は保育園お休みしなくちゃいけないから」
「保育園の帰りとか、お休みの日にならいいでしょう? 」
「そうね、幸弥君が無理がないようにね」
「うん」
嬉しそうな顔をして、幸弥は秋斗を見た。
その後。
幸弥と秋斗は帰って行った。
茜はほっとして、北斗の傍についていた。
麻酔でぐっすり眠っている北斗はとても穏やかな顔をしている。
消灯時間が過ぎて。
23時を回る頃。
秋斗はこっそり茜と北斗の様子を見に来た。
音をたてないように病室のドアを開けて入ってくる秋斗。
茜はソファーで眠っていて、北斗はぐっすり眠っている。
バーティスの姿はなかった。
ふと見ると、茜の毛布が床に落ちているのが目に入り秋斗は拾って茜に掛けた。
ぐっすり眠っている茜だが、なんだか疲れているようだ。
頬はすっかり痩せこけていて。
そんな茜を見ると、バーティスは何をしているのだ! と、秋斗は腹ただしくなった。
こんな時間になっても駆けつけて来ないなんて、どうゆうつもりなんだ?
そこまで忙しいようには見えなかったが。
眠っている茜を見ていると、秋斗は愛しさが込みあがってきた。
そっと、茜の頬にキスをする秋斗。
「おやすみ…」
小さな声で呟いて、秋斗はそっと病室を出た。
病院室のドアが閉まると、北斗が目を覚ました。
病室のドアを見て、北斗は小さく笑った。
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