15話:最も古き詩


 目が覚めると、其処は寝台の上だった。

 二度目となる天井を見上げながら、細く息を漏らす。

 以前とは違い、夢の内容は頭に焼き付いていた。

 いやそもそも、アレは本当に夢と言っていいのだろうか。

 

「……とりあえず、寝覚めは最悪だな」

 

 身体の芯に残る冷たさ。

 それが単なる悪夢でない事を刻み込んでくる。

 

「…………」

 

 何度か深く呼吸をし、自分の身体に意識を向ける。

 手足に少し力を入れてみるが、昨日とは異なり問題なく動いた。

 身体のどの部位にも違和感はない。

 少なくとも、今は。

 

「寝て治ったわけじゃないよなぁ……」

 

 そんな単純な話でないだろう事ぐらいは、流石に馬鹿でも分かる。

 俺自身に、実際何が起こっているのか。

 多分、詳しく知っているのは一人だけだろう。

 

「……ん……」

 

 微かに漏れ聞こえる可愛らしい寝息。

 腕の辺りで、小さな体温がもぞっと動いた。

 身体の状態を確かめていた時から気付いていたが、改めてそっと視線を下ろす。

 丁寧に掛けられた毛布の中。

 前に目覚めた時と同じように、アウローラが身を寄せて眠っていた。

 薄衣だけを纏った肌は、心なしかいつもより青白い気がする。

 少しだけ毛布をめくって、その様子を見てみるが……。

 

「…………」

 

 変わらず、穏やかに寝息を立てるアウローラ。

 この前は直ぐに目覚めたが、今回は余程眠りが深いらしい。

 まともに動くようになった腕で、その髪をそっと撫でてみる。

 柔らかい感触と、染み込むような温かさ。

 ほんの少しだけだが、身体に残る冷たさも和らいだ気がした。

 

「……さて」

 

 アウローラはこのまま寝かせておきたいが、此方は頭も冴えて来た。

 そうなると寝汗が気になってくる。

 夢見が悪かったせいか、身体全体がかなり湿った状態だ。

 これで更に身体を冷やすのは余り宜しくない。

 とりあえずアウローラを起こさないよう、慎重に寝台から抜け出す。

 手足は動く。やはり、身体の調子に問題はない。

 寝台から出たら、そっと俺の汗で濡れてない位置にアウローラを寝かせた。

 それから、細心の注意を払って毛布を掛けておく。

 其処まで作業を終えてから、俺は部屋を出ようとして――。

 

「……いや」

 

 外部との繋がりがないのもあり、今が朝なのか夜なのかも分からないが。

 恐らくイーリスも起きて活動しているだろう。

 だからとりあえず、置かれていた「ソレ」だけを手に取った。

 もう一つ簡単な作業を終えて、それから改めて扉を開く。

 すると案の定、暖炉の部屋には一人椅子に腰かけたイーリスの姿があった。

 

「ん、目が覚め……」

「あぁ、悪いな。迷惑かけて」

 

 出て来た此方に気付き、挨拶を口にしようとしたところで固まるイーリス。

 まぁウン、理由は分かっている。

 

「……なんで兜だけ付けてんだよお前」

「流石に鎧全部着るのは面倒だったんで……」

 

 あと身体を流す前に、また鎧を外すのも流石に手間過ぎる。

 真っ当に答えたつもりだったが、イーリスの視線は完全に不審者に向ける奴だ。

 兜だけ被った半裸の男は不審者だろうと言われたら、反論出来る自信はないけど。

 

「……まぁいいや。風呂場だろ? さっさと行ってこいよ」

「おう」

 

 ため息混じりのイーリスの言葉に頷き、当初の目的を果たしに行く。

 雰囲気的に、こっちと何か話したいのだろう。

 さっさと風呂場に入ったら、手早く冷えた身体を流す。

 アウローラの魔法の力で、直ぐにお湯が出てくるのは本当にありがたい。

 心地良いお湯の熱を味わってから、また冷えぬようにしっかり拭う。

 一通り済ませたら、再度兜を被り直して暖炉の部屋へと戻った。

 やっぱり不審者を見る眼を向けられたが気にしない。

 

「それ、外したらどうだ?」

「一応呪いの装備なんで、自分で外すわけにはいかんのだ」

「コメントに困るわ……」

 

 呪いを掛けた張本人はお休み中なんで、手抜きで兜オンリーなのは大目に見て欲しい。

 火が揺れる暖炉の傍に近付いて、身体にまた熱を染み込ませる。

 イーリスはそんな俺の様子を、椅子に座ったまま目で追っていた。

 

「……とりあえずは大丈夫そうだな」

「あぁ、とりあえずはな」

「何がどうしたのかとか、聞いて良いのか?」

「悪いが俺も良く分からん」

 

 素直に答えると、イーリスは軽く自分の眉間を揉む。

 自分の命が掛かっている状況で、取引相手のポンコツなところを見てしまっては不安も大きいだろう。

 昨日はまだマシだが、敵に囲まれている状態でまた同じ事になればどうなるか。

 

「……アウローラは?」

「寝てる。大分お疲れみたいだ」

「そうかい。昨日、気絶したアンタをこの隠れ家まで引っ張ってった。

 その後はあのお嬢さんが部屋に引き摺ってって、それからの事は知らない」

「そうか」

 

 恐らくはその時に、何らかの治療を行ったわけだ。

 イーリスはそれを見ていないし、俺も具体的に何をしているかは知らない。

 

「なぁ」

「ん?」

「アンタは本当に、三千年前に竜を殺したのか?」

「多分。残念ながら記憶が無いんで、ちょっと断言はしかねる」

「……その辺、詳しく聞いてなかったよな」

 

 そういえば、ちゃんと説明はしてなかった気がする。

 アウローラも敢えて教えようとはしていなかったが、別に話してしまっても良いか。

 

「記憶がないせいで俺も曖昧なんだけどな。

 どうやら三千年前に北の荒野で竜を殺して死んだらしい」

「アンタが? 死んだ?」

「そう、俺が。まぁ俺はただの人間だし、三千年とか良く分からんけど。

 とりあえず俺は死んでて、それをこの時代に生き返らせたのがアウローラだ」

「…………」

 

 それが俺の知っている事の全てだが、改めて口にするとなかなかの与太話だ。

 イーリスじゃなくとも「頭のおかしい奴の戯言」と流しても仕方ない。

 だがイーリスは、やはり真剣な様子で沈黙する。

 

「? どうした?」

「……北の荒野、人寄せぬ地。

 行った者は帰る事なし、流れてくるは歪んだ獣ばかり也――か」

「……?」

 

 何やらイーリスの口から、詩のような言葉が流れた。

 

「オレも、全て知ってるわけじゃない。ただ、聞いた事はあるんだ。

 北の地での竜殺しを語った古い詩をな」

「マジか」

 

 仮に《北の王》の事を言っているのなら、それこそ大昔の詩だろうに。

 そんなものをイーリスが知っているのは本当に驚きだった。

 

「たまたまだぞ? たまたま聞いた事があるだけだ」

「いや、それでも十分凄いだろ。それで、どんな詩なんだ?」

「あー……ちょっと待て。思い出す。聞いたのなんて随分昔だからな」

 

 本当に北での竜殺しの詩なら、内容はかなり気になる。

 興味本位で尋ねると、イーリスは何とか記憶を掘り返してくれたようだ。

 

「――北は最果て、隠りの世。生きては辿れず生きては戻れぬ。

 死せる者ならただ死せん。塵は塵、灰は灰」

「…………」

 

 イーリスの声は、透き通る水のようだった。

 歌とか芸術とか、そういうモノの「良さ」や「違い」は詳しくない。

 そんな鈍い俺の耳にも、その歌声は美しく響いていた。

 

「北は最果て、独りの玉座。傲慢なりしは《北の王》。

 死せる国にて孤独に嘲笑わらう。何人も、その御前には辿り着けぬと」

 

 死せる者は死ぬ。

 塵は塵に、灰は灰に。

 竜の王に挑む為、北へ向かう者は誰も帰らない。

 イーリスの詩はそれを繰り返し語る。

 

「されど王の暴虐が永らえる事は無し。

 見知らぬ地より彷徨いきたるは、たった一人の名も無き王。

 彼の者が何処いずこからきたるを誰も知らず、目指すべき地はただ一つ」

 

 そして詩には、新たな王が現れる。

 竜である《北の王》ではなく、彷徨い出て来た謎の王。

 俺が「はて」と首を傾げている間にも、イーリスの歌声は続く。

 

「彷徨える王の手に、灯るは銀の灯火ともしびなるか。

 それは剣、世に二つと無きただ一つ。

 王に剣を授けしは、暁と共に現れたる輝きの娘。

 夜の衣を身に纏い、乙女は黎明を連れて王を迎えん」

 

 また一人、新しい登場人物が詩に現れる。

 暁の乙女――此方は何だか聞き覚えがあるような。

 

「乙女は寄り添い、名も無き王は果てを彷徨う。

 獣を寄せ付けず、死を寄せ付けず、やがて孤独な玉座へ至る。

 愚かなりし《北の王》、簒奪者に怒り狂い。

 剣を掲げし彷徨の王、遂に玉座の竜へと挑みゆく。

 その戦いたるや凄まじく、言の葉にて綴れるものに非ず」

 

 詩はとうとうその下りに至った。

 人が竜の王に挑む、竜殺しの戦いに。

 

「――王は去りて、剣一振り。

 残る玉座に影は無く、去り行く王の行方も知れず。

 かくて北の最果てにて、竜殺しの偉業は成し遂げられん――」

 

 全てを歌い終えると、イーリスは一息吐く。

 それに合わせ、俺は軽く手を叩いて彼女の歌声を讃えた。

 

「いや、上手いもんだな。正直意外だった」

「うるせェ、似合ってない事ぐらいは自覚あるっての」

「そういう意味じゃなかったが……いや、言い方が悪かったな」

 

 単純に歌とか、そういうものに興味があるタイプと思っていなかったのだ。

 イーリスは何処か気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「とりあえず、これがオレの知ってる『北の竜殺し』の詩だ。

 ……あー、クソ。人前で歌ったのとかどれだけぶりだよ」

「良い声だったぞ」

「うるせェうるせェ」

 

 お世辞でなく本心からの賛辞だったが、素直に受け取って貰えないようだ。

 

「ンなことよりだ」

「おう」

「この詩の内容、どう思うよ?」

 

 そうイーリスに問われて、少し考えこむ。

 俺自身は記憶喪失なので、当然はっきりとした事は言えないわけだが……。

 

「北の竜殺しで、大昔の話となると、多分俺の事だよなぁ」

「少なくとも人間が竜を殺す偉業――人の手による竜殺しを語っているのは、この詩だけだ。

 類型っつーか、内容が微妙に違う程度の派生作は幾つかあるけどよ」

「ホント良く残ってたなそんなもん」

 

 つーかイーリスさん詳しいですね。正直滅茶苦茶驚いてるわ。

 ただ――仮に、そう仮に、この詩が俺がやったという竜殺しを語っているとして。

 どうしても気になる事が幾つかあった。

 

「……で、名も無き王って?」

 

 詩の内容では何処からかやってきた王様が、北の荒野で竜を討ったとされている。

 俺の口にした疑問に、イーリスは小さく頷く。

 

「無名の王、或いは彷徨える王。

 この名前の失われた王が、ただ一人で《北の王》に挑んで竜殺しを行ったと、そう言われてるな」

「王……?」

 

 昔の俺は実は王様だった……?

 いやいや、流石にそんなわけがない。

 詩で語られている事が全て真実とも限らないはずだ。

 イーリスも同意見だったようで、片手をパタパタと振る。

 

「アンタが実は王様だったとか思ってねぇよ。

 ただアンタの竜殺しが事実なら、それがこの彷徨える王の話のモデルになってるんだろうな」

「でもなんで王様……?」

 

 話をどうねじったらそんな事になってしまうのだろう。

 アウローラが語った事が事実なら、俺は荒野に打ち捨てられた罪人とかだったはずだが。

 ……そうだ、アウローラと言えば。

 

「暁の乙女とか、なんかそういう? 名前も出てたよな」

「……まぁ、それが一番気になるよなぁ」

 

 どうやらイーリスも、俺と同じ部分が引っ掛かっていたようだ。

 黎明と共に現れた、暁の乙女。

 彼女が彷徨う王に寄り添い、その手に竜殺しの剣を握らせた。

 細部は大分美化の気配を感じるが、大筋は俺の聞いた話と合致している。

 

暁の乙女アウローラは、王にただ一つの剣を授け、導きを与えた聖女だと言われてる」

「せいじょ……?」

「あぁ、彼女が何者で何処から来たのか、彷徨える王と同様一切語られていない。

 ただ北の地を訪れた王の前に現れ、竜を殺す為の剣を彼に与えたそうだ」

「やっぱ聞いた事ある話だなぁ……」

 

 暁の乙女――アウローラという名は、廃城で思い付いた名前のはずなんだが。

 これは偶然なのか、それとも無意識にその記憶だけ残っていたのか。

 どちらにせよ詩に語られる聖女とやらは、今部屋で寝ている彼女の事で間違いないだろう。

 

「……聖女、暁の乙女って……やっぱり、そうだよなぁ?」

「多分な」

 

 記憶のない俺では、それ以上は断言しかねる。

 イーリスは今は閉じている部屋の扉に視線を向けてから、何故か天を仰いだ。

 どうも、何かを嘆いているようにも見える。

 

「どうした?」

「いや……ちょっと、イメージと現実のギャップを埋めてるだけだ。気にすんな」

「??」

 

 言っている意味がイマイチ分からなかったが、本人が言うなら気にしない事にした。

 ひとしきり何かを呟いてから、イーリスは大きくため息を吐く。

 それから改めて、俺の方へと椅子を傾けた。

 

「実際のところ、今でも半信半疑だ。お前らが最も古い詩に語られる竜殺しなんて」

「それはそうだろな」

「……けど、此処まで見て来て、信じるしかないとも思ってる」

 

 ぽつり、ぽつりと。

 イーリスは静かに自らの胸の内を言葉にしていく。

 

「オレは元々、上層の生まれだったんだけどな」

「そうなのか?」

「っても、ガキの頃に下層に捨てられたんだけどな。実の親の手で」

「そうか」

 

 子が親を捨てる。

 時代が変わっても、それ自体はよくある話のようだ。

 しかし、そうか。上層は確か貴族とか、特別な人間が住んでるところだったか。

 歴史や古い詩を知っていたりと、妙に教養があったのにも納得が行く。

 言葉少なに頷いた俺に、イーリスは自嘲の笑みを浮かべた。

 

「よくある話だって、そう思うだろ? 実際その通りだからな」

「まぁ口減らしとか、そういうのは俺が死ぬ前の時代でも割とあったしな」

「この都市じゃ、「自分達の価値を下げる」ってんで、出来の悪い子供は直ぐ捨てられる。

 オレも優秀だった姉さんと違って、自慢できるような才能は何もなかった。

 ……少なくとも、下層に落とされるまではな」

 

 言いながら、イーリスは俺に見えやすいよう片腕を上げる。

 そうしてから、指と指を軽くすり合わせると――パチリと、青白い火花が散った。

 

「? 魔法か?」

「いいや、魔法じゃない。オレは魔法なんて学んだ事ないからな。

 これは“奇跡”と呼ばれてる、稀に人間の中で発生する特異能力さ」

 

 パチリ、パチリと、イーリスの指の間で何度も火花が踊る。

 俺の目には魔法と同じように見えるが、どうやら別物であるらしい。

 

「オレがこの力を自覚したのは、さっきも言った通り下層に落ちてからだ。

 最初はどう使えば良いか分からなかったが、何度も自分で訓練した」

 

 その途中で死ななかった事の方が奇跡だったと、イーリスは語る。

 

「強い電気は流せないが、細かく制御する事で機械を操作する事も、逆に壊す事も出来る。

 当然限度はあるが、その気になれば専用の設備無しに完全没入フルダイブも……」

 

 なんだか知らない単語が乱れ飛び始めた。

 こっちの表情(?)に気付いたか、イーリスは誤魔化すように咳払いをする。

 

「……兎も角、オレは奇跡持ちだった。

 コイツは滅多にいない、都市でも最上級の価値って奴だ」

「あー……もしかして、それが狙われた理由か?」

「だろうな。多分、どっかで奇跡を使ったのが漏れたんだと思う」

 

 まぁどれだけ慎重にやったとしても、人間なら誰しもミスはある。

 火花を散らしていた指を拳の形に固めて、イーリスは呟く。

 

「出来が悪いと、価値がないと捨てられて、そんなオレが実は奇跡持ちだった。

 それが分かった時は、正直嬉しかった。あのクソ親共の目は節穴で、何の価値もなかったって」

「今は?」

「クソッタレな気分だ。実は価値があったからと、また上に連れ戻そうとかふざけんなよ」

 

 顔を怒りに歪めて、イーリスは唸るように言った。

 

「だからもう、この都市の何もかも、ぶっ壊してやりたいんだ。

 その為だったら、「竜を殺す」なんて夢物語に賭けてみるかって思うぐらいにな」

「夢物語ではないな」

 

 それは確実に、これから果たす目標だ。

 イーリスは一つ頷いてから、酷く愉快そうに笑った。

 

「そうだな、ホントに殺って貰わなきゃ困る。

 そうする以外、オレにはもう先も無いんだ」

「そう悲観的になる事もないだろ。しくじったら死ぬぐらいだ」

「あぁまったく、アンタの言う通りだよ竜殺しの旦那。

 真竜をぶっ殺すか、しくじってくたばるか。もう一蓮托生ってわけだ」

 

 色々あって開き直ったか――いや、覚悟が決まったと言うべきか。

 

「良いのか? どうも今の俺は割とポンコツみたいだぞ?」

「だからって手を切って、そんで浮かぶ瀬が何処にあるよ?

 逆に手を貸す分だけ恩を売れると考えれば、そう悪くない話だろ」

 

 それに、一度決めた取引を反故にするには相手が怖いと、イーリスは肩を竦めた。

 うん、それは確かにその通りだろう。

 俺は兎も角、もう一人は絶対に怒らせては駄目な相手だ。

 

「……よし、色々話も出来てスッキリしたわ。

 これで後は進む事だけ考えればいいな」

「だなぁ。具体的にこれからどうするかとか、ちゃんと決めた方が良いだろう」

「ええ、その通りね」

 

 するりと。

 俺とイーリスの会話に、もう一人の声が自然に入ってくる。

 但し……なんかこう、声の調子が凄く底冷えしているような。

 

「おはよう、二人とも」

 

 いつの間に起き出していたのか。

 寝室の扉を開けて、其処には薄衣一枚のアウローラが佇んでいた。

 可愛らしい微笑みは、しかし全力の不機嫌が封印されている。

 

「あぁ、おはよう。いや、起こしちゃ悪いと思って」

「ねぇ、レックス」

「はい」

 

 有無を言わさぬ圧力に、思わずその場で姿勢を正した。

 イーリスなど言葉もまともに出て来ない状態になってしまった。

 そんな二人を見下ろしながら、アウローラはニコリと愛らしく微笑んで。

 

「――私が寝ている間に、貴方たち随分と仲良くなったみたいね?」

 

 どうやらそれが、詩に語られる聖女様の怒りの原因のようだった。

 

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