無垢な遊び

前花しずく

第1話

 職員室が爆発した。先生はみんな死んだ。


 教室では始業の時間を大幅に過ぎているのに先生が来ないため、お喋りが白熱していた。

「ちょっと俺様子見てくるわ」

 三十分経っても誰が来る気配もないので、一年二組で一番背の高い柿沢が職員室へ走った。

 来ないんだからわざわざ呼びに行かなくてもいいのにー、と呼びに行くのを引き止める声も少し上がったが、それでも三十分の待ちぼうけは流石に気になると見えて、誰もそう強くは引き留めなかった。

 もちろん、職員室は爆発したので何もない。職員室だけでなく、その上にあった三年一組の教室と、隣の校長室に放送室も黒くなって崩れていた。

「大変だ! 先生みんな死んでる!」

 どういうこと? 冗談つまんねーぞ! 柿沢の言葉で教室はさらに色めき立った。

「嘘じゃねえよ。職員室どころか二階全部真っ黒焦げだぜ。嘘だと思うなら見てこいよ」

 柿沢が興奮した様子で言うと、馬鹿にしていた生徒男女数人が廊下を走って見に行った。確かに壁も柱も真っ黒で、焦げ臭さが鼻を刺す。女子は転がっている人型の黒い塊に悲鳴を上げた。

 柿沢の言うことが本当だったと伝えると、教室は一層えらい騒ぎになった。騒ぎ声で窓ガラスが割れそうだ。男子は興奮であーでもないこーでもないと盛り上がっているし、女子は女子で震えてたり泣いてたりヒステリックに叫んだり様々だ。

 そんな中、一年二組で二番目に頭のいい健司が教壇に立った。

「でもみんな。先生がいなくなったってことはもう勉強しなくていいってことじゃん」

 教室は一気に鎮まりかえった。驚き呆れてふざけるな、と怒り出すのかと思いきや、生徒たちの反応は意外なものだった。

 そう言われれば! 確かに! 生徒はみな健司に賛同したのである。怯えたような悲しいような雰囲気は一気に前向きになった。健司は得意げな顔をした。

「まってよ。何言ってんの。人が死んでるんだよ? 早く警察呼ばないと」

 唯一、学級委員の紗江だけが健司にたてついた。クラス中の視線が健司から紗江に移る。

「うるさい、いい子ぶりっ子。気付かなかったってことにしとけばいいだろ」

 そうだそうだ! ぶりっ子さざえ! クラス中から紗江に対して罵声が飛んだ。ものも飛んだ。筆箱の金属ファスナーが紗江に当たって、紗江の腕に血が滲んだ。

 うわ、筆箱汚れたんだけど! サイテー! 生徒たちはさらに暴力を振るって、とうとう紗江は動かなくなった。

「靴と手が血だらけなんですけどー」

 生徒たちは紗江の制服を剥ぎ取り、それで自分の手と靴を拭いた。海斗と日比谷は紗江の下着をこっそり自分の鞄に突っ込んだ。身ぐるみを剥がされた紗江の身体はベランダから捨てられた。怯えて震えたり、泣いている生徒は誰もいなかった。

 スマホを無断で持ってきていた生徒はゲームをして遊び始めた。コンセントもあるからいくら遊んでも大丈夫。彼らは思う存分ゲームで遊んだ。

 スマホを持っていない生徒は絵を描いたりお喋りをしていたが、暫くすると流石に飽きたと見えて、バスケ部の彩芽がスマホで遊ぶ男子の集団に声を掛けた。

「ねぇ、もしよかったらでいいんだけど、少しでいいからスマホ貸してくれない?」

 斉川の腕を指で撫でながら、上目遣いでお願いした。彩芽は自分の魅せ方を分かっていた。

「えー、どうしよっかなー」

 斉川は明らかに口元を緩ませてとぼけた。斉川は分かりやすい男であった。

「じゃあ、女子はおっぱい見せてくれたら貸してあげる」

 気持ちの悪い笑みを浮かべて、斉川はそう言った。斉川は気持ちの悪い男であった。クラス中の女子が斉川の悪口を口にした。

 彩芽は仕方なく諦め、今度は柿沢のグループの元へ向かった。スマホを持っているのは、この二つの男子グループだけだった。

 彩芽は柿沢にも斉川にしたのと同じように擦り寄ったが、柿沢は何の反応も示さず、貸すことも拒否した。柿沢には二年の彼女がいるし、彩芽も駄目であろうことは分かっていたのですぐに諦めた。

 どうしたものかと彩芽が考えあぐねていると、突然後ろから何者かに抱きつかれた。咄嗟に振り払うと、抱きついていた斉川はよろめいて近くの椅子に座った。

「ほらほらー、スマホ貸して欲しいんでしょー? 見せてよ早くー」

 斉川は心底気持ちの悪い男であった。女子はいよいよ臨戦体勢に入った。

「近付かないで! 変態!」

「いいから見せろって言ってんだろ」

 斉川も斉川で、何故か意地になっていた。急に彩芽に掴みかかったかと思うとワイシャツを力任せに左右に引っ張った。ボタンがいくつか外れて飛んだ。

「やめて! 離して!」

 彩芽は生まれて初めて誰かに救いを求めた。でも斉川は完全に歯止めが利かなくなっているらしく、両腕を掴んでさらに詰め寄ろうとする。他の男子は囃し立てるか、他のことに夢中で興味も示さないかのどちらかだった。

 ドスッ。鈍い音がして斉川の動きが止まった。手芸部の香奈が裁ちバサミを斉川の首に後ろから突き立てたのだ。赤黒い血が噴水のように噴き上がり、香奈の眼鏡を染めた。彩芽が退くと、斉川はその体勢のまんま顔から地面に崩れ落ちた。女子は何度も何度も動かない斉川の頭を踏みつけた。三十七回目で斉川の頭蓋骨は軋み、三十九回目でスイカのように潰れた。

 彩奈を助けた香奈に女子はみんなしてありがとう! かっこよかったよ! と声を掛け、血に塗れた顔や服を拭いた。香奈は清々しそうな顔をしていた。結局、固まってしまって落ちないので、香奈は血をトイレに洗いに行った。

 彩芽はちやほやしていた相手がいなくなると奥歯をギリギリと噛んで、何の前触れもなくさっきまで斉川と一緒にいた男子のグループに机を投げ付けた。机は計三人に当たった。日比谷は当たりどころが悪かったらしく、首がくの字に曲がってそのまま倒れた。他の二人は腕を軽く擦りむいた。

「元はと言えばあんたたちがスマホ貸さないのが悪いのよ!」

 彩芽の行動を見て、そうだそうだ! と他の女子も机を彼らに向かって投げつけた。誠也は咄嗟に頭を腕で庇ったが、手首があらぬ方向を向いた。あとの三人も重症ではないものの打撲を負ったようだ。

「何すんだよ! 殺す気か!」

 誠也が痛みで泣きそうなのを堪えて彩芽を睨みつけるが、それに今の彩芽が怯むわけがなかった。机を直上に持ち上げると、天板の角を誠也の頭に振り下ろした。今度はもう、腕で庇うことはできなかった。脳天に突き刺さった天板は頭の中身を押し出して、目、鼻、口、耳、いろんなところから汚いものが噴き出した。飛んできた神経が微妙に繋がった目玉に、残された男子三人は腰を抜かす。

 それでも机は容赦なく降り注いだ。金淵は椅子の足で肋骨を折られ、仰向けに倒れたところをやられた。ワイシャツの下に内臓の類が溜まっている。小太郎は頭を掠って気絶したところにカッターでトドメをさされた。

 光一はそばにあった机でガードをすることに成功していたが、トイレから戻ってきた香奈に後ろから教科書の入った鞄で殴られ、彩芽に睾丸を蹴り潰され、声が枯れるほど叫んだところで机を叩き込まれた。

「他の男子も、誰もさっき私を助けてくれなかった! クソ野郎共!」

 彩芽の暴走は止まらない。残った六人にその生気のない目が向けられた。これまで我関せずを貫き通してきた柿崎たちや、スマホを持っていない男子も流石に身構えた。

「ちょっとまてよ」

 そんな緊張状態の中、男子の中で唯一声を挙げたのが、朝からずっと教壇付近に陣取っていた健司だった。こんな状況にも関わらず、気味の悪い笑みを浮かべている。

「お前がそんなこと言えるのか?」

「は?」

 彩芽がまた机に手をかけるが、それを無視して健司は香奈に目を向ける。

「香奈、お前いじめられてんだってな」

 唐突な健司の質問に、香奈は疑問を抱きながらも頷く。一方、机を投げようとしていた彩芽は青くなった。

「それで、お前はいじめてるヤツが誰か知らないんだってな」

「うん。いつも、陰で色々やられてて、犯人が分からなくて」

「香奈、お前をいじめてた犯人はな」

「まって、分かった、もう何もしないから」

 彩芽が交渉をしようとした時には、もう全てが遅かった。健司は彩芽を指差す。

「彩芽、本郷、それから雪乃だ」

 健司の楽しんでいるとも思える言葉に、彩芽は絶望を感じた。本郷と雪乃の二人も肩を寄せ合って震えている。香奈はそれに何を応えるでもなく、無表情のまま彩芽に近付いていく。

「香奈、ごめんね、いや、ち、違うの。私はあいつらに頼まれてやってたっていうか」

 はあ? あんたが言い出しっぺでしょ! 三人が醜く責任を押し付け合おうと、香奈の顔色は変わらない。

「いや、そのまって。わかった! 謝る! 謝るから! ごめんね、仲直り! これからはもう絶対しないから! ね、ね? 仲直りの握手!」

 彩芽は震えながらも右手を香奈に向かって差し出す。香奈はふっと微笑み、その手を取って握った。次の瞬間、彩芽は短く悲鳴を上げて飛び退く。手の甲には大量の縫い針が刺さっていた。

 香奈は斉川の首に刺さったまんまだった裁ちバサミを抜き、彩芽に向けた。

「お前がお母さんの形見を壊したのか」

「お母さんの形見? そんなの知らな」

 惚ける暇もなく香奈の持つハサミは彩芽の右肩に突き刺さっていた。抜くと、喉の痛そうな叫び声と共に大量の血が流れ出た。

「お前がプールの時下着を盗んだのか」

 次は胸にハサミが食い込む。傷口から空気が漏れ、彩芽はもう叫べなくなっていた。

「お前が筆箱にカッターの刃を入れたのか。お前が! お前が! お前が!」

 うつ伏せに倒れ込んだ彩芽の背中に、香奈は何度も何度も背中にハサミを突き立てた。体内の血が尽きたのか、もうハサミを抜いても血は吐き出さない。

 彩芽の背中がユッケになったところで、ふらふらと立ち上がってあとの二人を見た。他の女子たちは二人から離れて軽蔑の眼差しを向けている。本郷は失禁して生暖かいものが腿を伝う。雪乃は雪乃で過呼吸に陥っていた。

 香奈は近くの机に出ていた電子辞書を持って、本郷の頬を思いっきりはたいた。液晶の割れる音がする。往復でビンタをし続けると頬の骨が変形し、唇から出血して目が虚ろになってきた。本郷の足の力が完全に抜けたところでボロボロになった電子辞書を再びハサミに持ち替え、胸ぐらを掴んだ。

「そういえばお前、援交してるんだよね。ヤリマンならこれくらい入るでしょ」

 声もなく首を横に振る本郷を無視して、香奈は勢いをつけてハサミを股に突き刺した。本郷は机の上に大きく仰け反る。香奈はさらに何度も何度も突き刺した。本郷のスカートが真っ赤に染まる。五回もしない内に、本郷は痙攣して動かなくなった。

「雪乃ちゃんはテニスのボールね。ちゃんと雪乃ちゃんのラケットで打ってあげるから安心して」

 香奈はそう言って雪乃のラケットをラケットケースから取り出すと、間を置かずに当然のように雪乃の頭をラケットで「打った」。しかし、雪乃の頭は飛ぶことはなく、変な姿勢でその場に倒れただけだった。

「もう、何で飛ばないの? あ、そっか、身体、邪魔だもんね。そっかそっか」

 香奈は笑顔で雪乃の首を裁ちバサミで切り取ると、髪の毛を掴んで持ち上げた。それをラケットで打つと、今度はちゃんと飛んで、ベランダを超えて落ちていった。

 それで終わりかと思いきや、今度は教壇の健司の方を向き、人差し指を真っ直ぐ向けた。

「お前も、犯人を知っていたくせに言わなかった。許さない」

 一直線に健司の方へ歩いていく。しかし、怒りのあまりちゃんと周りの危険を把握はできていなかった。教壇に立っていた健司が教卓を蹴り倒すと、香奈の足をちょうど押し潰す形になった。身動きがうまく取れなくなった香奈が恨めしそうにもがく。

「女が男に勝とうなんて百年はえーよ。柿崎」

 健司が声を掛けると柿崎はスマホから手を離し暴れる香奈の元へやってきた。柿崎は健司の配下だったのだ。そして少しだけ振りかぶって、香奈の鼻っ面を殴る。眼鏡が割れ、鼻の骨は陥没した。気絶したのか、香奈はもう白目を剥いて動かなくなった。

「お前らも俺に逆らったらこうなるからな」

 それを聞いてやっと教室内は静かになった。すると、今までずっと何も口出ししてこなかったクラスナンバーワンの詩音が挙手して発言をした。

「ずっと気になってたんだけど、他のクラスの奴らはどうしてんの? 先生がいないのは分かるけどこれだけ暴れ回ってたら流石に気になって見にくるでしょ」

 よく考えなくても当然に浮かぶ疑問だ。健司もそれは気になっていたらしく、教壇から下りて柿崎に何やら耳うちする。そして校長のようにわざとらしい咳払いをすると再びみんなの方に向き直した。

「お前の言う通りだし、俺と柿崎、詩音の三人で他のクラスの様子を見に行く。他の奴らは残ってろ」

「廊下に出て二人でリンチとかやめてよね。あんた、私に嫉妬してるでしょ」

「そんなことはしねえよ」

 不思議なことに、電気はついているのにどの教室も静まり返っている。よく見てみると、椅子や机が少し乱れていて、その隙間に生徒が折り重なって倒れていた。

「何があったのかしら」

 詩音が手を顎にあて考えている中、健司はいち早く状況を理解したらしく、薄笑いを浮かべた。

「じゃあ一応死体の様子調べるか」

「それもそうね。外から見てるだけじゃ死因すら掴めないし」

 詩音は普通に教室の戸を開けて中に入ろうとした。が、次の瞬間青ざめた顔で飛び出てきて、泡を吹いて倒れてしまった。

「やっぱり毒ガスの類か。柿崎、取っ手を持たずに戸の背を押して閉めろ。……クラスナンバーワンが聞いて呆れるぜ」

 二人は学校全体の状況を把握すると、詩音を置いてさっさと教室へ戻った。その結果を聞いてももはや誰も驚く者はいなかった。誰がなんのために、どうやってガスを充満させたのかは依然分からないままだが、彼らにとってはそれはどうでもよいことであった。

「さて、そろそろ昼飯の時間だけど飲み物とかお菓子とか欲しいな。女子、お金持ってるやついる?」

 健司が訊くと、女子は顔を見合わせながらも数人手を挙げる。

「それじゃ女子、なんか買ってきて」

「はあ? 自分で行きなさいよ」

 当然女子は反発する。しかし健司はニヤニヤとしたその笑みを消しはしなかった。

「お前らは俺らの奴隷なんだよ。行かなきゃ殴るだけだ」

「断る」

 ほとんどの女子が怯える中、これまで一切口を出してこなかった女子がきっぱりと言った。ショートヘアの杏樹である。彼女が言ったことで勢いづいたのか、他の女子も続いて断った。健司は口を「い」の形にして不機嫌そうになった。

「お前ら、やっちまえ」

 健司の指示だ柿崎ら六人の男子が女子に迫った。女子は一度反抗した手前、怯えながらも反抗は続ける。

「べ、別にあんたたちなんか怖くなんか……」

 強がりを言おうとしてるのを待たず、柿崎は容赦なく鉄拳を埼玉に浴びせた。一発だけで意識が飛び、歯が数本血を撒き散らしながら飛んで行った。

 一方、海斗は杏樹に殴りかかったところを反撃を受けていた。杏樹は常人には不可能なレベルの無駄のない身のこなしで海斗の腹に膝を入れた。崩れ落ちる海斗の顔面にアッパーを食らわせ、完全KOとなった。

「何を!」

 他の男子も寄ってたかって杏樹を狙うが、攻撃が当たらない上にカウンターで致命傷を負わせてくるため、ちっとも勝機が見えない。

「てめえ何もんだよ!」

「私ムエタイやってんの。喧嘩仕掛けてきたのはあんたらでしょ」

 その言葉に数少ない男子は固まる。

「杏樹ちゃん助けて! 私も殺されちゃう」

 柿崎に次々に殴り飛ばされていく女子が杏樹の強さを見て助けを請いに行くが、意外にも杏樹はそれを突き放した。

「私は別にあなたたちを守るとは言ってない。自分の身は自分で守って」

 そんな死刑宣告に、女子は青くなってそのまま柿崎に殴り殺されていった。男子も杏樹に一人ずつ消されていき、あっという間に健司、柿崎、杏樹の三人だけとなってしまった。

「女子の分際で調子に乗るなよ」

「口を動かしてる暇があるならかかってきなさいよ」

 杏樹の挑発を受けてすぐ、柿崎は猛スピードで右腕を振り下ろした。しかし大きいモーションは見切られて避けられた。杏樹はそのまま背後から回し蹴りを食らわせ、よろめいたのを発端に足に対して連続蹴りを披露。痛みが蓄積し膝をついたところを顔に膝蹴りを入れ、完全勝利を収めた。

「あとはあんただけよ」

 コマを失った健司はもはや机から外した鉄パイプを持って震えてるだけのただのガキである。鉄パイプを振り回したがすぐに奪われ、一発腹を殴られて乱闘は終了した。

 これで落着かと思われたが、その時教卓の方で動いた影があったのを杏樹は見逃さなかった。

「誰?」

「喧嘩終わったの? 怖かった……」

 見に行くとそこにはチビの根暗そうな男子、影山がうずくまっていた。

「何あんた」

 と杏樹が油断して近付いたその瞬間、袖の中から霧状のものを吹きかけた。杏樹は飛び退いたが既に遅く、その場で倒れて眠り込んでしまった。強力な催眠スプレーだったのだ。

 眠ってしまった杏樹をこれまた何故だか持っている手錠や縄で雁字搦めにし、それをまじまじと見てはニタァと笑うのだった。

「……私に何をした」

 起きた杏樹は当然脱出を図るが、器具がかなり頑丈な代物で、怪力であってもビクともしない。そんな滑稽な姿を影山は嬉しそうな表情で見つめた。

「やっぱり君が勝ってくれた。必ず勝つって信じてた。今日のこと、ボクが全部仕組んだんだよ。職員室で煙草吸う馬鹿がいるのは計算外だったけど、それ以外は全部予定通り。ひひひ、二人きりだね、杏樹さん。もう逃げられないからね」

「だ、黙れ!」

 影山のことを睨みつけながらも恐怖で引き攣る杏樹の頬に、影山はそっと手を当てた。そしてゆっくり自身の顔を近付け……。

 次の瞬間再び学校は大爆発を起こした。燻ってた火が他の教室のガスに引火したのだ。今度は一部だけでなく学校全体に燃え広がり、鉄筋すらもねじ曲がる程の大爆発を起こした。


 結局、この事件の生存者は瀕死で外に投げ出された紗江ただ一人であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無垢な遊び 前花しずく @shizuku_maehana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説