Episode 2. EDEN
指宿の収納デッキの装甲越しに、流浪の掛川の花火師のそれを間近に見た思い出が過った。だがそれは華やかな打ち上げ花火のそれではなく、この炸裂音で確かに死に行く者がいる刹那の破裂音である。
不意に艦内放送の爽やかなアナウンスが流れる。
「第四世代揚陸艦指宿艦長の竹井武蔵です。見て聞いての通りアメリシア帝国第8艦隊の多弾頭一斉射で、敵封鎖艦隊は撃沈ほぼである。ここまま進軍し、旧南極大陸の氷冠が取れたハードサンライズに上陸するも、釘を刺しておく。ハードサンライズの緑葉地帯は結界地域ほぼで、ロジアス連邦と白鯨封建共産国の実行支配圏は臨海部の僅かだ。結界境界線迄追い詰め過ぎると最後の悪あがきで痛い目に合うから白旗警告は決して見逃すな。皆の幸運を祈ります」
収納デッキの上陸部隊は押し並べて丸窓に集まり一方的な戦果の確認に入る。流石はEユナイトの諜報組織の口添えは優秀と言う事か。ロジアス連邦は緯度を縦断する広大な連邦組織の統治に手を焼いている。白鯨封建共産国は前世紀からの圧政でそのまま南半球の雄となり、余力はアフリニカルの覇権を握ろうも土着の戦士のテロリズムで一進一退と手詰まりだ。この現状下で、実質不入地のハードサンライズに戦力は一切避けない。勝機はアメリシア帝国に確かにある。
そして艦内のサイレンと共に、アナウンスが鳴り響く。指宿は予定通り艦艇上陸を目指す、衝撃で顎を砕くなと。
堪らず俺は吐き捨てる。
「ふん、結局は外国籍は捨て駒かよ、このまま陸に上がった魚状態で、橋頭堡になれなんてどうかしてる」
理路整然に、俺の第九分隊長瀬古ドリスさんが答える。
「ファビアーノも結局演習浅い系か、第四世代揚陸艦ともなると馬力が段違いだから、海岸に着底しても離脱は可能なんだってば。まあ今から皆の心配に回るなって、良いから肩の力を抜けよ」
サイレン音が激しくなると同時に、震度5強相当の揺れが来てはそのまま指宿の艦全体から鈍い音が響き渡る。これが上陸なのか。
そして前面の収納デッキゲートが開くと激しい陽光が差し込み、第一分隊から順に飛び出しては、抵抗の銃撃音の中に飛び込んで行った。
そして間も無く第九分隊も飛び出そうかの時に、俺の背中にノエルを導こうかのサインを出すも、苦い顔で首を振られる。
「分かってないな、ファビアーノも。君の背中より無人駆逐四脚戦車DME7デストロイアの背後にいた方が貫通弾喰らわないのだけどね」
そしていざ、ハードサンライズの砂浜に上陸するも、いきなりの衝撃音をいくつも聞いた。アメリシア帝国のフラッグシップDME7デストロイアと、白鯨封建共産国の無人戦車精穀四十二型通称上海蟹が、がっぷり四つに組んでは鈍い音を立てては引き裂き押し通る。それはそうだ戦車のフレームそのままのDME7デストロイアと、アフリニカルの農業機転用からのトラクターではまるで話になる筈も無い。
共に前進するノエルがしたり顔で微笑むが、俺は分かってても言う。
「ノエル、まだ揚陸艦と実効支配部隊の砲台によるレールガーンが飛び交ってる、流れ弾に当たるなよ」
不意にノエルが支給拳銃のM1933をショルダーホルスターに仕舞い手を差し出した。
「ファビアーノ、ここよ、行くわよ」
分かってる、この破竹の勢いなら気付かれもしまい。ノエルの手を引き寄せ右肩を抱え込んでは大きく息を吸いこみ、第一回目の瞬間転移行った。スペースイン、俺達の姿は収縮してゆく空間の中にはたと消えた。ただその後だった筈だ、急激に空の色が橙色の幻想的印象に包まれたのは。
ブーム音と同時にスペースアウトしたのは、ロジアス連邦最前線内側だった。堪らずに右腕のGPSデバイスを見つめた【89.1M】。まずいこの混戦でイメージが余りにも近すぎた。ギフトの真髄は想像有りきで何でも引っ張ってこれるものでは無い。どうする。
不意にノエルが素早くM1933を振り抜いた、阿保過ぎる。いや、この唐突的な状況でロジアス連邦最前兵が悲鳴を上げては腰を地面に落としていった。ノエルの感応力の事だからトリガーに反射しない事での威嚇だろ。そして、ノエルが俺に右腕にしがみつき、俺は瞬間転移に応じた。
次のブーム音と同時にスペースアウトした場所は、どうしてもの約束の場所だ。右腕のGPSデバイスの表示は【701KM157.7M】。この禁忌の跳躍で一体何人死んだの歯噛みしかないが、ノエルに背中をバンと気合を入れられたから、それでも先に進むしか無いって事か。
確かに前人未到のEDENの結界内に入った感触は有る。それは幼少の頃、目測誤って瞬間転移で飛び込んだ聖サンタカタリナ教会の告解ラウンジの赤く厚い敬虔なカーテンに包まれた感覚だった。まあえらく怒られたのは今となっては思い出の一つか。
そして目の前に聳えるは、事前にレクチャーを受けていたEDEN Gateになるのだが、まあだ。
ノエルが堪らず、EDEN Gateにヘディングをかます。
「痛っつ、やっぱり鉄相当の何かだよ。近いのはカリフォルニア帝国博物館で内覧したタングステン巨大球体に近い何かかな。そんな感じで無味無臭だね。このEDEN Gateのそっち側はおろか、もう思念さえ残って無いなんて、はあ手に追えないね」
まあそんな所だろう。この見上げた大陸そのものの外周を延々と続く高さ120m相当のEDEN Gateのレクチャーなんて、黒田師団長と常盤特任教授の勉強会でも想像を超えていた。最悪ロドス島の巨像群が侵攻出来ない位の巨壁だったが、この漂白の巨壁の前では何であろうと為す術もなく大渋滞を起こす筈だ。ここは奮起するしか無いのか。
「まず一つ、このEDEN Gateの頂きを目指して俯瞰を見る。ノエルはそこに専念して、俺に感応波送ってくれ。そこから次の瞬間転移先を探す」
「ファビアーノ、瞬間転移のインターバルは3秒じゃなかったかな、跳躍しても大地にガツンだよ」
「いや、死の瀬戸際だと1秒そこらに短縮出来る筈さ、ノエルが怖がって瞬きしなかったら、その先へ、まあか、」
「今更口籠るかな、最前線ではこの瞬間も何人も死んでるんだよ、禁忌も何ももはや紛争なんだから、気持ちを切り替えてよ」
もっともだ。ここ迄来て後戻りは出来ない。EDENの結界を越えたなら出来る筈だ。EDENにある宝物Last Eden Waltzに何処まで古のテクノロジーが有るか分からないが、このEDEN一帯の佇まいから、この歪に仕上がった新世界を変える何かを持ってる事は察して余りある。
ノエルが俺の首に手を回してはしがみ付いた。準備は万端、大きく息を整え瞬間転移に入った。
スペースアウトした瞬間、高さ120m超えた筈なのに目に入ったのは尚もEDEN Gateだった。俺とノエルの思惑が渾然一体となって瞬時に判断したのはEDEN Gateが防壁として伸長したであった。それならば、上空を見上げてはEDEN Gateの側面を大いに蹴り上げもっと跳ぶ、スペースイン。
連続瞬間転移のスペースアウト。右腕のGPSデバイスのジャイロの標高は【8KM891.2M】を告げ、旅客機が飛ぶ高さに迄に至った所で、辛うじてEDEN Gateを超え見下ろす事が出来た。
EDENの中央が確かに見えた。黒田師団長と常盤特任教授の和やかな勉強会で論じられたEDENはかなり手入れのされた森林だった。誰がそんな手入れしてるんですかになったが、その通り神の御心は人知を超えるものさが即答だった。
自然落下して行く中で、Last Eden Waltzは何処だ。ワルツ、そう言えば高校のプロムナードのチャイコフスキーの「花のワルツ」でパートナーのノエルの口が微かに動いていた、あれは。ノエルと思念が一瞬で交差して、胸に温かいものが降りた、口でしか言えない事、今度はきちんと聞きたい。
ノエルが必死に指差しては小高い平山を指差した。そこか、目標を定めスペースインした。
痛烈なスペースアウトが始まる。小高い平山は標高500m想定したが、実際は300mそこそこだった。まずい、今日の兵装は瞬間転移の為の軽量防弾ジャケットにトレッキングブーツに拳銃一丁の軽装備だ。いや辛うじて俺には皆にこぞって流体筋肉スーツを着せられていた。筋肉増強でも3回しか使え無い。俺とノエルの思念が瞬く間に交差し、着地衝撃で1回、受け身で1回、そしてもう1回受け身で全身砕け無いかだ。ノエルが死ななきゃ良い。ここで言わすかと瞬時に思念波が雪崩れ込んだ。
そして思念波が交差したまま、着地1m上空で流体筋肉をオンし循環させる。衝撃で両足が折れるかと覚悟はしたが、関節も筋肉も痛まずバウンドした。予想外だったのは、ここで流体筋肉が2回オンされ気化排出された。そう今の流体筋肉スーツはLサイズ、二人分を抱える事は想定していない。と言うか流体筋肉は近接格闘戦向けだから、プロキックボクサー以上の衝撃など想定されてはいない。
続け様に流体筋肉オン、左手で思いっきり地面を叩き地煙を上げるも、転がり続けては流体筋肉が気化排出され、見事に流体筋肉を使い切った。
このまま俺とノエルで回転し続け止まるかと思いきや。
(ファビアーノ、祈念塔にぶつかる)
見えた、確かにやたら固そうな2m超の祈念塔がその先に有る。このまま俺が盾になっても、このままぶつかっては二人共内臓破裂する。
その刹那、遥か上空より光、いや御光が降り注ぎ、俺達は何故か急失速した。それは祈念塔の僅か30cmの前で止まり。束の間の安堵の後胸のクロスを辿り、俺とノエルは主に祈りを捧げた。
俺とノエルは、ここ迄果たして瞬息も1100kmを踏破して、しばし感慨の中にいた。この間にも沿岸部では死闘を繰り広げているのに、そんな雰囲気になってしまったのはEDENがどうしても楽園だったからだ。今や湿潤地帯のEユナイトでもこんな光景は無いだろう。と言ってもブリュッセルとその近郊位でしか信仰の為の修学渡航しかしてないから比べるのもどうかな。
そうこの旧南極大陸事ハードサンライズは、21世紀では氷冠だったと言うのに、この手入れされた森林は、しかも芝生もふかふかで、尚且つサッカースタジアム並みに小石さえ落ちていない。一体どうなっている。
意気揚々とノエルが腰を上げた。
「さてと、Last Eden Waltzの詩篇を頂いて、持ち帰らないと」
「ノエル、持ち帰るも何も、何も無いだろう、まあ掘るしか無いだろうな、どの位掘れば良い30m位か」
「それ、全然違う。祈念塔の思念波によると、第一世代文明の二重螺旋鍵があれば開くらしいわ」
「鍵って、結局遺跡物かよ、まあ根気良くここいら一帯探せば良いて事か。掘るも探すも、どっちも根気はいるよな」
「ファビアーノ、そのどちらでも無いわよ。鍵は祝詞そのもの、正しく唱えれば、Last Eden Waltzは発現する」深く息を吸うと「Promissionis filii tui locus. Ego cibum volo loqui. Olivam motu corporis quaerit. Ut sciamus inmortales panem dari. Vinum bonum quotidie pascit. Cantabo. hic…」
ノエルを祝詞を何故か遮るかのように、またしても御光が注ぎ集約して行く。その光が次第に人体を司るかのように実寸の体をなして行く。そして現れ出でた姿は、恐らく阿弥陀如来。恐らくは西洋人が土着のセンスで書き上げた様な淑やかな女性像に近く、何故エデンに阿弥陀如来かが激しく引っかかった。
そして淑やかな阿弥陀如来が口を開く。
「ファビアーノさん、ノエルさん、あなた達の活躍は衛星軌道から力強く見守っていまいした。ただ、Last Eden Waltzを再び起動させる事はままなりません」
「仏様にそうは言われても。ここは聖書由来のEDENであって管轄が違うかなと。ああでも今と同じさっきの御光で助けて貰ったから、ありがとうございますは言わないとか」
「ファビアーノ、仏様と違うわ、これはSF映画でつい見かけるホログラム映像。それで何処の星系の宇宙人さんなんですか。まず正しく名乗ってから所以を聞きますよ」
「ノエルさんは聡いのですね。これは地球向けに日和った姿ではなく、私の普段の投影です。そう手っ取り早く言えば宇宙人なのですが、細かい事は後日の会議で明らかにします。ただそれでは失礼ですよね。私はおとめ座銀河団の中のエッセルボルト共同体同盟のエルノシアス30137です。地球に降りた際は和やかなお茶会にお招きしたいのですが応じてくれますよね」
「ああ、それはもう。でもおとめ座銀河団って何処にあるんだろう」
俺は懸命に真昼でも空を只管見渡すが、ノエルがこの地球もおとめ座銀河団と俺の尻を叩く。何だご近所さんかで呟いたら、堪らずこのEDENのど真ん中に微笑に満ちた。
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