ささくれ
ロンと仲直りをした数日後。塔に向かって一人で城内を歩いているとエロワ王子に呼び止められた。
「アデール、今いいかな」
「ええ構わないわ。なにかしら」
「ヴェロニクのことなんだけど……あれは、もしかして女性なんだろうか」
最近ずっとつんけんしていたエロワが久しぶりに穏やかに話しかけてきたと思ったら、いきなり何を言い出すのだろうか。驚きすぎて返事が遅れてしまう。
「アデール?」
「あ、ごめんなさい。驚いてしまって。そうよ。ロンは女の子だけど……エロワ、もしかして今まで男の子だと?」
彼は顔を赤くして照れたような表情でそっぽを向く。
「……うん、そうなんだ。ほら、あいつ、いやあの子? 髪短いし言葉遣い汚いし……服も適当、さっぱりしていたからてっきり男かと」
あらー。もしかしてそれもあってロンへのあたりが強かったのかしら。こう、生意気な弟に突っかかる兄的な? ちょっとどういう顔をすればいいかわからなくて困る。
エロワは少し言い訳をしてから背筋を伸ばして続ける。
「そっか。うん。俺の態度は年少の女性に対してとんでもなく失礼だったな。今度ちゃんと謝るよ。あとヴェロニクにチェスを教えてくれって言われいているんだけど、いつならいいだろうか」
エロワが持ち直したのか一瞬で王子様の顔と口調に戻る。それはいいけど、彼はロンが女性だから態度を改めるのだろうか。それを尋ねると、
「それもないとは言わない。女性に失礼な態度を取ってしまったことは事実だ。でもそれだけではない。先日ヴェロニクと話していて怒られたんだ。あたしとアデールの問題に口を突っ込むな、お前と父親との問題は二人で何とかしろってさ」
「え、ロンったらそんなこと言ったの?」
エロワには比較的冷めた態度で接していると思っていたロンだけど、実はそうでもなかったのだろうか。というか何をしたらエロワはロンにそんなことを言われてしまうのか。
「うん。でも俺が悪かったんだよ。ヴェロニクに、ぽっと出の小僧に母親とは言わずとも親愛の情を抱いていた女性を横取りされたようで悔しかったんだ。父上も二人を庇うしね。たぶん母上が生きていて弟ができていたら、俺は盛大に赤ちゃん返りしていたと思うよ。でもアデールは母上ではないしヴェロニクも弟ではない。母上を喪って悲しい気持ちはちゃんと父上と共有しないとダメだったんだ。ヴェロニクがそれに気づかせてくれたからね。八つ当たりをしてしまったことに対する謝罪と、気付かせてくれたお礼と……あと四葉のことも。ちゃんと彼女に頭を下げないといけないんだ」
エロワが立派に見えた。彼はヴェロニクを敵視するだけではなく、ちゃんと言われたことを考えたんだなと。そして自分が悪いと思ったらきちんと頭を下げるのだ。エティエンヌ王がエロワのひねくれについて嘆いていたけれど。雪解けの日も近いのかもしれないと思えた。
「そうね。きちんとお父様と話をするといいわ。ロンの予定は彼女に聞いてちょうだい。あの子はあの子でガルニエのところに通ったり、図書館や友達や、いろんなところで忙しくしているみたいだから」
そう返事をすると彼はわかったと返事をして去って行った。私も再び塔へ向かう。エロワとロンがどんな話をするか楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます