遥かな
アデールにはチラッと言ったきりだったけど、アデールと王様の居場所を教えてくれたのはオウジサマだった。
リゼットにオルゴールを直してもらって王宮に戻るも、アデールはまだ部屋に戻ってきていなかった。どうしよう。待っていたら戻ってくるだろうか。それともかなり怒っていたから今晩は戻らないだろうか。居ても立っても居られなくて部屋を飛び出し王宮内を探し回る。しかし使用人たちに聞いても誰も知らないという。
「もしかして塔?」
でも今日は誰もいないはずだ。だからこそ一人で向かったのか。いやガスパルがいるか。ガスパルに会いに行ったとか。アデールとガスパルはそういう仲ではなさそうだけど。というかガスパルがなあ。
そうなるとまさか城下町? 困った。アデールと一緒でなければほとんど行かないから飲食系以外は全然わからない。それだってアデールとよく行く店くらいしかわからないのだ。
王宮の入り口で途方に暮れていると後ろからとげとげしい声がした。
「何をしているんだ、そんなところで」
「オウジサマ」
「その呼び方止めろ」
「アデールを探してるんだ。喧嘩しちゃって」
するとオウジサマの顔つきが険しくなる。なんでそんなことがオウジサマの機嫌を損ねるのかあたしにはちっともわからなくてイライラする。
「オウジサマには関係ないだろ。ていうかオウジサマだってオウサマと喧嘩くらいするだろうが」
「するかよ。母が死んで、それでも職務を全うしなくてはいけない、荷を何一つ降ろすことのできない父上と喧嘩なんかできるか」
「あのな。オウジサマが何拗らせてるか知らねえけど! あたしとアデールの問題はあたしとアデールで解決しねえといけねえの。だからオウジサマが口を挟むな。それと同じに! オウジサマとオウサマの問題は二人で解決しろ。あたしにもアデールにも関係ねえ」
オウジサマは何も言わない。言いたいことは言ったのであたしもなにも言わない。しばらく沈黙が流れてから、オウジサマがスッと城下町を指さした。
「町に降りてすぐの居酒屋。そこの地下で父上とアデール嬢は酒を飲んでる」
「あ、ありがとう」
一体どういう心変わりだろうか。もしかしたら嘘かもしれないのでその可能性だけは心に留めておく。
オウジサマが指さした方に足を踏み出しかけて、ふと踏みとどまった。
「あのさ。ルーが言ってたんだ。オウジサマはチェスの戦術を考えたり使うのがうまいって。今度教えてくれよ。あたしさ、その場その場の手は打てるけど、中長期的な見方ができないんだ」
「お、おう」
オウジサマは戸惑ったような顔をしながらも頷いてくれた。だから今度こそ走り出す。
「ありがとなエロワ!」
全速力で走ったから、残されたオウジサマが
「あたし……?」
とつぶやいたことに気付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます