濃紺と銀色–11


「……ごめん、いきなりのさん付けキモい。ムカつく。吐きそう」



「やっぱり言ったよキモいって……って、あ、え? キモいのそこ?」



 振り返った陽太はあまりにも混乱しきった情けない顔をしていて、思わず私は笑ってしまう。



「馬鹿はつけなかったよ」



 でもきっと、今の私の顔も、陽太の顔に負けず劣らず火照りすぎて、その熱できっと情けない顔になっている。今が夜でよかった。



何を言ったらいいか分からなくて、鞄の中に手を突っ込み、むやみやたらにかき回す。



すると、爪の先に何かが当たった。



「……だから」



 コレあげる。



 何が「だから」なのか自分でもわからないまま、私は鞄の中から小さなブリキの丸缶を取り出して、陽太へと放った。



 街灯の白っぽい光が、鈍い銀色の蓋の上でちらりと跳ねる。



「……何コレ?」



「ああ、ええと、吐き気どめ? 超強力薄荷飴」



「……なあ、蓋開けただけで、恐ろしいほどすげぇ鼻と目がすーすーするんだけど。いや、すーすー通り越して、なんかすでに粘膜が痛い……」



 強すぎる爽快感に軽く涙目になった陽太が、「でも」と言って、手の中で丸缶を軽くバウンドさせた。



「さっき星野がコレ投げたとき、ちょっとだけこの缶、空飛ぶ円盤に見えた」



「だからそういう無駄なロマンティックキモい。ていうか、嘘でしょ……」



 ――当たった。



 食べ終わったコーラ味アイスの棒を、私はそっと夜空にかざす。



「当たり」という文字の遥か上空を、小さな星が白く流れていった。

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