24、対人戦のようなもの
一打一打が重い。
さすがに神殿騎士ともなれば武に通じている人たちばかりで、数ヶ月テオさんに習っていたくらいじゃ一撃で倒すことなんてことはできない。
普通の手合わせならいいのだけど、今回は神殿騎士たち対ディーンさんと私というものだった。
卑怯、なんてことはない。巡礼神官ともなれば、こんな事態も想定しておく必要があるのだろう。盗賊団や魔獣の群れに囲まれることだってあるかもしれないのだから。
対人戦は久しぶりで、ちょっと流れに乗るのに時間がかかってしまった。
「すみません!」
「気にするな」
横からきた私への攻撃を、木槍を回転させて弾いてくれたディーンさんは、再びテオ先輩と他の神殿騎士たちの攻撃を受け止めることに集中している。
ぐぬぬ、足を引っ張っている感がハンパない。
いや、落ち着こう。
スーパーのレジでバイトしてた時、混雑しているときこそ一人一人丁寧に接客することが仕事を早くこなす近道だった。
私は、私のできることに集中しよう。さばけない攻撃はディーンさんがなんとかしてくれる。
軽く息を吸った私は、短く息を吐き出しながら向かってくる神殿騎士の横腹を突く。
蹴りはしばらく封印だ。私の場合、隙が生まれやすくなってしまう。
「せいっ!」
「ぐっ……!」
右半身を前に出し、相手の攻撃を避けてからの左でいなす。体を回転させつつ肘で相手の鳩尾に打ち込む。
膝で受け止め、そのまま肩に体重をのせるようにして相手へ衝撃を与える。
テオ先輩との実戦で、繰り返しやってきた体術だ。
襲われた時に、武器が無いと戦えないというのを避けるためだったけれど……。
「み、見かけによらず、えぐい攻撃をしてくるな……」
「全部急所を狙ってくるぞ! 防具をしっかり装備しておけ!」
「さすがテオドール団長仕込み……」
あちこちから聞こえてくる声の内容について、ちょっと心外なんですけど。
「ほう、アンタが仕込んだのか」
「なかなか筋が良いでしょう?」
テオ先輩以外の神殿騎士があらかた片付いたところで、補助に入ろうとした私をディーンさんが手をあげて止める。
「もう終わる」
「……余裕ですね。クリスと一緒でも構いませんよ」
槍使いのディーンさんと、剣使いのテオ先輩。
手に汗握る勝負……と思いきや、気づけば地面に木剣が落ちていた。
あれ? 私、何も見えなかったんですけど?
いつ攻撃を仕掛けたの?
「神殿騎士の『奇跡』が使われたら、勝負は分からなかったな」
「何をおっしゃいますか。まだまだ本気ではなかったでしょう?」
「この突きは本気だった。止められたのは驚いた」
くるりと木槍を回すディーンさんを呆れ顔で見ているテオ先輩。
えー、本気じゃないとか本気だとかよく分からないけど、なんか疎外感なんですけどー。
「クリスも、ここまで戦えるようになったのなら、もう大丈夫ですね」
「う、まだ一撃で倒せないです……」
「息もそれほど切れてないようですね。上出来ですよ」
そう言われると、確かに前よりも息が切れなくなっているから、私も体力ついてきたかもしれない。
テオ先輩のおかげだ。ありがたや。
「それに比べて……仮にも神殿騎士と呼ばれる者たちが、神官相手に苦戦するのは問題です。今回の手合わせで彼らの改善点も見えてきましたから、この後の訓練が楽しみですね」
あ、神殿騎士さんたちが涙目になってる。
神殿騎士団の休憩所にて、テオ先輩が手ずからお茶をいれてくれるとのこと。
お呼ばれされたのは私とディーンさん、そしてルッツ君だ。
手合わせは突然始まったからルッツ君と合流できなかったのだけど、途中から見学していたみたい。
そして、私の乱れた髪を結い直すルッツ君は、ひたすら褒めて称えてくれている。嬉しいけど褒めすぎだと思うよ。
「何をおっしゃいますか! 舞うように騎士たちを撃破していくクリス神官は、さながら騎士の女神のごとくでございましたよ!」
「あはは……そ、そうかなぁ……」
「ええ! そうですとも!」
その騎士の女神っぽい人?がテオ先輩の隣にいるんだけど、ルッツ君には見えていないみたいだ。
ディーンさんは見えてるな。これはもしかして……いや、今はやめておこう。
『ここは女人禁制ですが、私は神なので』
うん。知ってる。
それにしても神様多いな、この世界。
『この地にいる水の女神のように、範囲の広いものを司ると大変なのです。気軽に遊びに来ることもできなくなります』
えっと、さっき手合わせの時に紛れ込んでいたけど、アレは遊びだったと。
『テオドールが育て、神々が注目している人間に興味がありましたから、つい』
肩までの黒髪をサラリと揺らし、フルアーマーを身につけながらも動きは軽やかだった騎士の女神は、さながら姫騎士のようで……。
『姫じゃないです』
あ、はい。
「ところで、クリスはいつ頃ここを出るのですか?」
「儀式は一月後と聞いているので、それに間に合えば大丈夫かなと……」
「早めに出たほうがいいですよ。あちらで準備も必要ですから」
「準備?」
テオ先輩が用意したカップは五つで、ルッツ君が少し不思議そうしていたけど、すぐに気づいたみたい。
見えなくても神殿関係者なら「何かが来ている」と察するのだ。
香り高い紅茶の入ったカップに顔を近づけて、嬉しそうに微笑む姫……騎士の女神は、テオ先輩の言葉にうなずいている。
『きっと道中、私のようなものが君に挨拶すると思います。だから余裕を持って出たほうがいいですよ』
「……なるほど」
そうだった。水の
この前の『祈り』の時に、力を貸してくれた神たちにもお礼が言いたいし……。
「ディーン殿の実力は申し分ないですからね。安心してクリスを任せられます」
「ああ、任せておけ」
もしやテオ先輩と相性が悪いのかと思っていたけど、手合わせしたからか友情のようなものが芽生えたみたい。
ディーンさんもリラックスしている感じだし。
あともう一人はどうかと振り返ると、渋い顔をしているルッツ君がゆるゆるとため息を吐く。
「はぁ……確かに、この人の実力は分かりました。ですが、まだ足りません」
「それは何だ?」
「クリス神官の、付き人としての仕事です。完璧にこなせるよう特訓です」
「そうか……わかった」
いやいや、自分のことは自分で出来るよ!?
ディーンさんまで、そんなことに気合い入れなくていいからね!?
『テオドール、これ、美味しいです』
「そうですか。この茶葉を追加で購入しておきましょう」
そこ!! ほのぼのしていないで!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます