第236話 私の決意は
彼女がかつて、イーリョウさんと取引をしながらも行方を追っていた、彼女のお父さんについて。こちらについても全く手がかりも何もないと思っていたのですが……。
「ほんとだよ。この前の戦いで自爆し損ねて生き残った魔狼達の中で、ダイアの娘がいた、って話してた魔狼がいたらしいんだ。その所為で、執行猶予期間中だったボクがまた何かしたのか、って思われて人国軍に呼び出されたんだけどさ……」
『あ、あの時呼び出されてたのって、それだったの?』
オトハさんがびっくりされています。私は知りませんでしたが、ウルさんも人国軍に来ていたんですね。
「うん。ま、後ろ暗いことは何にもなかったから、大丈夫だったけどさ……でもそのお陰で、少しだけ話を聞けたんだ。お父さん、魔狼部隊に配属になってたんだけど、人国への攻撃の際にボクとお母さんのいる地域を避けるために、わざと人国軍に情報を流して、失敗させたんだってさ。しかも、魔国で責任追及される前にさっさと逃げたらしいから、行方不明なんだって……それってさ。お父さん、まだ生きてるってことだよね?」
自分たちの家族がいる地域へ戦火が及ばないように、味方を捨ててまでウルさん達を守ったと、そういうことなんでしょうか。しかも、やるだけやってさっさと逃げた、という辺りが、抜け目ないウルさんそっくりですね。
「だからさ。ボクは今まで通り、お父さんを探すよ。それで、またお母さんと三人でさ、また家族をやりたいんだ……一人くらい、増えても良いかな~って、思ってるんだけどね~……」
「?」
『ウルちゃんッ!』
何故かこちらを見てそんなことを言ってくるウルさんと、頬を膨らませて怒っているオトハさんです。何でしょうか。どうしてウルさんの家族の話で、私の方を見てくるのでしょう。私関係なくないですか?
「……ワイは……ワイは、バフォメットを倒すッ!」
私が首を傾げている横で、声を上げたのはシマオでした。その声には、決意がみなぎっています。
「あれだけ騙されて、コケにされて……挙句、手も足も出んかった……バフォメットがいなくなってもうて、おとんもまた沈み気味やけど……アイツは……アイツだけは、ワイが決着をつけなあかんのやッ!!!」
「シマオ……」
お得意のハンマーをドンっと床に置くと、高らかに宣言しました。
「待っとれやバフォメットッ! ワイを騙して友達ら危険な目に遭わせた報い……必ずこのハンマーで受けさせたるからなーァッ!!!」
まさか魔国の魔皇四帝と同じ食卓を囲んでいたなんて、思いもしなかったでしょう。全ては偶然だったのかもしれませんが、それでも、彼にとって許せないことに当てはまります。だからこそ、自分の手で済ませたいのだと。
『……わたしはみんなのお陰で、今ここに居られるんだ』
シマオの次に手を動かし始めたのは、オトハさんです。喋れない彼女は、手と腕を動かして、私達に自分の思いを伝えてくれます。
『エルフの里に連れ戻された時……みんなが来てくれて、本当に、本当に嬉しかったの。閉じ込められて、一人で勉強させられてた時から考えたら、今みんなと居られるのが嘘みたいで……だから、お手伝いさせてください』
はっきりと、彼女は魔道手話で、そう言ってくれました。
『みんなのお手伝いをさせてください。今度はわたしが、みんなを助ける番。助けてくれたから、わたしも助けてあげたいの。わたしなんかで何処までできるのかは解らないけど……よろしくお願いします』
そうして、ペコリ、と頭を下げたオトハさん。私達はそれに対して、微笑みながらお返事しました。
「……ありがとうですわ、オトハ。貴女が居てくれれば、百人力ですわッ!」
「オトちゃんが手伝ってくれるなら、本当に心強いよ」
「サンキュー嬢ちゃん。また、頼むぜ」
「オトハちゃんの手伝いがあれば、怖いもんなしやなッ! でもまたワイのこと盾にすんのだけは止めてなッ! マジでッ!」
『……ふふふふっ』
シマオの一言もあり、場に緩やかな雰囲気が流れました。そしてオトハさんは、私の方を見ます。それに続いて、皆さんもこちらを見てきました。最後は、私ですか。
「……まずは、お礼を言わせてください。皆さん。こんな私なんかの友達でいてくれて、本当にありがとうございます」
初手はお礼からです。これだけは、本当に、いくら感謝してもし足りないくらいなので。
「……異なる世界から連れてこられて、右も左も解らなかった私でしたが……皆さんのお陰で、何とか生きてくることができました。バカですし、力もない私でしたが……一つだけ、やりたいことがあるんです」
一度、私は息を吸います。オトハさんだけにしか話したことなかった、私の思い。
「……私は、この人国と魔国の戦争を、終わらせたいと思っています。それはかつて魔国で私を助けてくれたジュールさんの願いでもあり……そして私を生かしてくださった、ノルシュタインさんの思いでもあります……それに、皆さんにはお話しておりませんでしたが……魔国から逃げる際に、私は幾人もの魔族を、黒炎で殺しました」
「ッ!?」
私の言葉にピクっと反応したオトハさん以外の皆さん。そうですよね、友達が殺しをやったことある、というのですもの。びっくりして当然です。
中でも一番びっくりされていたのは、マギーさんでした。そうでしたね。まだ、隠していること、ありましたね。単に忘れていただけなのですが、先ほどないと言ってしまった手前、さっそく噓つきになってしまいました。
「……すみません、マギーさん。まだお話できていなかったことが……」
「い、いえ、そうでは、なく……マサト。貴方も、魔族を、殺したのですか……?」
震える声でそう聞いてくる彼女。貴方も、という言い方に少し引っ掛かりを覚えた私は、少し前のことを思い出しました。あのルイナ川付近での戦闘。あの時、マギーさんは特攻し、魔族を殺していましたね。
「……はい」
「こ、怖くなったり、しておりませんか……?」
「……しました。凄く、怖くなったり、しました」
彼女の問いかけに、私は正直に答えます。マギーさんに拾ってもらってからすぐは、あまり寝られませんでしたから。でも、少しずつ、少しずつ乗り越えていけたのです。それもこれも。
「……でも。あの時もマギーさんやオトハさんがいましたし……今は、他の皆さんもいますから……私は一人じゃ、ありませんでしたから……」
「ッ!?」
「だから、大丈夫ですよ、マギーさん」
戸惑うマギーさんに向かって、私は微笑みかけました。
「今は怖いかもしれません。乗り越えられないかもしれません……でも、大丈夫です。私も、そして皆さんも、いますから」
「…………」
その言葉を聞いて、少しの間黙っていた彼女でしたが、やがて口元に笑みを浮かべると、ペコリ、と頭を下げました。
「……お話の途中で申し訳ありませんでしたわ。どうぞ、続きを」
「……いえ」
マギーさんに促されたので、私は話を続けることにしました。
「だから私は、その償いもしたいと、思っていたのです。奪ってしまった命に、そして私を生かしてくれた命に、報いる為に……私みたいに……誰かの都合で苦しむ方がいないようにッ!
……私が、戦争を、終わらせます」
「「「「ッ!?」」」」
オトハさん以外の皆様は、目を丸くしていました。あの時の彼女と、一緒ですね。
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