第182話 ガンバ


「あれ、とは?」


 ウルさんのその言葉に、私が反応します。なんと、手があるというのでしょうか。あれとは一体。


「変身したマサトが更に変装して、周りに魔族だとバレないようにマギーちゃんとデートのフリをする。一回したら、マギーちゃんも納得してくれるんじゃない?」


「マジですか?」


 その提案は、まさかの私が二度変身するもの。魔族になったうえで更に変装して、人間に見せるというものでした。


『……なるほど』


「そうねえ……」


「まー、解らなくはねーけど……」


 黙っている事に後ろめたさがあるのか。他の皆さんはまあ、みたいな感じで納得しておりますが、私はまだ若干混乱しています。


 え、えーっと、まず私自身が人間であり、これがベース。そこを"黒炎解放"で変身して魔族に上書き。さらにさらにそこを取り繕って、人間に見せることで……あれ、本物の私は何処へ?


『でも変装って簡単に言うけど、角まで生えてるマサトまで上手く隠せるかな?』


「う……ぼ、帽子を被れば、何とか……?」


「いーや。ここはお姉さんに任せなさい」


 よく解っていない私を置いて、話は前に進んでいるみたいです。


「……まさかアイリス。"偽景色(フェイクビュー)"のあれ使うつもりか?」


「そうに決まってるじゃない。"偽景色(フェイクビュー)"、"厚化粧(メイクアップ)"。自分に幻影をかけて見た目を誤認させる魔法……要は変装魔法ね」


『そ、そんな魔法があるんですか?』


「まー、最近開発された魔法だし、一般ではあんま知られてねーからな」


「そうそう。こんな感じよ。言うより見る方が早いし、ちょっと実践してみましょうか」


 そうしてカフェを後にした私たちは、人気のない裏路地っぽいところに移動します。奥まった場所ですので、ここなら他の人に見られることはないでしょう。


「"偽景色(フェイクビュー)"、"厚化粧(メイクアップ)"」


 早速と言わんばかりにアイリスさんが魔法を唱えると、見る見る内にオーメンさんの姿が変わっていきます。


 少し経つと、オーメンさんの見た目は完全にアイリスさんになってしまいました。


「す、凄い……アイリスさんにしか見えない……」


 本当に瓜二つです。ウルさんもびっくりした顔をしていました。


「ま。これにかかったからと言っても、所詮は幻だけどな。あるものが無くなる訳でも、ないものが有るようになる訳でもない」


 アイリスさんの顔のまま、オーメンさんが喋っています。


 その手で長くなった髪の毛を触ってみせますが、髪の毛はまるで立体映像であるかのように彼の手をすり抜けていました。やはり幻みたいです。


「そんでもって……"封魔(キャンセル)"」


 そしてオーメンさんは、士官学校でも習った魔法の発動を止める魔法、"封魔"を使いました。すると魔法が解け、姿かたちがオーメンさんへと戻っていきます。


 あれ、これって机上の空論魔法だった筈では?


「……こうやって"封魔(キャンセル)"で簡単に解除できちまうもんだ。構成式がめっちゃ簡単だからな。他にも、身体に傷なんかを負ったりして変化が起きた場合でも変わっちまうから、気をつけて」


「そゆこと。便利だけど万能って訳じゃないわね。じゃあマサト君、変身してくれるかしら?」


「わ、解りました……"黒炎解放(レリーズ)"」


 とりあえす、私にこの魔法を試してみることになりました。私は内に眠るオドを解き放つ呪文を唱えます。


 すると耳の上から角が生え、髪の毛の色は抜け落ち、肌の色も薄くなり、更には顔も含めた身体中に黒い入れ墨のような痣が走っており、黒い強膜に赤い瞳を携えた、いつもの魔族の姿になりました。


「……凄い威圧感ね」


「……ああ。俺も最初見た時はビビったが……」


 お二人が私の姿を見て少々驚いているみたいですが、ともかくこの姿を隠す為に"偽景色"の"厚化粧"を行うことになりました。


『……あとマサト。解ってるとは思うけど』


「……念の為に言わせてもらうね」


 アイリスさんが私に魔法をかけ、長時間持続させるための用意をしてもらっている間、オトハさんとウルさんが私の前に来て、ずい、と顔を寄せてきました。


「『あくまでフリなんだから、本気にしないように。解った?』」


「は、はい……」


 お二人の目が怖かったので私は二度頷きました。何でしょうか。この圧力は。


 やがて準備ができたアイリスさんが、私に魔法をかけてくれます。


「……あとは、"操作(マニュアル)"っと。これで見た目を弄れるかな。とりあえず角を隠して、肌の色は人間のものに合わせて……」


 "偽景色"の"厚化粧"に"操作"を加えることで、見た目もある程度は自由に変えられるみたいです。元の世界で言う、画像編集ソフトみたいなものでしょうか。


 アイリスさんが魔法を展開し、私の見た目を魔族ではないように変えてくれます。


『……目の色も変えよう。白髪なら赤い目が似合うと思うし……』


「後は筋肉も少し抑えめにしないかい? ムキムキだけどボクとしては細マッチョくらいの方が……」


「あら。ウルちゃん気が合うわね。私も細マッチョの方が好きなのよ」


 あとは私の見た目が一般に通用するように手直しをするだけの筈なのですが……んんん? 何か、女性陣が賑わい出したような気がしませんか。


「この際だから、色々変えちゃおうか。せっかくデートに行くなら、カッコ良くしないとね。まずは目の大きさを……」


『アイリスさん、それだと大きすぎませんか? あともう少し丸い形の方が優しい感じがして……』


「うーん……肌の色、すこし日焼けしてるくらいの方が健康的に見えないかい? ボクくらい褐色にしろとは言わないけどさ……」


「オーメンさん助けてください」


 そのまま女性陣のおもちゃにされ始めたことを察した私は、オーメンさんに助けを求めました。


 私がアテにしたオーメンさんはと言うと、


「ガンバ」


 親指を上げ、良い笑顔でそう返してくれました。ガッデム。


 そのまま私は、幻の上とはいえ散々に弄られまくり、とりあえず人前に出られる姿の幻を得ることができました。


 途中で二、三回、全く関係のない姿になったことは忘れましょう、うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る