第155話 彼への強襲者
グラウンドで生徒達が集まっているのを、カラキは遠目に見ていた。あの中に目標であるマサトがいる。
「……終わりがけか……いや、その後でも良いか……」
しかし、動くのはまだだ。来賓席には人国軍の軍人の姿もあり、今すぐに動くのは見つかる危険性が高い。
既に自身の身体も悲鳴を上げそうなくらいであり、これ以上の戦闘は避けたいところだ。
「……目標が、一人になったところを狙いたいが……」
やがて式が終わったのか、生徒たちがバラバラと教室に戻り始める。どうやら白組が勝ったらしく、白いハチマキをしている生徒達は浮かれていた。
カラキはそれを、注意深く観察している。
「……いた……ッ!」
人混みの中に、目標である彼を見つけた。海で監視していた時と同様に、数人の友人と思われる輪の中で楽しそうにお喋りしていた。
カラキは見つからないように身を隠しながら、その後を追う。目標は教室に移動し、着替え、その後に教師と思われる男の話を聞いて、また教室を出た。
「……チャンスは、一度切り……」
友人らと共に帰っていく様子を、カラキは辛抱強く見ていた。
士官学校の学生数人程度であれば、負傷状態の今でもある程度抑えることは可能であろうが、これ以上騒ぎを起こす訳にはいかない。
先ほどの教師と思われる男の話でも、校内で倒れていた学生についての話があった。彼が気絶させた二人についてだ。
幸いにしてあの二人はまだ意識が戻っておらず、原因不明のままとのことは幸いだったが。
「……まだか……まだか……まだか……まだか……ッ」
友人らと帰り道を歩む目標を、一定の距離を保ったまま追跡するカラキ。機会がなかなか訪れずに焦れる彼。
まだだ。まだその時ではない。
体育祭を終え、士官学校を出た彼らは、打ち上げがどうのという話をしていた。
おそらく、何らかのお店に向かう予定なのだろう。お店に入られてしまうと、しばらくは手出しができなくなる。
長期戦を覚悟しなければならないかもしれない、と彼が考えたその時、不意に、目標が友人らの輪を離れた。
そのまま近くの公園に向かっていき、どうやらお手洗いに行くらしい。
「ッ! ……今だ……ッ!」
彼にとって、千載一遇のチャンスであった。人国軍の軍人、そして学校内で気絶させた二人の事もあり、できるだけ早く確保へ乗り出したかったところに、この機会だ。
お手洗いに向かう彼の後を見えない位置から追い、目標がその中に入った時に彼は友人らがいる表側からは裏手の窓から忍び込んだ。
個室に音もなく忍び込び、そっと扉を開けて見ると、そこには用を足そうとしている目標を視認。こちらに気づく様子はない。
そのまま目標がズボンに手をかけようとした瞬間、
「ガ……ッ!?」
彼の首の後ろに手刀を叩き込んだ。目標が短く声を上げ、その場に崩れ落ちる。
「……確保、完了」
その身体を肩に担ぐ容量で抱え上げて小さくそう呟くと、彼は再び個室の窓の方を見た。あそこからまず目標を外に出し、その後に自分も出て行く。
ここからアジトまでの道のりを頭の中で軽く思い描いていた次の瞬間、
「何してやがるテメーッ!?」
「兄さんに何しやがったッ!!?」
狭いトイレ内に二人の男子生徒が入ってきた。
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