第142話 体育祭当日②
そうこうしている内に、次の種目がやってきました。次は魔法射的戦ですね。オトハさんとシマオが出るやつです。
『行ってきます』
「次こそ活躍したるからワイの事見とけよオメーらッ!」
オトハさんだけに激励を送って二人を送り出しました。それについてシマオが何か言っていましたが、多分気のせいでしょう。
グラウンドには円状のフィールドが用意され、その中に最初の回避役として、我らが白組のオトハさん達がその中に集まっています。
今からこの指定されたフィールド内で、魔法に当たらないように逃げ回るんですね。多くの魔法を当てられた組の勝ちとなりますから、ここは生き残ってもらいたいものです。
そうして開始の合図と共に、彼女らがいる円内に向かって多数の魔法が撃ち込まれました。
ちなみに攻撃側には、クラス対抗白兵戦でも配られた、魔力抑制のリストバンドが配られていますので、魔法の威力について心配する必要はないでしょう。
「「「"炎弾(ファイアーカノン)"ッ!!!」」」
『わわわッ!』
「つーか怖ッ! この種目怖ァッ! 側から見たらリンチやぞコレェッ!」
飛び交う炎や氷の塊を避け続けている二人です。
しかしこの種目。反撃できない相手に一方的に魔法を撃ち続けるという内容である為、シマオの言う通り一見するとリンチにしか見えませんね。
そんな中で何人か脱落者も出始めた頃、オトハさんに向けて複数の魔法が飛んできました。
『あ、ま、不味……し、シマオ君、アレッ!』
「な、なんやオトハちゃん? アレって何ってぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああッ!」
急に虚空を指さしたオトハさんにつられてシマオが顔を背けた瞬間。彼女はシマオの影に隠れ、余所見をしたシマオに炎を塊が直撃しました。
ちょうどそのタイミングで終了し、攻守交代となります。
『ありがとうシマオ君。守ってくれて』
「いやおもっきしワイのこと盾にしたやろ怖ァッ! あっさり友達盾にするその根性怖ァァァッ!」
何やら仲が良さそうなお二人。シマオ、もう遅いと思いますが、オトハさんは意外と曲者なので、気をつけてくださいね。
「遅いわボケェェェッ!」
あっ、聞こえてたんですね。すみませんすみません。
やがて位置についた彼らが、今度は攻撃側です。果たして、先ほどやられた数よりも多く当てる事はできるんでしょうか。
「「「"炎弾(ファイアーカノン)"ッ!!!」」」
攻撃の始まりです。皆さん、消費が少なく使いやすい"炎弾"が、多い中、
『"光弾(シャインカノン)"ッ!』
一人だけ得意魔法が違うオトハさんが、バレーボールサイズの光の塊を出し、それを放ち始めました。
『さっきのお返しだよッ!』
彼女が放つ光の球が、相手である赤組の生徒を襲います。
ううん、おかしいですね。ルール上禁止されている"操作"の補助魔法を使ってないのに、カーブを描いたり直角で曲がったり。
オトハさんの魔法だけまるで意志を持って動いているかのように飛んでいくんですが、気のせいでしょうか。
「……魔法の射出軌道演算式……教えたことは、ちゃんとやってるのね……」
遠くでフランシスさんが何か呟いていましたが、よく聞こえませんでした。
そんな中、次々と彼女の魔法の餌食になった犠牲者が増えていきます。
「うらァァァッ! ワイ自身の仇ィッ!!!」
その隣で気合いを入れて魔法を放っているシマオですが、彼は一発も当たっていません。うん、そんな気がしてた。
「そんな気がしてたってなんじゃチクショーォォォッ!!!」
なにはともあれ、攻撃側も終わりました。結果は、私たち白組の勝利。一人でめっちゃ戦果を稼いでいた、オトハさんのお陰ですね。
「お疲れ様でした」
「おつかれさん、嬢ちゃん凄かったなー」
「流石はオトハでしたわッ! まさか一発で二人も仕留めてしまうなんて!」
「ホントホント。魔法の腕じゃオトちゃんには敵わないね~」
『えへへ。ありがとう、みんな』
「みんなこの曲者に騙されんなやッ! ワイのこと盾にしたんは忘れてねーからなァァァッ!!!」
約一名が声を上げていましたが、まあ誤差でしょう。
そうして上級生達の種目が行われている中、私たちは和気あいあいとお話していました。やがて、次の種目へと移っていきます。
「……では。行きましょうか、ウルさん」
「……うん、行こうマサト」
私はウルさんを呼び、一緒になって立ち上がりました。次は、私たちの二人三脚です。練習の成果を、今こそ見せる時!
「おー、行ってこいよ兄弟」
「兄さんまたコケんなよー!」
「マサト! ウルリーカ! 負けたら承知しませんことよッ!」
『行ってらっしゃい二人とも。あとマサト。競技だからって必要以上にウルちゃんとベタベタしてたら後でお話だからね。逃げちゃ駄目だよ?』
皆さんの声援を背に、私たちは向かっていきます。若干一人だけ、声援と一緒に不穏な言葉が聞こえた気がしますが、気のせいだと思いたいお年頃。
やがて二人三脚がスタートし、私たちは待機場で互いの足を配られたハチマキで縛りました。
「おっとと~……」
「わっ! ウルさん、びっくりするじゃないですか!」
「ごめんね~」
するとすぐに、ウルさんが私の方に倒れ込んできました。それを受け止めると、彼女は私の方を見てニコッと笑います。
全く悪びれる様子がないので、おそらくはワザとなんじゃないかと思っています。
『一点減点……』
あと外野からこれまた凄く不穏な魔導手話が聞こえてきた気がするのですが、気のせいでしょうか。
何、減点って? 私に持ち点とかあったの? 減っていったらどうなっちゃうの? 謎は深まるばかりです。
そうしている内に私たちの出番が近づいてきました。二人で肩を組んでスタート地点まで行き、前の走者からのバトンとなるたすきを待ちます。
やがて走ってきた前の走者達からたすきを受け取った私は、声を上げました。
「……よし、行きます!」
「オッケ~! せ~のッ!」
「「イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ!」」
そのままウルさんと声を合わせて、二人並んで走っていきます。二人三脚はグラウンドに引かれたトラックを一周するのがノルマです。
現在、赤組と白組のトータルでの点数差は拮抗しており、ここは何としてでも負けられないところ。
「「イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ!」」
「「イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ!」」
赤組の生徒と並んで、私たちはグラウンドを走ります。その差はほとんどありません。
放課後に個別で練習したこともあって今の所コケたりはしていませんが、このままというのも面白くない。
(それ、なら……ッ!)
私はウルさんの肩を一度、少し強く掴みました。それを受けて、彼女も一度、私の肩を少し強く掴み返します。合図、完了です。
「「イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ! イッチニッ! イッチニイッチニイッチニイッチニイッチニイッチニイッチニイッチニッ!!!」」
一定歩数走った後、私たちはペースを上げました。タイミングを掴む為に声を出し続けなければならない二人三脚で、ペースを上げよう等と悠長に相談している暇はありません。
なので走っている最中でやり取りできる方法を、彼女と考えました。肩に回している手で少し強く掴んだら、ペースアップの提案。オッケーなら一回、ノーなら二回掴み返すこと、と。
そしてその後の四回目の掛け声以降にペースアップを始めるということを、二人で相談して決めていました。
私たちは加速し、相手である赤組のペアを置き去りにしました。息は、上がって、来て、いますが……もう、少し……ッ!
「「イッチニイッチニイッチニイッチニイッチニイッチニイッチニイッチニッ!!!」」
上げたペースを落とさないまま、私たちは何とか次のペアへとたすきをつなぐことに成功しました。少しは、差が、つけられたと、思います……。
「ハア、ハア、ハア、ハア……」
「は~、は~……や、やったね、マサト……ッ!」
肩で息をしている私たちでしたが、ウルさんのその言葉を受けて、私はもう一度後続の走者を見ました。
私たちがつけたであろう差をそのままに、赤組の先を走っている我らが白組の姿が見えます。
「え、ええ……ハア、ハア……や、やりました……ッ!」
「は~、は~……サンキュ、マサト」
そう言って手を上げてきたウルさんを見て、私はそこにハイタッチを当てました。
ええ、やりましたとも、練習して本当に良かった……。
「って、わわッ!」
「おっとォッ!?」
と思ったら、足を縛ったままだったのを忘れて勢いよくハイタッチしに行ったら、そのままウルさんに向かって倒れ込んでしまいました。
二人して地面に倒れ込み、私はウルさんのお腹の辺りに顔を埋める形になります。
顔を上げて見ると、程よい汗の香りと共に目の前にはウルさんの形の良い双丘が……。
「……エッチ」
「ふ、不可抗力ですッ!!!」
顔を赤らめてジトーっとした目でこちらを見てくるウルさんに向かって、私は声を上げました。
ええ、わざとではありません、女神に誓って。
『百点減点……』
あと外野からの魔導手話が怖すぎてそちらを向けません。減点の桁が一つ飛んだ気がします。事故です、仕方なかったんです、信じてくださいおまわりさん。
ちなみに二人三脚は、私たち白組が勝利することができました。勝ったのに減点とは、これ如何に……。
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