第141話 体育祭当日①
やってきました体育祭当日。いつもより少し早めに登校し、半袖短パンの体操服に着替えた私達は、グラウンドに整列していました。
頭には自分達の組である、白組の白いハチマキがしてあります。各学年ごとに、赤組半分、白組半分といった様子。
グラウンドから見える一番近い三階建ての校舎の窓には、赤組と白組の得点板が張り出されています。勝った方の点数があそこに加えられていき、最終的に点数の多い組が勝利となります。
そんな私達の元で開会式が行われ、いつものホルツァー先生の開会の言葉の後に、人国軍の視察の方のお話となりました。
またノルシュタインさんかな、と思っていたら、なんと思わぬ人が現れました。
「み、皆さんおはようございます。ひ、人国軍のキイロ=ジュリアスです。き、今日は未来の人国軍人の皆さんの活躍を、は、拝見させていただきます」
「あ、あの野郎ッ!!!」
「落ち着いてください、兄貴ッ!」
「せや! 落ち着けってノッポッ!」
なんと現れたのはキイロさんでした。反射的に兄貴が飛び出そうとしたのを、私とシマオで抑えます。
「離せよッ!」と暴れる兄貴を何とか抑えていると、鬼面ことグッドマン先生からこんな話がありました。
「えー、この度来ていただいたキイロさんは、模擬剣術戦で生き残った者から選出する代表者とエキスビジョンマッチをしていただく事になった。各学年の代表者一名、合計三名がキイロさんと相対することができる。人国軍の現役軍人の方と手合わせできるなんて滅多にない機会だから、各人一層の努力をするように」
「……んだと?」
それを聞いた兄貴が、暴れるのをやめました。ええ、私にも聞こえていましたとも。
模擬剣術戦で生き残り、そして選ばれた代表者はキイロさんと戦う事ができる、と。
「これは……兄貴、これ、頑張れば……」
「せや! ノッポ、オメーが模擬剣術戦で頑張りゃええやんかッ! あの人とちゃんと戦えるでッ!」
「…………」
話を聞いた私とシマオが、兄貴の説得にかかります。兄貴はそれを聞きつつ、黙ったままキイロさんを睨みつけていましたが、
「……上等だ」
やがて睨みつけることをやめないまま、兄貴はそう呟きました。
「テメーと真っ向からやれるってんなら……良いぜ。首を洗って待ってやがれ……絶対にテメーの目の前に立ってやらァッ!」
「静かにせんかエドワルッ!」
そしてそのまま、兄貴は吠えました。グッドマン先生のお叱りの言葉も飛びましたが、それを聞いたであろうキイロさんは、笑っていました。
「ぷぷぷ……ッ!」
「……い、以上で開会式は終了じゃ!」
やがてホルツァー先生の強引な幕引きによって、開会式は終わりました。そのまま私達は、グラウンドに設置された各クラス毎の席へと戻っていきます。
「……兄貴」
「……ノッポ」
「……心配すんな、オメーらよ」
その途中。私とシマオが黙りこくっていた兄貴に声をかけると、兄貴は静かにそう返してくれました。
「せっかくあの野郎とまともにやり合えそうなチャンスが来たんだ。ここですぐ殴りかかってオシャカにするつもりはねーよ。体育祭自体は楽しみだったしな……だが」
そう口にする兄貴は、拳を握りしめていました。
「……模擬剣術戦だけは、マジでやらせてもらうぜ。こんなチャンス、滅多にねーからな。全員病院送りにしてでも……アイツとやるのは俺だ」
「……応援してます!」
「……キバりや、ノッポ!」
「……おうよッ!」
私たちとシマオが差し出した拳に、兄貴は合わせてくれました。兄貴なら、できます。
そうして、体育祭は始まりました。上級生の種目とかもありますが、とりあえずは私たち一年生の種目をば。
最初にやるのは、障害物リレーです。その名の通りリレーではありますが、バトンを繋ぐには途中にある三つの障害物を乗り越える必要があります。
一つ目は網の下を匍匐前進するモノ、二つ目が高い所にぶら下がるパンを口だけで取るモノ、そして三つ目が炎の燃え盛る床を"氷弾"で凍らせて駆け抜けるモノです。
これに参加するのは、シマオ、マギーさん、ウルさんの三人ですね。
「んじゃ、ワイも行ってくるわッ!」
「わたくしの活躍をとくとご覧なさいッ!」
「行ってくるね~」
「頑張ってきてください、マギーさん、ウルさん」
「おー、パツキン。コケたりすんなよー」
『ウルちゃん、頑張ってね!』
「オメーらワイには一言もないんかこの薄情モン共ォォォッ!」
そうして私たちが送り出した三人が位置につき、障害物リレーが始まりました。順番的には途中に他の生徒も入りますが、ウルさん、シマオ、マギーさんの順ですね。
先頭の生徒が走り出し、いよいよリレースタートです。最初にバトンを受け取ったのはウルさんでした。
「いっくよ~!」
彼女は駆け出し、まずは網の下を匍匐前進します。この時点で、敵対する赤組との差はほとんどありません。
「ホイホイホイホイっと!」
しかし匍匐前進を難なく終えたウルさんが、いきなり差をつけました。魔狼族の血が入っているからか、四つん這いで伏せていても身軽な彼女には驚かされます。
そのままパンもあっさりと咥えてみせ、モグモグと口を動かしながら最後の炎の地点へと向かいました。
ごくんとパンを飲み込んだ彼女にはオドの適正がないため、走りながら空中に指を踊らせ、魔法陣を描きます。
「"氷弾(アイスカノン)"ッ!」
到着と同時に魔法を放ち、炎を一部を凍らせました。そこを足がかりにして、ウルさんはぴょんっと炎地帯を抜けます。
「らっくしょ~!」
そうして次の生徒へとば バトンを渡しました。この時点で、後ろとはなかなかの差がついています。
「ナイスですウルさん!」
『凄いよウルちゃん!』
「やるじゃねーかねーちゃん!」
「へっへ~んッ!」
私たちの賛辞が聞こえたのか、走り終えたウルさんが、休憩場所でこちらに向かってピースをしてみせました。
幸先の良いスタートです。これは勝利が期待できますね……と思っていたら、シマオの番。
「と、届かんッ!?」
匍匐前進はサッと終わったものの、パン食い地点で背の低さが災いし、何度かやり直している間に一気に差がなくなってしまいました。
「シマオ、しっかりしてくださいッ!」
「なにしてんだチンチクリンッ!」
「じゃかぁしいわボケェッ! ドワーフ用に高さ変えんかいっつーかこう言う時だけ声かけやがってテメーらゴラァァァッ!」
何とかパンをゲットした時には、逆に少し差をつけられてしまいました。最後の魔法地点でもあまり効率よく進めなかったが為に、縮まることのないままにバトンタッチ。
ちなみにシマオはオドの適正を持っていなかったので、私とウルさんと同じマナ組です。
「……あ~あ。どっかの誰かさんの所為で、ボクの作ったリードが台無しだよ~……」
「誰かさん言うんならこっち見んやなボケェッ!」
休憩場所であーだこーだ言い合っている二人ですが、最早彼らにできることはありません。後続のメンバーに全てを託すのみ。
「わたくしにお任せあれッ!」
そうして自信満々なマギーさんへと、バトンが渡りました。
「行きますわよーッ!」
意気揚々と駆け出したマギーさんです。彼女も相当足には自信があるはずなので、これは期待できそうですね。
そうして第一関門である匍匐前進を始めたその時、
ビリィィィッ!
っという何かが破けるような音が響きました。なんだろうと思っていると、匍匐前進を終えたマギーさんの姿を見て正体を確信しました。
と言うのも、
「きゃぁぁぁあああああああああああああああああああああッ!!!」
「「「オオオオーーーーーーッ!!!」」」
マギーさんの体操服が破け、たわわに実ったおっぱいを包んでいるブラジャーがあらわになったからですウヒョー!
どうやら人より大きい胸を持つ彼女が、地面に擦れたままズンズン匍匐前進を続けた結果、体操服が耐え切れなくなったんですねやったぜ!
「ナイスでございますお嬢様! ちゃんとポロリの心を忘れないそのお姿に、ワタシは感動が止まらないのでございますッ!」
わざわざ遠いところから応援に来てくれたイルマさんも、これにはニッコリです。
男性陣の歓喜の声が渦巻く中、私はもう一度彼女のお胸様を網膜に焼き付けようとして、
『駄目だよマサト?』
「ぎゃぁぉぁあああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
何故かオトハさんに指で目を突かれました私の両目に甚大なダメージがァァァアアアアアアアアアアアアッ!!! オトハさんと言いウルさんと言い、人の眼球を何だと思ってるんですか本当にッ!?
結局マギーさんは棄権し、障害物リレーは私達白組の敗北となりました。
マギーさんは鼻血を出しているイルマさんから替えを貰って、前を隠しながらそそくさと着替えに行きます。
そして、私は目の痛みを訴えて救護班のフランシスさんの所へ行きましたが、
「ほっときゃ治るわよ」
ものっそい投げやりな治療、いやこれ何かしてもらってすらいないんですけど、を受けてトボトボと戻るハメになりました。
その途中でホントに痛みが引いてきたので、私の心中は何とも言えない複雑な気持ちでいっぱいでしたチクショー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます