第122話 唐突な再会と
「いらっしゃい。昨日振りね」
「ど、どうも……」
「……こんにちは」
マギーさんと兄貴とシマオがグッドマン先生に連れられて舞踏会に行った後。
待機となった私とウルさんは突如として呼び出され、再びフランシスさんのいる研究所にやってきました。
昨日、私とウルさんはバレた上に目的を素直に話し、あまつさえ名前まで伝えるという大ポカをやらかした為、キイロさんとオーメンさんに厳重注意を喰らい、ほとぼりが冷めるまでそのまま大人しくしているように言われました。
そのまま部屋で二人して大人しくしていたのですが、突然見知らぬ男性エルフがやってきたかと思うと、
「フランシス様がお呼びです。お二人とも、外出の用意を」
と言われてウルさんと顔を見合わせたのです。
そうして連れて行かれた先は、昨日侵入したあの研究所。今度は正面玄関から堂々と中に入り、彼女のいる部屋まで通されました。
ちなみに今日は三階の部屋でした。中は昨日よりも研究機材と思われるものが多い部屋という印象でしたが、散らかし具合は昨日のと大差ありません。
違う部屋の筈なのに、デジャブ感が凄いです。フランシスさんのいる部屋は、どこもこうなってしまうのでしょうか。
そんな散らかった部屋の中にこれまた昨日同じで、下着の上に白衣しか着ていない彼女がいらっしゃいました。ああ、今日も眼福です。
「飲み物は昨日と同じでいい? 熱いから気をつけてね」
「は、はい……」
そうしてウルさんと二人して散らかっている部屋にあったイスに座り、ヤケクソに熱いアスミのお茶が振る舞われました。
私は昨日のことがあったので、めっちゃ気をつけながら飲んでいたのですが、ウルさんはここまで熱いとは思っていなかったのか、「熱ァ!?」と昨日私がしたのと同じリアクションをしていました。
「はぁ、はぁ……それで? ボクらをまた呼んで、一体なんのつもりなのかな?」
火傷した舌を出して少し落ち着いてきた頃、ウルさんがフランシスさんに問いかけました。
そうです。結局はそこが聞きたいのです。わざわざ昨日不法侵入した私たちを、正式に呼び出す理由がさっぱり解りません。
お茶の入ったコップを置いて座り、足を組みながら落ちている資料を拾って読み始めたフランシスさんは、事もなげに話し始めました。
あっ、足の組み替えの際にパンツがチラリ。やったぜ。
「なんのつもり、ね。それは今に解るわ」
「今に解る、とは……?」
「文字通りよ。アイツらはまだ来てないみたいだけど……」
首を傾げる私たちでしたが、不意に扉がノックされる音がしました。誰か来たみたいです。
「入りなさい」とフランシスさんが声をかけたので私たちが振り返ってみると、そこには。
「……お、オトハさんッ!?」
「オトちゃんッ!」
研究所の警備をしているエルフの男性らしき姿と、もう一つ。私たちが探して止まなかった、オトハさんがいました。
『……マサ、ト……? ウル、ちゃん……?』
「貴方はもう行っていいわ……それよりなによオトハ、魔道手話なんて覚えてたの? それならそうとさっさと言ってよ……」
オトハさんもびっくりしているのか、魔道手話が途切れ途切れになっています。
彼女連れてきたエルフを下がらせたフランシスさんが、ふんっと鼻を鳴らしていました。
そんなことはどうでも良いのです。こちらへ駆け寄ってきたオトハさんを、私とウルさんで抱きしめました。
小さくも温かい彼女が今、私の中にいます。
『マサト……ッ! ウルちゃん……ッ!』
「良かった、です……また会えて、本当に……」
「怪我してない? 酷いことされなかったかい?」
喜びを噛みしめる私と、オトハさんの身体は無事かと心配しているウルさんです。
そんな私たちを退屈そうに眺めていたフランシスさんが、やがて口を開きました。
「感動の再会は終わった? じゃ、早く帰ってよね。今日呼んだのはそれだけだし」
興味なさそうに資料に目を落とした彼女に向かって、私は頭を下げました。
「ありがとう、ございました……」
「…………。さっさと帰りなさい」
しかし、フランシスさんはそれに応えずに、手をシッシッと振って早く出て行けと急かしてきます。
そこで、オトハさんが顔を上げて、彼女に向かって話しかけました。
『な、なんで……? お母さん……』
とそこで、オトハさんから驚愕の一言が発せられました。
お母さん。お母さん、ですか。えっ? 誰が誰の? フランシスさんが、オトハさんの?
そうですかそうですか。それはそれは……。
「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!?!?!?」」
「……うっさいわね」
ウルさんと二人して声を上げると、フランシスさんが鬱陶しそうにこちらに目をやってきました。
え? フランシスさんがオトハさんのお母さん? た、確かに髪の色とか、よく見ると目元とかも似ているような気がしますが。
「う、嘘だ……あれがオトちゃんのお母さんだなんて……」
「し、信じられません……ひ、ひょっとしてオトハさん、将来はあんな感じになるので……?」
「そ、そんな……お、オトちゃんがいずれ、あんなボンキュボンになるなんて……」
「せ、成長の余地は無限大なんですねッ!?」
私とウルさんは互いに信じられないという感想を言い合っています。
というか私、生まれて初めてみた女の人の全裸が友達のお母さんとか、これ自分の中でどうやって折り合いをつけたら良いのでしょうか。割り切れない感情が胸の内で渦巻いています。
確かに眼福ものであったことは間違いなのですが、それが友人の近親者であったという事実は、なんて言うかこう、飲み込みにくい気分が生まれると言いますか、オトハさんに対してめっちゃ気まずいと言いますか、えーっと……。
「なんでもクソも、そういう都合になったのよ。さっさと行きなさい」
『わ、わたし……ここから出て行っても……いいの?』
「出て行きたいんなら出て行けば?」
そんな私たちの混乱を余所に、オトハさんは自身のお母さんであるフランシスさんとお話しています。
必死に話しかけるオトハさんとは裏腹に、フランシスさんは資料から顔を上げすらしていませんでした。
『ど、どうして……? わ、わたし、第二神の生け贄になるんじゃ……?』
「それはお父様の都合でしょ? 私は私で目的があったから協力してたけど、そっちより良い条件が見つかったの。もう協力する気はないわ。って言うか、あんたよく私のことお母さんなんて呼べるわね。私があんたにしたこと、忘れたとでも言う訳?」
『……別に。忘れた訳じゃない……わたしの思い出したくない人の一人は、間違いなくお母さんだし……』
「あっそ。良かったじゃない、もう顔も見なくて済むわよ」
『で、でも!』
そこまで話したところで、オトハさんは頭を下げました。
『……それでも。わたしを解放してくれて、ありがとうございました』
「…………」
それを聞いたフランシスさんは、面倒くさそうに顔を上げ、オトハさんを見ています。
「……何をどう間違えたら、あんな教育の果てにこんな子になるのかしらね? 子育てって、ホント意味わかんない。アイツの血かしら?」
『……あのお父さんの、こと?』
「あんな見栄っ張りのクズじゃないわ……って違う違う。こっちの話よ」
それだけ言うと、フランシスさんは組んでいた足を組み替えつつ、持っている資料に目を落としました。
足の組み替えの際にまたパンツがチラリしましたが、喜んでいたさっきと違ってとても複雑。
何せ彼女は、オトハさんのお母さんなのですから。
「……もう一度だけ言うわ。さっさと帰りなさい。私は私で忙しいの」
フランシスさんはそのまま、こちらを見ることはありませんでした。
私たちは色んなことがあって混乱したままでしたが、頭を上げたオトハさんに『行こう、二人とも』と言われたので部屋を後にすることにしました。
ま、まさかいきなり解決してしまうとは、露程も考えていませんでした。
色々と解らないことはありますが、とりあえずオトハさんが帰ってきたので良いのでしょう。
そうして私たちが部屋を後にしようとしたその時。
複数の走ってくる足音が聞こえたかと思うと乱暴に扉が開かれ、弓を構えた複数の男性エルフが現れました。
その目には敵意むき出しになっており、話を聞いてはもらえなさそうな感じがあります。
「……困るのう。勝手なことをされては」
何がどうなっているのかが解らずにキョロキョロとしていたら、年老いた男性の声がしてきました。
弓を構えたエルフ達が道を開けると、そこには白髪混じりの緑色の髪の毛を揺らし、杖をつきながらこちらへ歩いてくる、一人の年老いたエルフの姿がありました。
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