第101話 気をつけろ
いきなりかけられたその言葉に、私は固まってしまいました。えっと、今ベルゲンさんはなんておっしゃいましたか。私を助けたいとか、そうおっしゃったように聞こえたのですが。
そんな私の様子を見透かしたのか、ベルゲンさんはもう一度、ゆっくりと口を開きました。
「君を助けたいと、そう言ったのですよ。できることに限りはありますが、いなくなってしまったそのエルフの女の子を探すのを、私も手助けしたいと思います」
「ほ、本当ですかッ!?」
「はい、本当ですよ」
予想もしていなかった申し出に、思わず声が上ずります。オトハさんを探すのを、手伝っていただけると。
手詰まり感のある今の私からしたら、これ以上ないくらいに嬉しいことでした。
「そもそも、君が無許可でポスター配りをしてしまったのも、彼女の失踪があったからだ。私たちはそれを諌めつつも、可能であるならばその原因まで解決してあげる必要がある。第一、護るべき国民がいなくなってしまったのであれば、それは軍人の仕事でしょう」
「ありがとうございます! イッ!?」
そう話すベルゲンさんに向かって、私は勢いよく頭を下げました。そして、勢いがあり過ぎてテーブルにおでこをぶつけてしまいました。テーブルに振動が走り、私の額には痛みが走ります。
「コラコラ。嬉しいのは解りますが、君が怪我をしたらエルフの子も心配してしまいますよ」
「いつつ……は、はい。すみません……」
その様子を見て笑いながらそう言うベルゲンさんに対して、多分違うとは思うのですが謝罪をする私です。そうですよね。
オトハさんも、私が怪我をしていたら心配すると思いますし。先ほどのご飯のこともありますが、私自身もしっかりしていなければ。
「大丈夫ですよ。私も、微力を尽くします。こう見えて私、実は結構なお偉いさんなんですよ?」
「そ、そうなんですか? わ、私、何か他に失礼は……」
「いえいえ。今はお昼休憩の時間なんです。職務上、声をかけはしましたが、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。では、連絡先はどうしましょうか。流石にマサト君は遠話石を持っていないでしょうし」
「あっ、それなら学生寮の共有のものがあります。番号は……」
「おーっと! ベルゲン大佐にマサト君じゃねーか」
逸る気持ちを抑えつつベルゲンさんに連絡先を渡していた時に、聞き覚えのある声が降ってきました。
あれ、と思って振り向くと、そこにはオーメンさんが立っています。
「おや。貴方は……」
「おっと失礼。人国陸軍総務部総務曹長、オーメン=サイファーです。ベルゲン大佐、いつもお世話になっております。ご歓談話中のところに割り込む形となってしまい、申し訳ありません」
「いえいえ。オーメン曹長、お勤めご苦労様です。貴方もお昼ですかな?」
「はい。この辺りに美味しいランチがあるお店があると聞きまして」
「それは良い噂を聞きましたな。ここは私のオススメでもありますよ」
「おお! それは良いことを聞きました!」
なんだか私が置いてけぼりになっているような中、お二人は仲よさげにお話されています。
そう言えば、オーメンさんも軍の方でしたね。この調子を見ていると、お二人は知り合いなのでしょうか。
「……しかし、ベルゲン大佐がまたどうしてマサト君と一緒に食事なんかを?」
「ああいえ。この子が道端で、許可を取らないままにポスター配りをしていたからね。注意がてら、お昼にお誘いしたんですよ」
「ありゃま。駄目じゃないかマサト君。ちゃんと許可を取らないと」
「は、はい……すみません……」
「そういうオーメン曹長は、この子と知り合いなのかい?」
「はい。最近私が引っ越した際に、荷物の運搬等を手伝ってくれたのが、このマサト君なんですよ。それ以降、たまに見かけたらお話するくらいですね」
「なるほどなるほど」
実際はオーメンさんに身辺警護、もとい監視をされているんですが、まあこれは秘密ですからね。兄貴達へもした建前の話を、ベルゲンさんにも伝えます。
しかし、どうしてオーメンさんはベルゲンさんにも建前の理由をお話しているのでしょうか。同じ軍に所属していても、私の話を知っている人と知らない人がいるということなのでしょうか。
まあ、下手に言いふらさない方が良いとのことでしたし、何かしらの理由があるのでしょう。
その後はオーメンさんも含めた三人で、楽しくお昼を過ごさせてもらいました。
ベルゲンさんは結構茶目っ気がある方で、とてもお偉いさんには見えなかったのですが、あの気さくなオーメンさんが終始敬語を崩さなかったので、やっぱり偉い人なんだろうなと思いました。
お昼の時間を終えて、私は一度兄貴たちと合流することにして、ベルゲンさんとは別れました。「何か解ったらまた連絡しますね」との言葉を頂けましたし、とても心強いです。
しかしそんな私とは裏腹に、ベルゲンさんと別れた後のオーメンさんは、厳しい表情で私に言ってきました。
「……行ったか。マサト君、あのおっさんには気をつけろよ」
「えっ? どういうことですか?」
先ほどまで楽しげに談笑していた相手を気をつけろと、オーメンさんはそう言ってきました。一体どういうことなのでしょうか。
てっきり私は、オーメンさんはベルゲンさんと仲良くしているものだと思っていましたが。
「軍の中でも相当の難物なんだよ、あのおっさん。とにかく、マサト君やオトハちゃんの事情については何にも話すな、いいな……まさかもう何か話したりはしてないだろうな?」
「い、いいえ。オトハさんが行方不明になったこと以外は、何も……」
いつものように気さくな感じではなく、真剣な表情でそう詰め寄ってくるオーメンさんに面を食らいながらも、私は何とか返事します。
色々とお話はしましたが、自分の事情やオトハさんの置かれていた状況等については、何も話していません。それは確かです。
「……そうか。それならいいんだ。とにかく、あのおっさんには気をつけること。何も話さないこと。あのおっさんから連絡があったら、それを俺にも伝えること。それは約束してくれ」
「え、えええ……?」
「解ったか?」
「は、はい……」
「よし。……少し目を離した隙に、まさか本人が来るたぁ……」
どうしてこんなにオーメンさんはベルゲンさんを警戒しているのでしょうか。若干焦っているようにも見えますし、解らないことだらけです。
それだけ言い残してオーメンさんはまた姿を消しました。
呆然とする私でしたが、とりあえず許可を取っていないポスター配りは駄目みたいですと皆さんに言わなければならなかったので、私はいくつかの疑問に首を傾げながらも、当初の合流地点に戻りました。
その日はもうそれ以上ポスターが配れないとなったので、徒歩でひたすら探すに留まりましたが、私が偶然軍のお偉いさんと懇意になり、協力してくれることになった話は、皆さんに希望を持たせました。
「軍の中にも素晴らしい方がいらっしゃるのですね!」とマギーさんも大喜びしていました。
それから更に時間が経過したとある日。
私はベルゲンという方から連絡があると寮長のお姉さんから呼び出しを受けて、男子寮共有の遠話石のところまでやってきました。
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