第78話 スタートダッシュ失敗?


 そんなこんなでお祭り当日。私たち野郎三人は朝早くから起きてお店に集合し、机椅子の用意や飾り付け、調理器具の準備、食材の解凍等を行います。


「……ね、眠い……まぶたがこんなに重いなんて……」


「昨日から動きっぱなしっつーのもなぁ……イテテ! 筋肉痛も治っちゃいねーし……」


「き、今日が本番なんやから気張ろや……」


 そんな私たちは、始まる前から満身創痍な状態。今からが本番とはいえ、それまでの準備で体力を使い過ぎています。こ、これからだと言うのに……。


「おはようございますわッ!」


『みんなおはよう。朝から頑張ってるね』


「おはよ~。わぁお、しんどそうな顔」


「おはようございますでございます」


 そんなこんなで準備を終え、いよいよ開店かという時間になった時、女性陣がやってきました。おおお、イルマさん以外、皆さん浴衣姿じゃないですか。なんという目の保養。


『浴衣って初めて着たけど、なかなか可愛いよね』


「わたくしとしては少し動きにくいのが難点なのですが……」


「意外と涼しいしね。たまにはこういうのもいいかな~って思うよ」


 緑基調の浴衣のオトハさん、青基調の浴衣のマギーさん、白基調の浴衣のウルさんがそれぞれ、イルマさんに促されてクルリと回って浴衣姿を見せてくれます。髪の毛のセットして上げているので、綺麗な首元もよく見えます。


「皆さんとてもよく似合っていますよ」


「おー、いいな。浴衣ってやつも」


「うなじが良く見えるわ。着崩してる訳でもないのになんか色っぽいな~」


「シマオ様。おっしゃるとおりでございます。この浴衣の一番の魅力は、普段隠している人が多いうなじを露出させ、魅力的に引き立たせることにあります。ワタシの見立て通り、お嬢様のうなじは本当に美味しそうで思わずしゃぶり尽くしたくなる……」


「自重なさいこの駄メイドッ!」


 そしてイルマさんは、いつものようにマギーさんに殴り飛ばされています。そんな光景を尻目に、オトハさんが私たちに向かって口を開きました。


『そうそう。わたし達もどこかでお店を手伝おうって話をしてたんだ』


「うんうん。ボク達のためにやってくれてるのは解ってるけど、なんか辛そうに見えたからね。少しくらいは手伝ってあげようかと」


「そうですわ! わたくし達も一度、接客というものをやってみたいのですわ!」


「ほ、ホンマかッ!?」


 シマオが嬉しそうに声を上げましたが、私も同感です。正直、今から一日中お店をやって、しかも私に至ってはイベントにも出てと、やること満載なのに体力が心もとなかったのです。


「女性陣で一通り回ってきましたら、交代させていただくでございます。料理につきましては、ワタシとウルリーカ様にお任せを」


「接客はわたくしとオトハにお任せですわッ!」


「マジかよ……神か?」


「ほ、本当に良いんですか?」


『うん、本当だよ。少しくらいなら代われるから』


「「「ありがとうございますッ!!!」」」


 私たちは三人で声を揃えて頭を下げました。少しでも休憩時間をいただけるのであれば、願ったり叶ったりです。


 しかも、この浴衣姿の麗しい三名がお店にいれば、売上も上がるのではないか。そんな下心もあったりなかったり。


「そろそろ始まりますわね。では、わたくし達は一先ず回ってきますので」


『うん。また後でね』


「ちゃんと店番するんだよ~」


「では一度。失礼しますでございます」


 そうして女性陣は行ってしまいました。残された私たちは、揃って拳を握りしめます。


「……思わぬ僥幸や。まさかみんな手伝ってくれるとは……」


「……しょーじき、結構体力的にキツかったしな。今日さえ乗り切れりゃ、明日は死んでもいーやとか思ってたが……」


「……天も私たちに味方しています。よし、やりましょう! 私たちならできます! 必ず借金を返して、清々しい気持ちでこの地を去りましょう!」


「「オオオッ!!!」」


 決意を新たにした私たちは、グーにした拳を一箇所に集め、コツン、っと三つの拳をぶつけました。良し、行ける。今なら風が吹いています。私たちの背を後押しする風が。


 この調子で、やり切ってみせる!


「……と息巻いてからしばらくしましたが」


「……あんま、パッとしねーなぁ……」


「こ、こんなハズじゃ……」


 そうしてお祭りがスタートしましたが、私たちは頭を抱えていました。ええ、流石にお祭りというだけはあって、人はいっぱいいます。


 見渡す限り人の列が続いており、お客に困りそうには見えません。ただ。


「全く売れねーって訳じゃねーが。かと言ってバカ売れしてるかって言われりゃそーでもねー。このままじゃ三人分返済なんて、ぜってーできねーな……」


 兄貴の呟く通り、正直パッとしないのです。たまにお店に来て酒モドキとおつまみを買ってくれる人はいるのですが、行列ができる程殺到している訳ではありません。


 そこそこ人が来て、そこそこ売れてる。そんな程度なのです。


「な、なんか宣伝できそーなことはないんかッ!? このままじゃ、返済できへん!」


「んなこた解ってんだよチンチクリンッ! 今考えてんだろーがッ!」


「なんやとッ!?」


「ま、まあまあ……」


 疲れからか苛立ってきている二人ですが、言い争っていても事態は良くなりません。


 ここから何とかして、一般通過人をウチにお金を払ってくれるお客さんにしなければならないのです。しかし、一体どうすれば……。

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