第63話 夏の海で一勝負①
「……んで、兄弟はこのシマオとやらに出会ったと」
「ええ、そんな感じです」
「兄さん顔大丈夫? それ景色見えてるん?」
一通り事が終わった後、私は皆さんにシマオさんを紹介しました。
顔面が内側にめり込んでいるような感覚があるので、声がちゃんと出ていたか不安だったのですが、良かった、しっかり紹介できていたみたいですね。あと前が見えません。
「……まあ、旅先で出会った方との交流は、とやかく言うつもりはございませんが……」
「ありがとうございますお姉さま! その素晴らしいお胸様にどうかこの卑しいワイを埋もれさせてくださヘブッ!?」
「出会って即セクハラのこのドワーフは殴っても法的にはセーフですわよね!?」
「法が許してもボクは許さないからいいと思うよ~」
そしてマギーさんの言う通り、初対面であるにも関わらず全く臆することもなくセクハラしに行って返り討ちにあっているシマオさんを、私はある意味尊敬していました。流石にここまで欲望に忠実だと、最早敬意しか湧いてきません。
ちなみにマギーさんはオトハさんとウルさんにそそのかされて、今は水着の上から白い羽織物を着ています、ガッデム。
あの美しい谷間を合法的に見られないのは残念ですが、しかし羽織った薄手の生地から透けて見える青い三角ビキニがえも言えぬエロスを醸し出していて、これはこれで……。
「あ痛ぁッ!?」
『あっ、ごめんねマサト。虫がいたからつい……』
「オトちゃんの方にもいたの? 刺されたら大変だからね~」
左右から素肌の背中に向かって平手打ちを喰らった私に対して、悪びれもせずに話しているオトハさんとウルさんです。
何ですか、私が何をしたって言うんですか、全く。
「いてて……しかし、ここは天国なんか? エルフのオトハちゃんもハーフのウルさんもメイドさんもそしてお姉さまも、美人揃いで選り取り見取り黄緑白緑やないか!」
『どうしようウルちゃん。褒められてる筈なのにあんまり嬉しくない』
「こういう人もいるんだ、くらいでいいんじゃない?」
「そのモフモフの尻尾、いくら出したらワイにモフらせてくれます?」
「えっ、やだよ」
金額も提示せずに即拒否。表情も含めて、ウルさんの本気度が伺えます。
しかし、彼女の時も結構物怖じせずに来てくれたお陰ですぐ仲良くなれましたが、シマオさんも大概ですね。
この世界の人って、こういう人ばかりなのでしょうか。
「しかしせっかくお会いでしたのなら、ここは一つ交流を深めるためにも……ゲームでもしましょうでございます」
するとイルマさんがこれはどうでしょうと、何かを取り出しました。見るとそれは、小さな旗のようなもの。
元の世界で言う、旅行のガイドツアーさんが持っていた先導用の案内旗のような感じです。
これを使ったゲーム、ということなのでしょうか。私の疑問を兄貴が代弁します。
「おっ、なんだそりゃ? それを使うのか?」
「はい、エドワル様。具体的に言いますと……」
「イルマ。もしここでそれを下半身に刺し込む遊びとか言い出しましたら、海に叩き落としますわよ」
「…………。もちろん違うでございます」
「何、今の間は?」
マギーさんの牽制に口が詰まったイルマさんを見て、ウルさんが首を傾げます。
おそらくはマギーさんの言った通りの内容を提案しようとしていたのでしょう。
うん、イルマさんならやりかねません。仕切り直しと言わんばかりにスカートを払ったイルマさんが、再び口を開きます。
「ルールは簡単でございます。この小旗を砂浜の離れた所に刺し、参加者の二人が顔をフラッグと反対側に向いて、うつぶせに寝るのでございます。
スタートの合図と共に二人は起き上がって走り出し、先に刺さっている小旗を取った方が勝ち、というゲームでございます」
あっ、なんかそれ元の世界で聞いたことがあります。確かビーチフラッグス、という名前だったでしょうか。
ライフセーバーの方々がよくやられているみたいで、ルールも簡単なので結構やったことがある人も多いと思います。
イルマさんが自身のメガネをクイッと上げながら、競技名を高らかに宣言します。
「題して、ドキドキダッシュ★海辺のあの子のフラグはワタシのもの!? でございますッ!」
「ビーチフラッグス、という名前はどうでしょうか?」
「おっ。マサトにしちゃいいネーミングじゃないか。ボクはそれでいいと思うよ」
「では早速やりましょうですわ、ビーチフラッグス! しかし、対戦相手はどのように決めましょうか」
「あっ。ワイ紙なら持ってるで。くじ作るわ」
「おっ、用意がいいなチンチクリン。頼んだわ」
「誰がチンチクリンじゃ! ドワーフなんやから仕方ないやろッ? 高みから見下ろすのがそない気持ちええんか、アアアッ!?」
『お、落ち着いてシマオさん。これから大きくなるかもしれないし……』
「…………」
そうして、ジトーっとした目で呆けているイルマさんを他所に、私たちのビーチフラッグス対決が始まりました。
色々と話し合った結果、次のようなルールでやることに。
まず私たちは六人いますので、一対一を三回やって、勝者を三人出します。
次にその三人の勝者でもう一度試合して、優勝を決める、というものです。
ちなみに初戦敗退の三人は、お昼ご飯のバーベキューの用意と後片付けを全て行うという罰ゲームが。
優勝者には、マギーさんが持ってきた特上お肉串をお昼ご飯で独り占めできるという景品があります。
これは負けられませんね。美味しいお肉、食べたい。
ちなみにこの世界でのお肉とは、基本的に竜、つまりはドラゴンのお肉です。食用竜という食べて美味しい種類の竜がいるのだとか。
車を引いたり戦場で駆け回ったり食べられたりと、この世界の竜は元の世界で言う牛と馬を兼任しているような存在ですね。
ちなみに味は牛肉に近いのですが、種類によっては豚肉に近いものもありました。
シマオさんが作ったクジの結果、私とシマオさん、マギーさんと兄貴、オトハさんとウルさんの対決となりました。まずは、私とシマオさんの対決です。
「へっへっへ、ありがとうな兄さん。ワイを仲間に入れてくれて」
小旗を砂浜に刺し、私たちがそれに対して反対を向いてうつ伏せになった時、不意にシマオさんが話しかけてきました。
「しょーじき、一人寂しく水着のねーちゃん見て帰るだけかと思うてたけど……こうして楽しく遊べんのも兄さんのお陰やわ。ホンマ、感謝してる」
「別にいいですよ。私も友達が増えて、嬉しいですし」
「そうでっか。そんなら……」
「よーい……スタートでございますっ!」
「ワイの勝利のために犠牲になってもらうで兄さんッ!」
「ブハァッ!?」
イルマさんのスタートの合図と共に、シマオさんに砂をかけられました。
顔面に舞った砂埃に思わずむせ返ってしまい、スタートが著しく出遅れます。
「旗ゲットやッ!」
「ペッ、ペッ……し、シマオさん……ッ!」
そしてその遅れを短い距離で取り返せるハズもなく、あっさりと私は負けてしまいました。
と言うか砂が目にも入りましたねこれ、地味に痛い。
「すまんなあ兄さん。感謝しとるんはホンマやけど、ワイ、美味しいお肉大好きやねん」
痛む目をこすって顔を上げると、獲得した小旗を肩に乗せて悪びれもせずにこう言ってくるシマオさん……いえ、シマオの顔は醜く歪んでいました。
こ、この野郎。こっちが下手に出てりゃ、付け上がりやがって……ッ!
「あーあ、やられちまったな兄弟。残念残念」
『あ、あれって良いの?』
「邪魔しちゃいけないって特に決めてなかったからいいんじゃないかな? まあ、マサトが油断してたってことで、お昼の準備と片付け、よろしくね~」
「さあ、次はわたくしですわね! イッチに、イッチに……」
思い思いの感想を口にする中、私は静かにシマオに対する復讐を誓いました。
あなたはあのドワーフに対する復讐をやり遂げると誓いますか? はい、必ず。こんなもの二つ返事です。覚えていなさい。
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