第36話 感じた違和感
「あっはははははははははははははははははははははっ!!!」
めでたいお話の最中にマサトがオトハによって連れて行かれた後、ウルリーカさんはお腹を抱え、尻尾をパタパタとさせながら笑い始めましたわ。
「えっ? 急にどうされまして!?」
いきなり目の前で大笑いを始めた彼女に、わたくしはびっくりしてしまいます。どうされたのでしょうか。先程まで食べていた食事に、何か悪いものでも入っていたのでしょうか。
「いやぁ、ホントマサトって面白いよね! あの慌てふためき様ときたら……あっはははははははっ!!!」
「んだよ……やっぱ冗談だったってのか?」
笑っているウルリーカさんに向けて、野蛮人がやっぱりか、とため息をついています。え? 冗談?
「じ、冗談、とは……?」
「あれ? マギーちゃん信じてたの? さっきのボクの言葉はマサトをからかっただけだよ。告白も相思相愛も嘘さ。魔狼族にそんな告白方法なんてないしね」
「…………」
それを聞いたわたくしは少しの間呆けていましたが、やがて、自分が騙されていたということを理解しました。
「……よくも騙しましたわね! 騙してくれましたわね!」
マサトに恋人ができたのだと純粋に喜んでおりましたというのに……こ、このアマ!
「ごめんごめん。まさか信じられてるとは思ってなくてさ」
悪びれもせずに手と尻尾を振っているウルリーカさんですが、わたくしはまだ腹の虫が収まりません。せっかくイルマにも連絡して、週末にどこかでお祝いしようと考えておりましたのに!
「と言うか野蛮人! 貴方、嘘だと解っていたのですかッ!?」
「ああ。そーじゃねーかなー、くらいだけどよ」
野蛮人がのんきにお茶をすすっています。
「へぇ。どこで嘘だとバレてたのかな?」
「そんなもん、兄弟が誰かと付き合うことになったってんなら、帰ってきたその日に俺に話すだろ。それがなかったし、今日のあの聞いてないって反応なら、まあ冗談かなーと」
「それならそうと早く言ってくださいまし! 信じてたわたくしだけが愚かではありませんかッ!」
「知るかよ、んなもん。勝手に信じてたのはテメーだろーが」
「ムキーッ!」
この野蛮人をいつか遠い地に深く埋めてやろうとたった今決心しましたわ。安心なさい。そうそう現れるような深さには埋めませんから、ええ。
「あっははははっ! 君たちも仲良いんだね~」
「「どこがっ!?」」
「そ~ゆ~とこがさ」
思わず野蛮人と声をあわせてしまいました。マグノリア=ヴィクトリア、一生の不覚ですわ。
「んでさ。せっかくだから二人に聞いておきたいことがあるんだけど」
けらけらと笑っていたウルリーカさんが、少し調子を変えてわたくしたちに問いかけてきましたわ。改まってしまって、一体何でしょうか。
「んだよねーちゃん。改まっちゃって」
「せっかくだからあの魔族が出たって話、聞きたいな~って思ってさ」
彼女が口にしたのは、わたくし達が以前上級生に絡まれていた時に魔族が来たというあの話でした。ああ、なるほど。あの後もクラスメイトやら何やらから色々と話してくれと頼まれましたが、その類でしたか。
「聞きたいっつっても、どーせ噂になってんだろ? いくら当事者の俺らっつっても、おんなじような話しかできねーぜ?」
「それでも、さ。テステラで魔族が出たなんて聞いたことなかったし、ボクもハーフだしさ。気になるんだよ。せっかく当事者に話が聞けるなら、聞いてみたいんだ」
「まー、そーゆーもんだよなー」
なるほど。何せ、身近に敵国の輩である魔族が出たんですもの。気になって当然でしょう。それにウルリーカさんは魔族とのハーフ。自身と重なるところもあるでしょうし、人伝の噂より本人たちに直接聞きたい、ということもあるのかもしれません。
野蛮人も納得していますし、わたくしも頷きます。ええ、納得もできますとも。それなのに。
(……何でしょうか……この感じ……?)
わたくしは何故か、あのお父様が亡くなった時のような感じを覚えました。あの時ほど強烈ではありませんが、この感じはあの時と似ています。何か、良くないことが起こるような、何かあるかもしれないとわたくしの勘が告げて……。
「? どうかした、マギーちゃん?」
「い……いえ。なんでもありませんわ……」
「どうしたパツキン? 女の子の日か?」
こちらの気も知らずにセクハラをかましてした野蛮人に、遠慮なく右ストレートを叩き込むと静かになりました。ああ、世の中がこんなアホばかりであれば、わたくしの気も楽になりますのに。
「うわ~、綺麗にアゴに入ったね~」
「ああいう輩には一撃を入れるに限りますわ。それで、お話でしたか」
「ああうん。あそこで伸びてるエド君には悪いけど、聞かせてよ」
そうしてわたくしはウルリーカさんにあの日のことをお話しましたわ。黒炎については、万が一彼女がご存知でしたら笑われてしまいそうだったので、凄い魔法だったと他の人への話と同様にぼかしておきましたが。うんうん、と興味深そうに聞いているウルリーカさんに何か言われた訳でもないのに、わたくしは何故か嫌な感じを持ったままでした。
そのまま野蛮人はお昼休憩が終わるまで伸びていましたし、マサトとオトハは授業開始ギリギリまで帰ってきませんでしたわ。オトハがまだ不機嫌そうでしたので、マサトの弁解はおそらく終わってないのでしょう。気の毒でしたので一応わたくしからも、彼女に事情を説明はしておきましたが。
そうして午後の最初の授業が終わり、次はの授業のために教室移動をすることになりました。鬼面がいなかった二週間、午後一の授業はお昼ごはん後ということもあって寝て過ごしていたわたくしが、まさか一睡もできないとは。
それ程までに、わたくしは自身の勘のことを気にしていました。今までの経験上、この感じがあった時は、何か良くないことが起こる前触れ。どういうことになるかのか、そもそもいつ起こるのか、想像もつきませんが、まさか、ウルリーカさんについて何か……。
「ねー、聞いた? 隣のクラスの半人の子の噂」
「えー、なになにー?」
移動中、お手洗いに行ったオトハを待っていたら、通りかかったクラスメイトの女子らの話し声が聞こえてきましたわ。半人。魔族とのハーフの人の蔑称ですわね。隣のクラスというと、おそらくはウルリーカさんのことでしょう。丁度彼女について気になっていたわたくしは自然と、その会話を盗み聞いてしまいます。
「あの半人の子。転校してきたって話だけど……実は、前にいた北士官学校で彼女のこと知ってる人がいないらしいよ」
「えー嘘ー! どーゆーこと?」
「わかんないけど、北士官学校に知り合いがいる子がいて、その知り合いが半人なんていなかったって言ってるらしいの」
「まさか! じゃあ半人の子、転校してきたのって嘘なの?」
「わかんないけど、やっぱり半人だし、何か汚い手を使って入ってきたとか……」
「待ちなさい貴女たち!」
話を聞いていたらわたくしの勘がピンと反応しましたわ。この話、見過ごせません。
「今話してた内容について詳しく教えてくださいまし! 今すぐ!」
目を丸くしているクラスメイト達にもお構いなしに、わたくしは言い放ちました。この感じ、間違いありませんわ。びっくりしているクラスメイトから先ほどの話を聞き出すと、わたくしの勘は次第に確信へと近づいていきます。
「……おっ。パツキン。何してんだ、こんな所で?」
話を聞き終わり、わたくしが次の行動を考えていた丁度その時。都合よく案内人が現れましたわ。これも、わたくしが日頃積んでいる徳のお陰。ナイスタイミング、というやつですわ。
「いいところにですわ野蛮人。少し、わたくしに付き合いなさい」
「は? 何言ってんだオメー? もうすぐ鬼面の授業だってのに……」
「サボりなさい。異論は認めませんわ」
「はぁ?」
事情説明は向かいながらでもいいでしょう。とにかく今は、グッドマン先生のような面倒な人に見つかる前に、さっさと出かけることが先決ですわ。
「確認したいことがありますの。貴方、この街のことはよくご存知で?」
「は? ま、まー、こっちに来てからはそれなりに経ってっけど……」
「でしたら、わたくしを今から言う所へ案内なさい。貴方のような野蛮人が、わたくしの役に立てるのなら光栄でしょう」
「待て。おい。意味わかんねーぞ」
「説明は向かいながらさせていただきますわ」
言葉を交わすのも面倒になってきたわたくしは、野蛮人の服を引っ張って歩き出します。目指すのは次の授業の部屋ではなく、玄関。そして外ですわ。
「おい、引っ張んなって! テメー! 一体、どこ行く気だ!?」
「貴方に案内してもらい箇所は一つ……北士官学校ですわ」
そうして野蛮人に行き先を告げました。ウルリーカさんが転校前に通っていたとされる所、北士官学校に。
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