高校生とは付き合わない!!
葵 悠静
第一部 女子高校生の想いと同僚先輩への拗らせた感情
第1話 女子高生には引っかからない
「お兄さん、私と付き合わない?」
多くのサラリーマンが行き交う午前8時頃。
蝉の声だけは朝から元気にそこらじゅうに響いていて、それが余計に夏を感じさせて暑くなるような錯覚を受ける。
会社に行くことが憂鬱な人が多いのか、近くの駅に向かって歩くスーツ姿の人たちはみんなその表情に疲れがにじみ出ていて、くたびれているような印象を受ける。
「ねえねえ聞いている? お兄さん?」
そんな社会の奴隷となった我々にかまうことなく朝から堂々と何活というものをしているかのような女性の声。
その声から若さがにじみだしており、学校がめんどくさいとかいう女子高生あたりがそこら辺のサラリーマンをひっかけているのだろうか。
「それにしても朝からやるなよ……」
絡まれたら面倒だ。
少し早歩きになりながら背後から聞こえてくる声から遠ざかろうとする。
「ねえ、聞こえてるんでしょ? 早歩きで逃げようとされるとさすがに寂しいよ? ねえくっきり二重の身長170あるかないかわからないけど、髪の毛立たせてごまかしてそうなお兄さん!」
「俺の身長は170.5センチだ」
しまった……思わず返事をしてしまった。
身長のことを出されると仕方がない。この間の健康診断で170を超えていたのだ。
断じてずるをしたわけではない。俺は大人だからな。ちょっとだけ爪先立ちになったとかそういうことはしていない。
大人でも身長は気になるのだ。
しまった、身長に意識が持っていかれているうちに、にやにやと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる女子高生が隣に立っていた。
肩にかかるかかからないかくらいの髪を揺らしながらくりっとした大きな瞳でこちらを見つめてくる少女。
髪を染めているような感じもなく、どちらかというと中学生からそのまま体が成長して高校生の制服を着ていますといったような童顔が目立つ。
それに夏真っ盛りでこんなにも暑いというのに、少女はなぜか長袖のワイシャツを身にまとっていた。
最近の高校生は見た目では判断できないな……。
「ずっと俺に話しかけていたのか?」
「そうですよ?」
屈託のない笑顔をこちらに向けてきながら返答してくる女子高生。
一見すると裏表のないような純粋な表情を向けてきているが、この顔に騙されてはダメだ。
きっとおれからどうやって現金を搾取しようか、何をおごってもらおうかとかそういうことを考えているんだろう?
俺はそんなちょろそうに見えたのだろうか。
ちらっと腕時計に目をやり時間を確認する。出勤時間までにはまだ余裕がある時間だ。
俺はこれ以上付きまとわれることを避けるため、その場で足を止めてやけに楽しそうに隣を歩く女子高生の方に向いた。
それにつられるように女子高生も不思議そうに首をかしげながら俺と向かい合う。
「仮に俺が君の提案をOKしたとして、金を絞るとるだけ搾り取られて、通報されて豚箱行きの可能性が7割。純粋に付き合ったとしても別れた後に通報されて、豚箱行きが2割。付き合ってそのまま結婚する可能性が1割。そんな危険を冒して俺がお前と付き合うと思うか?」
「けけけけ結婚!? それはちょっと気が早いんじゃないかな……」
なんか俺の意図と違うところへの食いつきがいいようだが、俺の意図はちゃんと伝わっているのだろうか。
しばらく顔を真っ赤にしてその場であたふたとしていた女子高生だが、少しして落ち着いたのか何かを考えるように何度も首をひねっていた。
「俺に話しかけたのは間違いだったな」
別に誰でもいいのであれば俺じゃなくても、ほいほいついていく大人がいたかもしれない。
でも俺はそんな大人にはならない。まだ金は稼ぎたいしな。
「それはつまり……?」
「高校生と付き合うなど、断固お断りだ」
俺の言葉を理解できていないのか放心状態のようにも見える少女を置いて、俺は歩みを再開させる。
ここまではっきり言っておけばもう彼女が俺に構おうとすることもないだろう。
朝からどこか疲労を感じながら俺はそのまま電車に乗り会社へと向かった。
暑い夏の日差しの中、繰り返す日常にふと訪れたスパイスだと、明日からはまた平穏な日常が戻ってくると俺はそんなことを考えていたのかもしれない。
しかしその考えは甘かった。こんな出来事はあの女子高生との出会いの一幕に過ぎなかったのだ。
そして俺……
それにしても、あんなに手を震わせながら話しかけてくるぐらいなら真面目に高校生やっとけばいいのに。
……最近の高校生の考えることはわからん。
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