五分間だけ過去に戻ることができるチケット

亨珈

第1話 勇気をだして

 僕の人生で、最大のネット通販だった。モノの大きさじゃなくて、金額と、そして勇気という意味で。

 何度も何度も概要欄と注意書きを読んだ。見落としや勘違いがないか、文脈をしっかり理解するように努めた。


 レビュー欄は全てに隈なく目を通したし、サクラじゃないかと疑って、そのアカウントの買い物状況までもチェックした。

 できることは全てやったと思う。

 あとはもう、信用するしかない。この品物が、書いてあるとおりの効果を発すると。


 『五分間だけ過去に戻ることができるチケット』


 その名前のとおりであってくれと、生きてきた三十年の中で、もっとも強く、泣きたいくらいの切実さで願った。




 スマートフォンから発注した翌々日、その品物は届いた。

 てっきり薄っぺらい封筒に入っているものと思っていたら、厳重に厚紙の箱に入り、防水シートに包まれている。

 中には、ロウソクとそれを立てる台。そして、白地に金色の装飾をされた紙に黒々とプリントされたチケットが一枚。

 マッチは送ることができませんので各自ご用意ください、と書いてあったから、準備してある。


 いよいよだ。覚悟ならしているはずなのに、いざ実物を手にすると震えてうまく持てない。

 うっかり折れたり破れたりしないようにと、慎重に斜め掛けの鞄に入れて、僕はアパートを後にした。

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