第14話「レイル、一昨日に行く(後編)」

「それだぁぁぁああああああああああああああ!!」


 グワバッ! と顔を起こしたレイル。


「ぬぉ?! なんだなんだ?! ど、どーした、どーした?!」

「それだ!! それだよ!! それをくれ!!」


 行商人につめよるレイル。

 彼の手には、今まさに商品説明を終えたばかりの毒の塗られた吹き矢のセット──『ドラゴンキラー』があった。


「頼む! それを売ってくれ、今すぐ!」

「お、おう! コイツが気に入ったか。よしよし、安くしといてやる──」


 いいから早く!!



 ポォン♪


 ※ ※ ※


 残り時間 00分21秒、


         20秒、


         19秒、


 ※ ※ ※


「じ、時間が?!」

 あと、数十秒。

 もう、一刻の猶予もない!


「俺ぁ、兄ちゃんが気に入ったからな、オマケのオマケして────ダラララララララララ、」

(く……コイツ!)

 余計な効果音付きの行商人に苛立つレイル。

 ぶん殴りたくなるのをグッと抑えると、



 ダララララララララララ────……。


「──ディン♪ パンパカパーン! なんと、『ドラゴンキラー』のお値段…………金貨1枚でーす!!」


 ズルッ!!


たっかいわ!!」

 そんな金あるかっつの!!


 世界共通の通貨ではあるが、

 大体パン一個が銅貨1枚程度。

 安宿で一泊銅貨50枚、グレードの高い宿なら銀貨1~2枚だ。


 そして、銅貨100枚で銀貨1枚分。

 銀貨100枚で金貨1枚。ほかにも白金貨から、大金貨。銅貨にもクズ銅貨などいろいろ種類があるが、相場そのくらい。


 ちなみに町の衛兵の給料がひと月で、だいたい銀貨30枚程度。

 そう。金貨1枚がいかに大金か分かるというものだ。


「ぐふふ! これ以上はまからねぇぞ──だが、効果は折り紙付きよ」


 あーあー。そうだろうともさ!

 難点は、至近距離でドラゴンの・・・・・・・・・柔らかいところを狙う・・・・・・・・・・っていうクソ仕様だけどな!!


「ふざけんな! そんな大金あるわけねーだろ!」

「じゃー駄目だ。──他のはどうだい?」


 他のなんかいるか!!

 それがいるんだ!!


 5分経過すればレイルは────……。



 ポォン♪


 ※ ※ ※


 残り時間 00分12秒、


         11秒、


         10秒、


 ※ ※ ※



「くそ!」


 あと、十秒だと?!


 い、いっそ奪うか?!


 どうせ、時間が経てば元の時間軸だ。

 追ってはこれまい。そうして奪って────……。


「あ、言っとくが、盗もうたってそうはいかねぇぞ。お尋ね者になるし、なにより──」


 ムキぃ!!


 行商人が軽く腕をまくると、鍛え上げられた腕が現れる。

 ……そりゃ単身行商をしてる商人がザコなわけがない。


「ぐ……!」

 わかってる!! そんなことはわかってる!!


 いくら俺の天職が『盗賊』だからって、犯罪者になる気はねぇ!

 ミィナに合わせる顔がないし、なにより、俺は────……!!




   『あばよ! 疫病神』




 ロード達のようなクソと同じレベルに成り下がってたまるか!!

 本当の『疫病神』になってたまるか!!


「そんなに欲しいのか? なんか、金目のものと交換でもいいぜ? 懐とかに何か入ってないのか?」


 懐だぁ?!

 そんなに金目のものをもっているよう、に──……見え。




    『もう用なしだ──』


    『お前はもう用なしなんだよ──

     今日までご苦労さん』



      ピィン♪




 あ────ッ!!



 キラキラと輝く金貨の軌跡を思い出したレイル。

 確かに懐には微かに違和感が──。



「あ、あの野郎…………!──────最後の報酬、どういたしまして!!」


 疫病神という誹りとともに思い出したのは、ロードが投げつけた金貨。

 そして、その行方────……。


「まさか、未来から物を持ち込めるなんてな……。ロード、ありがたく借りとくぜ、こいつぁよぉ!!」


 そっと取り出した黄金色の輝き。

 ロードの投げつけた金貨がそこに──。


「は、」

 はははッ!


「あははははッッ!」


 こんな金貨触りたくもなかったけど──!

「だけど──」

 金に、綺麗も汚いもあるかッ!


「こ、これで売ってくれ────……」



 ──ポォン♪


 ※ ※ ※


 残り時間 00分07秒、


         06秒、


         05秒、


 ※ ※ ※



 触れたくもない、クソ金貨。

 そいつが確かに懐に──。


 バンッ!!


「お、なんだ持ってるじゃねーか!! ぐふふ、毎度ありぃ」

 力強く、金貨を行商人に叩きつけると、



 ロード………………。

 金貨ありがとよ────。



 そっと手を伸ばしてドラゴンキラーに触れる。

「……兄ちゃん、そいつの品質は保証するぜ!」



 そして、

 そして──……。



 そして!! ロードぉぉぉぉぉぉおっっ!




「──────借り・・を返しに行くぜ」





  そうとも……!




 ふと、頭をよぎったロードの捨て台詞。

  『一昨日来やがれ、疫病神!!』


 …………はッ!

 望むところだ、ロード。


「…………あぁ、ご要望通り、一昨日に来た・・・・・・ぜ──」


 ──ロード!



 ガッ!!

 ……と、ドラゴンキラーという毒の吹き矢を力強く掴んだレイル。


 それを見届けた行商人が満足げに笑い──……。




 ──その瞬間!!!




 ポォン♪



 ※ ※ ※


 残り時間 00分01秒、


         00秒、


 『一昨日に行きました』


 ※ ※ ※



 カッ────────!!


 レイルを含む世界が白い光に包まれる!


 行商人の動きが止まり、

 騒いでいた自警団の喧騒も止み、


 世界が────────……。








 レイル一人の人間を、

 『一昨日過去』に行ってきたことを許容した・・・・

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