第12話「Sランクの引き際」
ロード、上ぇぇええええ!!
その言葉が誰から出たものだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
そんなことより今は──……。
『キュルァァァアアアアアアアア!!』
空を圧する
そして風圧ッッッ!!
「な、なんだとぉぉおおお!! 二匹目だっぁあああ?!」
ゴォォォオオオオオ!!
物凄い風圧を叩きつけながら、羽根を持った巨体が村の広場を航過していった!!
「う、うそだろ──グリフォンが二匹もだとぉ!?」
これにはロードも。
そして奴に斬られそうになっていたレイルも驚いた。
「ちぃ!! ふ、フラウ!」
「む、無理ぃ!! 二発目なんてすぐ打てるわけが──」
馬車の中から状況を察したフラウが怒鳴る。
それを聞いてロードが慌てて宿に逃げ込んだ。
「くそくそくそ! ま、まずいぞ……! 二匹だなんて想定外だ!」
「畜生! 俺の槍が──」
「わ、私も魔力が尽きました」
『放浪者』の攻撃メンバーが万策尽きたといった様子。
彼らも初撃の奇襲に賭けていたのだろう。
予想外の事態にてんやわんやの様子。レイルにトドメを刺すどころではない様子だった。
そこにパニックに陥った村人が大挙して押し寄せる。
なにせ、『放浪者』の面々が後先考えずに大技をブチかましたのだ。退避場所になるはずの家も壁が破壊されたり、炎上したりで村人は家屋から飛び出さねばならなくなっていた。
「た、たたたた、助けてください! 」
「ロード様ぁぁああ!」
勇者と名高いロードにすがり村人たち。
「ちぃ! どけ! 邪魔するな!」
ラ・タンクがタワーシールドを振り回して村人を威嚇する。
「ボフォート! マナポーションだ!」
「わわわ! 急に言われても、魔法は使えませんよ?!」
投げ渡されたマナポーションを受けとり、慌てて飲み干すボフォート。
それを尻目に、ラ・タンクとロードはなんとか態勢を立て直そうとする。
馬車の中では初撃を決めたフラウが
だが、
『キュルァァァアアアアアアア!!』
急旋回をしたグリフォンが『放浪者』を明確な敵とみて宿を強襲する。
「来たぞ!!──フォーメーションEだ!」
ラ・タンクの身体を盾にフォーメーションを築き上げた『放浪者』!
ボフォートが極大魔法を放つため魔力を回復させ、その時間をロードとラ・タンクが稼ごうとする。
「「「勇者さまぁ!! ロードさまぁ!」」」
その雄姿を見て村人が歓声をあげるが────……。
『ゴルァァァァアアアア!!』
翼を格納し、急降下滑空体制に映ったグリフォンを見たラ・タンクが悲鳴を上げる!
「む、無理だ!! 直撃するぞ!」
「ひぃ!! か、躱せぇぇえ!!」
敵の攻撃を受け止めるべき
そして、ロードもラ・タンクにつられて。無様な恰好で地面に伏せてしまうと──。
「ちょ?! わ、私がいるんですよぉぉぉおおお?!」
一人敵前にボケラーと突っ立ち詠唱していたボフォートが情けない悲鳴を上げる。
おかげで詠唱中断……。
半端になった魔法がうねりとなって魔力の暴走を始めた。
「あ、しまった────!! 爆発するぞぉぉおお!」
「「はぁぁ?!」」
二撃目の極大魔法、サンダーロードは不発。
その上あろうことか…………暴走した!!
「あーーーーー……逃げろぉぉおお!」
「お助けぇぇえええ!」
ドカーン!! と、中空で爆発したボフォートの魔法。
幸いにして大した威力ではなかったが、逃げ惑う『放浪者』の陣形は崩壊。
フォーメーションえとやらは、用をなさなくなってしまった。
そこに、逃げ足の速いロードとラ・タンクが「ひーひー」と逃げ惑う。
だが、それ以上にグリフォンのほうが疾かった!!
「うわ! 来たぁぁああ!」
「ろ、ロード!! 剣持ってるんだから、戦えやぁぁあ!」
む、無理だーーーーーーーー!
「あーーーーれーーーーー……」
「ひぎゃぁああああーー……!」
ドッカーーーーーンと、体当たりで突っ込むグリフォン。
遁走中のロードとラ・タンクを標的に定めると、グリフォンが急降下アタックを仕掛けた!!
そして、ズドォォオオン!! と、半壊した家に逃げ込んだロード達ごと、家を吹っ飛ばすと、さらに追撃に移らんとする。
クルクルと無様に舞い上がったロード達。
「ひーひー! む、無理だ! 二匹は無理だぁぁあ!」
「ど、どーすんだよ、ロード! アーーー……鎧がへこんだぁぁあ!」
豪華装備のおかげで命拾いしたようだが、満身創痍。
次にまとものぶつかればロード達と言えどもグリフォンにやられるだろう。
その姿を、傷だらけになったレイルが苦々しくみる。
(なんだよ……! 卑怯な不意打ちしなきゃグリフォンを倒せないのか?! それで、Sランクなのかよ!!)
ドラゴンすら倒せる実力を持つのがSランクだといわれる。
そのうえ『勇者』とさえ称されるようなロードの実力があれだ……。
確かに優秀なスキルを持ち、相当な実力者なのだがこの体たらく──!
まともに反撃すらできずに逃げ惑うのみ……。
クエストは失敗、このままでは全滅──────。
「はぁ……。あー失敗失敗。仕切り直しよ」
だが、ここで戦闘に加わっていなかった聖女が発言。
「ロード。これは不足事態よ。ここはいったん逃げましょう」
ギョッとしたのはそれを間近で聴いていた村人たちだ。
ここまでグリフォンを怒らせておいて逃走するという。
──に、逃げるだなんて。
「う、嘘ですよね? ロードさま?」
「せ、聖女様がそんな発言を……?!」
「たたた、助けてください! このままでは村は──」
縋り付く村人たち。
だが、ジロリとそれをひと睨みすると聖女といわれた、気がれなき乙女は村人たちを小馬鹿にするように笑う。
「はぁぁ? 助けろぉぉ? 知っ~~~たことじゃないわー。さ、撤退するわよ」
それだけ言うと、くるりと踵を返し、馬車に乗り込む。
なるほどなるほど。冷静な聖女様──セリアム・レリアムは、あっさりと撤退を提案。
そして、ニィと口角を歪めると、ドワーフ少女のフラウを見る。
「んふふ~……♪──幸い、
聖女の意味深な目線を、ふいっと躱すフラウ。
巨大な弩を担いだ
「はっ! な、な~るほど、生き餌がヘイトを稼いでいる隙に村から脱出か──悪くねぇな」
グリフォンは知恵ある生物だ。
二匹がいたということは
ならば、片割れを殺したロード達を逃しはすまい──。
だったら……。
ボロボロの恰好のロードも、ポンと膝を打って勢いよく立ち上がる。
「よ、よっしゃあ! 撤退するぜッ!……フラウ────へへへ、たまには上手くやるじゃねぇか」
ポンポンッ、と気安げに肩に触れるロードの手を嫌そうに払いのけるフラウ。
レイルが生き残れるように攻撃したことを揶揄するロードと、それを聞いて顔背けるフラウだったが、結局何も言わずに馬車に乗り込んだ。
「さ。行くわよ。時間がないから荷物は忘れましょ」
「命あっての物種──まぁ、この分だと怒り狂ったグリフォンは村を食いつくすでしょうね」
セリアム・レリアムもボフォートもまったく村の事情など意にも介していない。
「うーん。ま、槍なら後で取りに行けるか──……しゃあねぇわな」
ラ・タンクもあっさりと槍を諦めると、御者席に乗り込み、馬に拍車をかけた。
「ハイヨー!! はぁ!! 行け行けー! 逃げるが勝ちよ!」
そして、全員────レイルを除いて乗り込んだことを確認すると、
「「「ヒぃぃッヤっホーーーーーイ!!」」」
バッカーン!! と、宿の馬車止めを破壊して突進する大型馬車。
ガラガラガラガラ!!
「あーーーばよー! 疫病神ぃぃぃいい」
「まーた、戻ってきますよぉぉ。あっはっは!」
『放浪者』の連中はそう好き勝手の宣うと、グリフォンが上空を旋回してるのを尻目に馬車を走らせる。
だが、グリフォンがそんなに甘いわけが────……。
「ふふふ♪ 頑張ってねー!
ピカッッ!!
一瞬にして、空をも霞ませるような眩い光が生まれる。
それは村全体を覆いつくし、生きとし生けるものすべての目を眩ませた。
『ギュァァァアアアアアア!!』
さすがにこれにはグリフォンたまらずクルクルと迷走し、村の教会に突っ込む。
ドカーーーーン!! と石造りの教会が崩れ、大勢の避難していた村人が泡を食って飛び出してくる。
「あぎゃ!!」
「ぎゃああああ!!」
そこに視力の回復したグリフォンが起き上がり、怒り狂って村人を食い漁ると、
『グルァァァアアアアアアア!!』
空を圧するように咆哮した。
ビリビリと震える空気。
もはや、グリフォンの怒りはこの地の人間すべてを食いつくすまで収まらないだろう……。
そして、状況的に『放浪者』のメンバーを優先的に。
この位置関係ならグリフォンはまずレイルを襲うのは間違いない。
だからロード達は今のうちに逃げるのだ。
レイルと村人たちを見捨てて──。
「どけどけーーーーー!!」
ラ・タンクの乱暴な運転。
それは村人などに配慮するはずもなく、
「うわ、なんだなんだ!」
「危ない! みんな避けろッ!」
村の門を守っていた自警団を蹴散らすと、ロード達はあっという間に馬車で逃げ去って行ってしまった。
なんという速さ────……。
「あ、あいつら……!」
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