第11話「奇襲攻撃」

「ぐ、グリフォン……!」


 おとぎ話では聞いた。

 そして、ギルドの掲示板で見たこともある。


 どれもこれも、凶暴そのもののモンスターとして……。

 そして、自分なら一生関わることがないと思っていた敵うはずのない化け物──……。


 そいつが、


『グルォォオオオオ……!』


 ズズン……!

 巨体な割に柔らかな羽音で着地した大型モンスター!!


 ──グリフォン!


「くそ……! あいつ等、このために──」


 ロード達は言っていた。



 いつも通り・・・・・、と。


 いつも通り・・・・・と……!



 つまり、


「つまり、テメェらいつもこうやってクエストやってんのかよぉぉぉおお!!」


「「「「ぎゃははははははは!!」」」」


 それは肯定の笑い。


 いつも通り。

 そう。いつも通りなのだろう──……。


 レイルのような、誰にも顧みられない・・・・・・・・・冒険者・・・を餌に、こうしてモンスターを狩る──!!


 あああ、有効だろうさ!!

 簡単だろうさ!!


 そして、理解した……!



  「ギルドマスターからの紹介です」


 

 そういったメリッサの言葉を!!

 

「どいつもこいつもグルなのか!」

「へへ、きがよくて助かるぜ──」


 サッと、宿に潜り込み、中から様子を窺うロード達。

 グリフォンは完全にレイルを餌と認識したらしく、ズンズンと足音も高く迫る!


「くそ……! 食われてたまるか!」


 ズルズルと這いずるレイルだが、──グシャ! 



「あがぁぁあああああ!」



 ゴリゴリゴリ……と、大腿骨が潰れていく感触に喉から絶叫が漏れる。

 ピピっと、飛び散った血にグリフォンはご満悦。おびただしい血がブウシュウウウと溢れでる。

 

「うひゃー……ありゃいてぇわ」

 ニヤニヤと建物から様子を窺っているロード達をこれでもかというくらい睨みつけるが、そんな視線には慣れっこらしい。


『ゴキュルァァァアアア!!』

 そして、それに気をよくしたグリフォンがレイルを啄ばまんとして──……。



「……そこぉ!」



 ────ガキュンッッッ!!


 宿に入れておいた馬車の中からフラウの声!

 その声と同時に何かが射出されグリフォンに突き刺さった。


 ……ズンッッッッッッ!!


『────クルァァァァアアアアアアアアア!!』

「な?!」


 まるで巨大なハンマーで殴られたように、グリフォンの巨体が一瞬浮かび上がる。


 そして、


 ──バシャリ!! とドス黒い血がレイルに降りかかった。


「う、ぐ……」

(な、なにが──??)


 グリフォンからのトドメを免れたレイル。

 その瞬間、ロード達が動き出した。


「よっしゃああ! チャンス到来ぃぃい!」

「いっけーーーーー!」


「魔力全開──デカいのをブチかましますよ……!」



 そして、『放浪者』達の全力攻撃が始まった!!


「「「攻撃開始ッ!」」」


 スキルを発動させたロード。


「へへ……! 動きを止めればこっちのもんよ──」

 彼の職業やスキルを聞いたことはなかったが、Sランクなだけはあって圧倒的な魔力の迸りを感じる。


 すぅぅ……。

「おらぁぁああああ!! ライトニングスラッシュ光波漸!!」


 ピシャァァアアアアアン!!!


 ロードのスキルが聖剣に宿り、バチバチと発光してグリフォンの片羽根をもぎ取った!


『クルァァァアアアアアア?!』


 強襲を受けたグリフォンが戸惑い叫ぶ。

 だが、『放浪者』の追撃は止まず、すかさず……次はラ・タンク──!!


「おっしゃぁぁあ!! 追撃、追撃ぃぃい!!」


 ラ・タンクが槍の穂先にスキルを乗せて突撃!


「うっっらぁあああああ!! カイザースピアー皇帝槍撃ぁぁああ!」


 ドズぅぅぅううン!! と、大音響!

 その直後に突き立った槍が、深々をグリフォンの後背に生える。


 Sランクの膂力と、重装備の全重量


『ゴキュルァァァアアアアアア!!!』


 もはや死に体のグリフォン!を乗せた強烈な一撃だ!

 だが、大空の覇者がこれしきの攻撃で────……。


「よくやりました!! イイ避雷針ですよー!」


 しかし、『放浪者』は容赦しない。

 そのタイミングを待っていたといわんばかりに、最後の一手!!


 そう。それは、勇者・重騎士・賢者の三位一体の連続攻撃。


 ────トドメはボフォート!


極大魔法アルティメットマジックッッ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ! と、ボフォートの直情に魔力の黒雲が発生し帯電し始める。


「はぁっぁあああ……!」


 更に魔力を込めるボフォート。

 周囲の小石や瓦礫──そして、彼自身が魔力の力場に釣られるように僅かに浮かび上がっていく。

 そのまま、黒雲の中に青白く光った魔力の波動が渦巻き、まりょくを最大に溜め込むと──……!


 ボフォートが普段は閉じているような細目をカッ!! と見開くッッッ!

「はぁぁあ!!」

 虚空から現れた魔力の塊が紫電を放つッッ!!

「──……トドメですよぉぉぉお!! 究極雷光サンダーロード

 極限まで膨れ上がった魔力の雷が炸裂したッッッ!


 ──バッッッッッチぃぃいンッ!!



『グギャァァァアアアア!!』



 開拓村を押しつぶさんばかりの絶叫!!


「まだまだぁぁぁあああああああ!!」


 視界を焼く魔力の雷がラ・タンクの槍を避雷針にして、グリフォンの内部をローストした。


 ────バチチチチチチチチチッッッ!


 内臓を焦がす電撃!

 それにはたまらず、あのグリフォンが絶叫し、

『────ギャオォォオオオオオオオ…………ォォッ…………』


 そして、終局──……。


 ついに、あの巨大なグリフォンが──ズズン……と、身を沈めてしまった。




「た、倒した……?」




 レイルの目の前で、あっという間に滅ぼされたグリフォン。

 いくら奇襲されたとはいえ、すさまじい攻撃力だった。


 これがSランクパーティ『放浪者』────……。

「ど、どうです? 効きましたか?」

 ブシュゥゥゥ……と、魔力の奔流が収まった先にはローストされたグリフォンの遺骸が…………いや、まだ、か。


「お、しぶといな?」

「ボフォート、魔力足りてねぇぞ?」


『──コキュルルルゥゥゥゥ…………』


 コッフ……。

 コッフ…………。


 地に臥したグリフォンが荒い息をつき、呼気が白く濁る。

 ……致命傷だ。


「まぁ、いい。さっさとトドメをさすぞ、ついでにそのクソ餌野郎も消し炭にしとくか?」


 ロードにクソ餌野郎呼ばわりされたレイルも、ドクドクと溢れる血に急速に体温を失っていく。


 そんな中でも、グリフォンの力強い魂を間近に見てレイルは信じられない思いだ。

 これでも死なないグリフォンと、それを倒してしまった『放浪者』の実力に──。


(災害級モンスター……グリフォン)


『コフー…………』


 臥したグリフォンとレイル。二人の目が合ったような気がしたとき、


「ん?……おいおい? なんだぁ、この疫病神──生きてるぜ。おい、フラウ。わざとこのタイミングで撃ったな?」


 レイルの生存を知ったロードが馬車の中のドワーフの少女をジロリと睨んだ。


「…………タイミングがそこ・・だっただけ」


 言葉少なげにポツリと呟いたあとは馬車の中に引っ込み、もう顔を出さないフラウ。

 

「……ち。一手間増えるじゃねーか。役立たずのトドメに一発。グリフォンにもトドメを一発──」


 そういって、剣を振り上げるロード。

 狙いはもちろんレイルだ──。


「カッ! めんどくせぇ……」


(──く、やっぱりそうか……!)


 今にもレイルの首を刎ねんとするロードを見てレイルは思う。


 ────コイツは……レイルに躊躇いもなくとどめを刺すと。


 そうとも。そうだろうさ。

 これまでだって、囮にされながらも生き残った冒険者がいたはずだ。


 だが、ロード達の悪事が明るみに出たことはないらしい。


 つまり────!!


 つまり……!


「……お、お前ッ!! そうやって何人手にかけた! この人でなしが!!」

「あ゛? 元気じゃねーか。ハッ、疫病神がよぉ、何を生意気な口きいてんだよ」


 その目はどこまでも冷酷。

 最後には口封じとして、うまく生き残っても殺すつもりなのだ。


「先にグリフォンを殺ったんじゃ、お前にも経験値がいっちまうからな。悪いけど、先に死んでくれ──」


 据わった目のロード。もはや、レイルなど路傍の石と同じ扱いだ。

 僅かばかりとはいえ、戦闘に貢献したレイルに経験値の分配がいく────だが、それすらも惜しいとばかりに、ロードはレイルを取らんとする。


 だけど──……こんなことが許されるはずがない!


「あばよ、疫病神──」


 て、

「てめぇぇえええ! このクズ野郎がぁぁぁああああ!!」


「やっかましい! 一昨日来やがれ『疫病神』────お前みたいな生きていても役に立たない厄災はよぉ、死んで当然なんだよ。俺たちの肥やしになることを誇りにして死ねよ。そして、安心しな……『疫病神』なんざいなくなっても、誰も気にしやしねぇさ」



 く、くそ野郎────!!



「いつか。いつか、絶対──……」

「あーあーあーあーあー。そーいうセリフは聞き飽きてんだよ」


 そうだ。

 いつか絶対──。




 絶対、殺してやる──……!!




「ロぉぉぉぉおおおおおおドぉぉぉおおおおおおおおお!!」



 つぶれた内臓から血を噴き出しながら怨嗟の叫びをあげるレイル。

 死の瞬間まで、ロードを呪ってやるとばかりに──!


 だが、殺意の籠った目を涼しげに受け流すロード。

 まるで慣れているといわんばかり──。

「へへ……!」

 そして、キラリと輝く聖剣に太陽が反射した。

 数瞬のあとにあれが振り落とされ、レイルの首を切り落とすのだろう。


 悔しくも、その聖剣は場違いにキレイで──……反射する太陽の光が温かくまぶしかった。


(ミィナ………………今、行くよ)


 最後に思ったのは最愛の幼馴染の顔。

 喧嘩別れしたあの日の彼女の顔────……。


「ミィ……な」


 ふっ……と、陽光が翳る。


 眩しいくらいに反射していた聖剣に影が差す。


 遥かかなたの天上に瞬く太陽の光を覆う何か────。

 そう。何か黒い影・・・・・に、それ陽光が塞がれる。


 え?

(影って──…………。空に、何か)





「じゃ、あば」

「ロード、上ぇええええええ!!」











※ ※ 備考 ※ ※


ロード・カミンスキーの能力値


体 力:2672

筋 力:3934

防御力:2950

魔 力: 565

敏 捷:1385

抵抗力: 842


残ステータスポイント「+45」


※称号「翼竜殺しワイバンスレイヤー



ラ・タンクの能力値


体 力:3298

筋 力:4546

防御力:6002

魔 力: 165

敏 捷: 785

抵抗力:3242


残ステータスポイント「+12」


※称号「千人切りジェノサイダー



ボフォートの能力値


体 力:1299

筋 力: 715

防御力:1312

魔 力:5083

敏 捷: 911

抵抗力:4329


残ステータスポイント「+9」


※称号「固定砲台アーテラリー

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