私と彼女は悪役令嬢
いづみしき
プロローグ
「貴女のような薄汚い平民が、なぜこの由緒正しき学校に通っているのかしら?」
足元で蹲る少女を見下すようにして、メアリはそう問いかける。
少女はじんわりと涙腺を腫らし、その場から一歩も動けずにいた。
良い様だ。ちょっと周囲より魔力量に優れていたからという理由で、ただの平民がこの由緒正しきイーストン校に通う事自体が間違っているのだから。
「ねえ返事をしてはいかが?それとも、平民の娘は質問に答えるという簡単な事も出来ないのかしら?」
私の発言に、取り巻きの女生徒たちがくすくすと声を漏らす。
それでも目の前の少女——エリザは何も喋らない。ただ悲しげに、まるでメアリを憐れむかのようにじっと見つめている。そんな顔を見るだけで、メアリは耐え難い苦痛を感じていた。侯爵令嬢であるメアリ・スカーレットに対して、平民の少女が同情を向ける。そんな屈辱的な行いを彼女のプライドは、到底認める事が出来ないのだ。
もう一声。何でもいい、もう一言何か彼女に屈辱を与える事が出来れば。
「あぁ、良い事を思いついたわ」
メアリはパンと手を叩き、エリザと視線を合わせる。
「ねぇ貴女。貴女が居るだけで我が校の気品が下がってしまうわ。だからお願い、このイーストン校から出て行って下さらないかしら?」
妙案とばかりに喜ぶメアリと対照的に、エリザは何を言われたのか分からないといった表情で呆然としていた。その瞳に浮かぶのは悲嘆か、あるいは驚愕か。
何にせよ、メアリにとってこれ以上ないと言える反応だった。
どんないじめにもどこか達観したような反応を示していた彼女が、初めて動揺を隠し切れずにその痴態を晒しているのだから。
「どうしたの?驚いたような顔をして。折角ですもの、手続きはこの私手づから進めて差し上げますわ。あぁ、遠慮しなくて良いのよ。旅立つ貴女へ、せめてものお祝いなのだから。ありがたく賜りな、さ……い……?」
瞬間、視界が歪む。激しい頭痛に立っている事も叶わない。
力なくその場に崩れ落ちるメアリ。取り巻きの女生徒たちが甲高い悲鳴を上げながら駆け寄ってくるのが分かる。
——あぁ騒々しい、お願いだから黙って下さらないかしら。
頭の中をかき回されるような錯覚。「何か」がメアリの隙間に入り込む。
——気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
見た事もない風景。見慣れない制服。メアリの知らない「何か」の記憶。
——何かしらの「呪い」?否、そんな素振りがあればこの私が見落とすはずはない。
瞬間、脳裏に浮かんだのは見たこともない一人の少女。
メアリと同じ深紅の髪色、威圧感のある大きな釣り目。まるで鏡写しのような一人の少女。
感覚が狂う。意識が混ざり合い、別々の存在だったはずの二人が一つに溶け合っていくのが分かる。
対面する少女の視点とメアリの視点が交差し、混ざり合う。
——
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