第75話 『自問自答』
◇◇星夜side◇◇
さっきのは本当に危なかった。
みぞれは楽観視しているようだけど、もしも俺が少しでも腕を引くのが遅かったら、もしかしたら取り返しのつかないことになってたかもしれなくて、柄にもなくちょっと怒鳴ってしまった。
まぁ、でも見た感じ怪我も無くて、身体のどこにも車とは当たってなかったようだし、本当によかった。
「もう大丈夫か?」
「うん! ありがと!」
流石にちょっと怖かったのか小さく震えていたので、仕方なく抱きしめて撫でてあげたら、いつもの元気に戻った。
「それじゃ、今度はゆっくり歩いていくぞ」
「はーいっ!」
そう言って歩き出せば、本当に反省してるのかいつものテンションに戻って、腕にくっついてくる。
「‥‥‥なぁ、こんなくっついてていいのか?」
「へ? 何言ってるの? リード握っててって言ったじゃん」
「だから、そういうことじゃなくて‥‥‥まぁ、今はいいや」
またあっちこっち飛びつくようにフラフラされたら困るし、そっちの方が今は心配だ。
ほんとに、こいつの彼氏になったやつは大変そうだなぁ‥‥‥。
というか、この前見たあいつはみぞれの彼氏なんだよな?
さっきは俺がなってくれればいいじゃんとか言ってたけど、教室を出た時もその彼氏(暫定)と見つめ合ってたし。
だから、俺には最近のみぞれの行動が分からない。
そもそも、今の二人きりのこの状況もよく分かってない。
分かるのは、もしも本当に、土曜日にみぞれと一緒にいたあいつがみぞれの恋人であるなら、月菜が一緒にいるときならまだしも、俺と二人だけはよくないだろうって言うこと。
ましてや、こんなにべったりくっついてたりなんてしてたらなおさら。
でも、それはみぞれも分かってるはずなんだよ。
だって知ってるはずだから。
さっき夢叶の話が出て来たけど、みぞれもあの時のことは間近で見てたはずで、半分当事者だ。
今のこの状況は、あの時と全く同じ状況をたどってて‥‥‥つまり、少なからず近いうちにみぞれは破局すると思う。
月菜との経験を経て、恋愛音痴だって自覚した俺でも分かってるんだから、俺よりもそういうことにはうまいであろうみぞれがそのことに気が付いてないはずがない。
なら、別の可能性‥‥‥実はみぞれとあいつは付き合っていないのだとしたら。
どれだけ最強の幼馴染と思ってても、超能力者とかじゃないんだから一緒にいない時のことは分からないし、だから俺が知らないだけで、もしかしたらあれがみぞれの外での姿なのかもしれない。
それにみぞれなら、恋人ができたりしたら言ってくれるだろうし‥‥‥なら、やっぱり俺の勘違いなのかな?
聞けばいいと自分でも分かってるんだけど、何故か口にできないでいた。
‥‥‥いや、理由は分かってる。
たぶん俺は怖いんだろうな。
もしも、俺が今まで見たことないような、幸せいっぱいの恋人だけに見せるような笑顔で、「うん! 実は付き合ってるんだ!」なんて言われることが。
だって、土曜日のあの日、あの時に確かに思ったんだ。
『全然、嬉しくないや』って。
恋人ができることはめでたいことだと思ってるし、今までずっと近くにいたみぞれだから盛大に祝福してあげたかったのに、それができなくて、もしもさっきのようなことを言われたら、俺はどんな顔をしていいのかわからない。
あ~~、くそっ! モヤモヤするなぁ‥‥‥。
隣を歩くみぞれをなんとなく見ながら考える。
俺は何がそんなに嫌なんだろう? あの時に感じたのは大きな喪失感で、それを感じるってことは何かを無くしたって思ったということ。
じゃあ、何を無くしたのか‥‥‥なにか大事なもののはずで、この場合は、たぶんみぞれってことになると思う。
なら、どうして無くしたと感じたのか‥‥‥確か、あの時思ったのは、取り残されるような感覚で、つまりみぞれが離れていくような気がして。
いやいやいや、なんだよ離れていくような気がするって!
そもそもくっついてないのに、なんでそう思うのさ、俺よ!
幼馴染だから? ‥‥‥いや、別に俺が誰かと付き合ったり、逆にみぞれが誰かと付き合ってりしても、俺たちが幼馴染であることは、俺の父さんがちょっと残念な父さんであることと同じくらい変えられない事実だ。
じゃあ、なんで‥‥‥どうして、そんな気がして‥‥‥それじゃあ、まるで‥‥‥元から俺たちが——。
「——や! お~い! 星夜! どこ行くの~!」
「——うぇ?」
みぞれの俺を呼ぶ声が聞こえて、自分があらぬ方向に向かっていることに気が付いた。
「‥‥‥ぷっ! あははははっ! 『うぇ?』ってなによ! それに、ケーキ屋さんはそっちじゃないよ!」
「わ、笑うな笑うな! ちょっとボーっと考え事してたんだよ」
「いや~、うぇ?w 星夜、うぇ?ww ——うぇ?www ぷっ、あはははははっ!!」
こ、こいつ! 確かにボーっとしてて、いつの間にか駅のショッピングモールについてて、間抜けな声を出したとは思うけど、そこまでツボにはまることないだろ!
しかもぐりぐりと煽り寄ってからに!
こうなったらちょっと、俺も思い出すことがあるかもな~。
「あ~あ、なぁ知ってるみぞれ? 実はさ、ウチの冷蔵庫から俺の分の高級プリンが一個消えててさ、あ~なんか、誰が食べたか思い出せそうな‥‥‥」
「——うぃへあっ!? 何でそれ知って‥‥‥あっ」
ふっ‥‥‥馬鹿め。
「はい! 俺よりもひどいマヌケボイス、入りました~! 再生!」
『——うぃへあっ!?』
「ちょっ! なんで撮ってるの!」
「再生!」
『——うぃへあっ!?』
「あ~あ~あ~っ! 消して消して!」
みょんみょん飛び跳ねて、スマホを奪おうとしてくるみぞれを躱しながら、俺は華麗に指をフリックする。
「分かったわかった! っと、その前に『月菜、これ聞いて、みぞれのマヌケボイス』っと」
「ちょーーっと! 何送ろうとしてるの!」
「あ~、そう言えば、プリン食べたの誰だっけ?」
「へ? え、え~っと‥‥‥あ~、ほらあれだよ! たぶん、わる~いオオカミさんが食べちゃったんじゃないかな~赤ずきんちゃんみたいにペロリと——」
「送信!」
「——わああああああああああっ!」
ふっ‥‥‥馬鹿め! (本日二回目)
食の恨みつらみというものはとても根深いものだと、特に父さんに内緒で自分への誕生日のご褒美として取り寄せたふるさと納税の高級プリンだったことが、どれくらい許されざる行いだかを思い知れ!
「あの~すみません、他のお客様のご迷惑になるのでもう少し静かにしていただけると」
「「‥‥‥あっ、すみません」」
———————
おまけ。
その頃、宵谷家では。
雄介「おっ! なんか冷蔵庫にうまそうなプリン発見!」
月菜「あ、それ、星夜が楽しみにとってたやつだよ」
雄介「へぇ~、まぁ星夜なら笑って許してくれるでしょ、月菜さんもたべる?」
月菜「ん~、じゃあ森田君も共犯だからね」
雄介「了解了解、星夜は月菜さんになら甘いから大丈夫しょ!」
月菜「確かに(ニヤリ)」
月菜・雄介「「うんまぁぁぁああーーいっ!!」」
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