第59話 言質とったりぃぃーー!



「ふぅ、いきなり来たからびっくりしたよ。二人とも久しぶりだな」


 二人とくんずほぐれつな状態‥‥‥あ、別に変な意味じゃないからな! から、一転。お行儀よく靴のかかとを合わせて並べる二人に改めて声をかける。


「ほんとだよ! 最近星夜にーちゃんが遊んでくれないから退屈だった!」


「うん、シグたちも学校が忙しかったのもあるけど、もう少し時間作ってくれても良かったと思うの」


「そっか、二人とも今年から中学生だったもんなー、おめでとさん」


「星夜にーちゃんも!」「星夜にぃも!」


「「おめでとう!」」


「おう、ありがと! んじゃ、リビング行くか、突然来たからなんも準備してないけど、たぶんお菓子くらいならあると思うぞ」


「「お構いなく~!」」


 俺が促すと、勝手知ったる我が家の様にかなり素早く駆けていく二人。まぁ、中学生になったって言っても、まだなり立てな訳でまだまだ小学生感が抜けてないな。


 しかし、そのリビングに駆けていくスピードはびっくりするぐらい速い。さっきの玄関に突っ込んできた時もそうだったし、今思えばもっと小さな時からすごかった。これもきっと狼の遺伝子がなせる技なんだろうなぁ‥‥‥あ、しぐれがまたこけた。


「大丈夫か?」


「あ、星夜にぃ、ありがと」


 ちょっと恥ずかしそうにしてるしぐれと連れたって、俺もリビングに行く。


「クンクン! しぐれちゃん、やっぱり知らない妹の匂いがする!」


 すると、先に向かったあられがソファーとかダイニングテーブルとかリビングをうろちょろしながら、鼻を鳴らしてる姿があった。


 というか、知らない妹の匂いって‥‥‥なにその知らない女の匂いがする! みたいなの。


「クンクン‥‥‥ほんとだ、これは黒ですね」


 そして、同じく部屋の空気をかぐしぐさをしたじぐれは、どこから取り出したのか、なんか黒いサングラスをスチャッと装着した。


「とりあえず、お話を聞かせてもらいましょうか、星夜にぃ」


「え? あ、はい?」


 ‥‥‥んんっ!? いったい何が始まったんだ? えっと‥‥‥なに? とりあえず椅子に座ればいいの? はぁ?


 グイグイとしぐれに腕を引かれて、導かれるまま椅子に座れば、これまたどこから取り出したのか映画で見るようなハードボイルドなサングラスをかけたあられが俺の目の前に座った。


 そして後ろでは、しぐれが威圧警官よろしくフラフラと歩きまわってる状況ができて‥‥‥あれ? そういえば、最近こんなシーンなかったかな~? 立場が逆だったけど。


「さて、それじゃああることないこと洗いざらい話してもらいましょうか、星夜にーちゃん」


「アラ、無いことは話させちゃだめだと思う」


「嘘はついちゃだめだからな? あたし、うそつきの目は分かるのですぐばれるから」


 しぐれのツッコミを華麗にスルーしたあられはサングラスをちょっとずらして、じっと睨むようにしてきた。


 えーっと‥‥‥とりあえず、ノッておけばいいかな? まぁ、大狼家はみんな気まぐれだからきっと尋問ごっこでもしたくなったんだろう。


「な、なにも話すことは‥‥‥ない!」


「本当か? ‥‥‥いやいやいや、嘘の匂いがするぞ? この部屋にプンプンとな! それで、新しい妹とはどうなんだ?」


 おぉ? あられ、なかなか様になってるな。‥‥‥ちょっとドラマの見すぎじゃない?


 ってか、妹? 月菜のことだよな? まぁ、とりあえずノッとくか。


 少しの間、茶番をお楽しみください。


「し、知らない! そんな人——」


「ダウトォォォー! 裏は取れてるのだ!」 


 バコンッ! と、ダイニングテーブルを叩くあられ。


「ひぃぃぃ! 上に、自分の部屋で寝てますぅ!」


「ほう‥‥‥最初からそう言えばいいんだ——みぞれちゃん」 


 あごをくいっとして、みぞれに何か指示を出した。


「それで? あられたちを差し置いて、新しい妹ができてどうなのよ? ん?」


「いや、どうって‥‥‥普通に嬉しいと思ってます、はい」


「ほぉ‥‥‥お、帰ってきた、なになに?」 


 何かをしてきたみぞれから耳打ちされて、何かを聞いてるあられ。


「はははっ! なぁ、星夜にーちゃんよぉ、にーちゃんの新しい妹は大層可愛いようじゃない、えぇ?」 


 可愛らしく、どすの効いた声で。


 ‥‥‥やっぱりドラマの見すぎだと思う、この感じだとたぶん海外ドラマ。


 それで、なんだ‥‥‥そういうことなら俺は、妹を人質にされた哀れな人間を演じればいいのかな?


「や、やめろ! 妹には手を出さないでくれ!」


「ほほぉ? やっと本性を見せたね。つまりあれかい? 星夜にーちゃんは新しい妹に夢中であられたちを構ってくれなかったと?」


「そ、そういうわけでは‥‥‥」


「ふ~ん、へ~ん、ほ~ん‥‥‥星夜にーちゃん、本物の妹ができたらあられたちは用済みなのね、よよよ‥‥‥」 


 泣きまねをするあられ。


「星夜にぃ‥‥‥ひどい、二人はずっと俺の妹だって約束してくれたのに‥‥‥」 


 同じく後ろで泣きまねをするしぐれ。


 あれぇ? なんかまた、おかしな方向に進んでないかい? そういえば、二人は月菜のことを目の敵にしてるとか言ってたっけ?


 あ~、見えたぞ、つまりあられとしぐれは、最近遊ぶ機会がなかった理由に俺が月菜という妹ができたからだと思ってるわけで、本当はもっと構ってほしかったんだろう。


 んで、それを伝えるがためにこんな芝居みたいなことを初めて‥‥‥。


「うぅ‥‥‥ひぐっ‥‥‥くぅ~ん」


「えぇ、マジ泣きなの、しぐれちゃん」


 実に切ない鳴き声が聞こえた。その様子はもはや忠犬ハチ公かしぐれかといった具合で‥‥‥あ、狼だっけ。


「わっ、えっと‥‥‥しぐれ、別に月菜が妹になったからって、二人のことを妹と思ってることは変わらないから!」


「くぅん‥‥‥ほんとう?」


「本当だって!」


「これからもっと構ってくれる? みぞれねぇみたいにたくさん来ていい?」


「おう! バッチコーイの大歓迎だよ!」


「じゃあ、星夜にぃが新しい妹が大事なのは分かるけど、シグたちのことも同じくらい大事にしてくれる?」


「もちろん! 俺と二人の仲なんだ、そういうのは何があってもかわらんよ」


「約束‥‥‥」


 そう言って、しぐれが小指を出して来たので、俺も合わせて指切りをする。


 すると、しくしくと泣いてたしぐれは直ぐに泣き止んで‥‥‥あれ? ちょっと笑って‥‥‥。


「アラ! 言質とったりぃぃーー! わおぉぉぉーーん!」


「わおぉぉぉーーん!」


「なっ‥‥‥なななな、泣き落とし‥‥‥だと」


 二人の歓喜? の遠吠えが響く中、俺は茫然と立ち尽くす。


 う、嘘だ! 誰か、嘘だと言ってくれ! しぐれが‥‥‥心のよりどころのしぐれが、こんな‥‥‥。


「えへへっ、みぞれねぇが言ってた通りだ。星夜にぃにはこうしたら、言うこと聞いてくれるよって」


 ‥‥‥あ、なんだ、みぞれの入れ知恵か。


 いや、それでもそれを、こんな子芝居までしようとして、言質とったりとか‥‥‥しぐれとあられ、恐ろしい子‥‥‥。


「やったぁー! やったぁー! じゃあ、星夜にーちゃん! 今日はこれして遊ぼう!」


 ‥‥‥あ、どうやらこっちは表情を見る限り何も考えて無さげ、きっと単純に尋問ごっこを楽しんでただけだわ。


 あられ、どうかこれからもそのままの君でいてください。




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