第53話 私が作るの!


 ◇◇月菜side◇◇



「よし、まずはとりあえずピーラーで皮むきだよね」


 星夜をキッチンから追い出した後。


 ちょっとピリピリしたけど、水道で野菜を洗って一応サイトで手順を確認すれば、次は皮むきらしいのでピーラーを用意して、皮をむきむき。


 サイト何て見なくても手順くらい分かるけど、間違ってたら怖いから一応の確認よ! 一応の! ‥‥‥チラ。


「えっと、次は野菜を切るのか。じゃあ、まずは玉ねぎからっと」


 皮をむいた玉ねぎをまな板において、包丁を持つ。


「‥‥‥」


 なんか、まな板の上に乗る野菜を見てると、変な高揚感を覚えるのはなんでかな? この野菜はこれから私の手によって好きに料理できるって思うと、なんか支配した感じがして。


 星夜も大人しく私に料理されればいいのに。


 あっ‥‥‥そんなこと思ってたらこの玉ねぎを何切りにすればいいのか忘れちゃった。


「えっと、くし形に切る? って、どんな切り方だっけ?」


 サイトはなんか不親切で、写真何て乗っておらず文字だけのため、小中学校でならった家庭科の授業なんて頭から抜けてしまってるため、切り方がさっぱりだった。


「‥‥‥まぁ、いっか。どうせこの玉ねぎは私の支配下なんだし、フィーリングで切っちゃお」


 そう思って、包丁を構えて切ろうとして。


 ふと、こっちを星夜が見てることに気が付いた。


 もう‥‥‥どうせ、私が怪我しないかとかで心配なんでしょうね。大丈夫なのに。


「こっち見ないで! 気が散る!」


「は、はい!」


 私がキッとちょっと強く睨みつければ、星夜はパッとテレビを見るふりをし始めた。


 あの様子だと、たぶんテレビの内容なって頭に入ってないと思う。心ここにあらずってさっきからちょっとそわそわしてるし。


 まぁ、いっか。早く、美味しいカレーを作って食べてもらおう!


 そしたらきっと、ちょっとはみぞれのことを忘れて、私のことを考えてくれたり‥‥‥美味しすぎるカレーで胃袋を掴めばあわよくば。


『月菜、実は料理うまかったんだなぁ‥‥‥嫁になって毎日でも作ってほしいや』


 な~んて、それはもう告白同然の言葉を聞けちゃったり!?


「ふんふんふ~ん♪」


 なんかそう思ったら俄然やる気が出て来たぞー!


 とりあえず、玉ねぎは——切り方が分からないから後回し。


 まずは一口サイズって書かれてるニンジンから切ろうかな。


 改めて包丁を構えようとして‥‥‥また、星夜がこっちを見てるのに気が付いた。


 あれ? でも、今度は心配そうって言うより、なんか照れてるみたい‥‥‥?


 あっ!! なんか、今のシチュエーションはあれだ! 同居始めたてのカップルが、初めて彼女の手料理を間近で作ることになってそわそわしてるみたいな!


「(‥‥‥ニコッ!)」


「ぐはっ!」


 気分がよかったので、ウインクで返してあげると、なんかうめき声のようなものが聞こえてきた気がする。


 まぁ、いっか。とりあえず、今はにんじんをまずは縦に切ろう。


 私は包丁をぐっと握って、縦に置いたにんじんに振り下ろす。


「せいっ!」


 ドガンッ! ってすごい音がした気がしたけど、にんじんはしっかりと縦に切れた。


 次はたぶん一口サイズって、四分の一くらいだと思うから、もう一回縦に切るべきかな。


「たぁ!」


 また、バッコン! ってすごい音がした気がするけど、今度もしっかり切れたのでオールオッケー!


 そしたら今度は、厚さ二センチくらいで横に切ってって‥‥‥。


「はい! ストップ!」


「ひょわっ!」


 横から結構強めの大きな声にびっくりした。


 そっちの方を向けば、ソファーにいたはずの星夜がエプロンを結んでシンクで手を洗ってる。


「って、星夜! 向こうで待っててって言ったのに何してるの!」


「いやいやいや! 無理! もう見てるなんてできない! 月菜、料理は圧倒的初心者だろ!」


「そ、そうだけど‥‥‥でも、大丈夫だよ! 女の子だもん!」


「なにその謎理論? 意味が分からん! とにかく、ここからは俺もやるから」


 うぅ‥‥‥確かに、星夜がやった方が早いし、上手だし、美味しくなるかもしれいけど‥‥‥けどぉ、私にも女としてのプライドと、星夜のために何か作ってあげたい気持ちがあってぇ。


「はい、とりあえず包丁かし——うおっ!?」


「や、やだ! 今日は私が作るの!」


「わ、分かったから! 包丁こっちに向けるのはやめような? なっ!?」


 私が星夜に包丁を持たせるのは断固拒否の姿勢を見せてると、星夜は鍋の蓋をこっちに向けて何故か蒼い顔で防御の姿勢をとってた。


 なんかRPGゲームの初期みたいな装備の格好してる。ちょっと滑稽ここに極まれりって感じ。


 まぁいいや、とりあえずこのにんじんをさっさと切っちゃおう! 私は三度包丁を構えて‥‥‥。


「月菜、包丁の持ち方が違う。そんな握りしめるように持つんじゃなくてさ——」


「ひゃっ!」


 いざ切ろうとしたら、それがあまりに自然な感じだったせいか、星夜が急接近してきたのに反応できなくて、気が付いたら後ろから抱えられるように伸びてきた手が、包丁を持つ私の手にそっと添えられてた。


 背中に星夜の暖かさを感じる。


 私と星夜の身長差は20センチくらいあるから、ちょうどあたしの頭の位置に星夜の肩があって。


 それって、傍からみればたぶん、後ろから抱きしめられてるように見えると思う。


「‥‥‥んく」


 最近‥‥‥というか、デートをしてから二人きりの時はなるべく過度な接触は、私がまた暴走しないために避けてきたせいか、そう思ったら急に喉の渇きを感じた。


 それ誤魔化すように、唾を喉を鳴らして飲み込んだけど、あんまり効果は薄くて。


 あぁ‥‥‥さっきまで、星夜も料理されればいいとか思ってたのに、もしかしたら料理されるのは私の方だったかも‥‥‥えへっ//


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