第四章 突撃! 最強の幼馴染!

第21話 入学おめでとう!



 俺の人生の中で最も濃く、忘れられないだろう春休みが終わった。


「お~い、月菜~。そろそろ準備しないと遅れるぞ~」


「んにゃ……わかってる」


 テキパキと朝食の食器を片しながら俺はテーブルに突っ伏してぐにゃ~ってなってる月菜を促す。


 昨日までならこんな風にいつまでもだらけてても構わないけど、今日は高校の入学式だからそうも言ってられない。


 まぁ、吸血鬼である月菜が朝を苦手としているは十分わかり切ってることだし、しょうがないからある程度は手伝ってやろう。


 といっても今日は入学初日。授業も特になく、午前中で終わるらしいから持ってく物は少ないためすぐ終わる。


「ほら、月菜。とりあえず歯と顔を洗って制服着て来な。髪はやってあげるから」


「ほぁ~い……」


 欠伸混じりにのそのそと起き上がって着替えに行く月菜を尻目に、俺は寝癖直しスプレーとブラシを用意してソファーに座って待ってると、数十分後、一応顔は洗ってきたみたいだけど、まだ眠そうにしながら月菜が戻ってきた。


 そのまま、目をこすりながらこっちにきてポフンッと俺の足の間に座り込んでくる。


「かみ~……」


「はいはい、仰せのままに。ていうか、ワイシャツのボタンずれてるよ」


「ん~……? ほんとだ、やって?」


 俺に背中を預けて、潤んだ瞳で見上げてくる朝の月菜はすっごい甘え上手だ。


 こんなんどんなことでもやってあげちゃいたくなるに決まってるだろう! 月菜は狙ってやってるわけじゃないと思うけど、破壊力抜群すぎる!


「……だめ?」


「ダメじゃないです、はい!」


 反射的に返事した俺は、髪を直す前にまずはボタンがずれてるのを直そうと、月菜のワイシャツの一番上のボタンに手をかけて……なんかこれやばくない?


 いや、だって別に脱がすわけじゃないけど、それに近しいようなことするわけで……インナーを着てるだろうけど、そんなのほぼ下着みたいなものだから、つまりは下着が見えちゃうようなものなわけで……というか、ヨーロッパのほうでは国際的にワイシャツ=下着として考えられてるらしいから、それもう今から月菜の下着を脱がすのと同義みたいなもので……。


「兄さん?」


「ハッ!? な、なに!?」


「早くしないと、おくれちゃうよ?」


「ソ、ソウダネ!」


「……?」


 俺の挙動不審な様子を不思議そうに見てくる月菜の瞳には、清らかな純真さしか感じなくて、変なこと考えてた俺はなんだか罪悪感がこみあげてくる。


 そうだよ、月菜はただ兄として頼ってくれてるのに、信用して甘えて来てくれてるのに、なに朝から興奮してんだ、俺のばかー! 数時間前に月菜を妹として見ようって決意したばっかじゃん、俺のあほー!


 その後、なるべく無関心を貫くようにしながら、なんとか月菜のボタンの取り違えを直して、本来の目的だった寝癖直しに入る。


 腰まで届く相変わらず夜空のように綺麗な黒髪をスプレーで軽く湿らせて、ブラシで梳かしていくと寝癖はすぐに直って、スッと透き通っていくことにしっかり手入れされてるのがよくわかる。


 ……いや、月菜自身は何もして無さそうだな。きっと月美さんだ。


 なら月美さんが帰って来るまでは、この髪質を保てるように俺が手入れをしなくちゃ。


 そう思いながら、サラサラになった髪に手を入れて、時間もまだあるしせっかくだから軽く編み込みを施してく。


 というか、今頃あの二人はいったい何やってるんだろう? 息子と娘の高校の入学式にもやってこないで……薄情な。


 と、噂をすればなんとやら俺のスマホから着信音が鳴って、画面を見れば父さんからだった。


「月菜、父さんから電話かかってきたんだけど、今手が離せないから出てくれない?」


「わかった」


 頷いた月菜は、テーブルの上に置いてあった俺のスマホを取って通話ボタンを押すと耳に当てる……ことなく、横持にして構える。どうやら、ビデオ通話だったみたいだ。


『もしも~し、月菜ちゃん? 入学おめでとう!』


「うん、久しぶり先生、ありがと」


『あはは、先生か~。まぁ、それはいいとして、星夜はどうしてる?』


「後ろで髪直してくれてる」


 そう言って、月菜がスマホを持った手を俺に見えるように掲げて来たので、ちょうど編み終わったしそのまま受け取って月菜の隣に二人が画面に収まるように座り直す。


『おう、星夜! お前も入学おめでとう! しっかり月菜ちゃんの面倒見てくれてるみたいだな』


「まぁね。で、子供たちの入学式来ない父さんたちはいったいどこにいるの?」


 なんで、こんな質問をしたのか……それは、俺はてっきりヨーロッパ辺りを見て回ると思ってたんだけど、画面の向こうの父さんはなぜかターバンらしきものを被ってたからだ。


『息子が辛辣だ……。あ~、今インドにいるんだよ』


「はぁ……?」


『実は、乗ってた飛行機に病人がいてな、事態が悪化したってことで近くのインドの空港に急遽臨時着陸することになって、それならせっかくだからちょっとインドを楽しんでこうってなってな』


 ん~、父さんたちがどういう旅路の予定を組んでたのか知らないし、なんだか色々あったみたいだけどどうしてこう、なんでこの父親は行き当たりばったりなのか……再婚も突然するしな。


『いや~、父さん今まで結構飛行機乗ることもあったけど、お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか? って聞いたの初めてだったよ。思わず小学生の授業参観の時くらいにビシィッ!! って挙手しt——あら~! 月菜に星夜くん、久しぶりね!』


 と、父さんが何か息子からしたらちょっと恥ずかしいことを話し始めた時、グイっと父さんを押し寄せて月美さんが画面に入ってきた。


 相変わらず初めて会った時と変わらず圧倒的美人で、父さんと同じくターバンを巻いてインドを満喫していらっしゃる。


「お母さん、久しぶり」「月美さん、どうも」


『二人とも、入学おめでとう! 直接祝えなくてごめんなさい……』


 月美さんのシュンとした姿は、なんか父さんと違ってこっちが悪いような気がしてくるな。


「大丈夫ですよ、こうして言葉をくれただけで十分です。な、月菜?」


「うん。ありがとう、お母さん」


『息子よ、なんか俺の時と態度がz——そう言ってくれると助かるわ。それにしても二人ともすっかり仲良くなってるみたいでよかった、月菜の髪は自分でやったの?』


 ……なんか、一瞬父さんの姿が見えた気がするけど、月美さんに吹き飛ばされたような……インドと日本の時差は分からないけど、今は夜なのかな? さすが吸血鬼。


「ううん、兄さんがやってくれた」


『そうなのね。星夜君、ありがとう。しっかりと面倒見てくれてるみたいで助かるわ。そういえば、星夜君はもう、私や月菜の正体をしってるの?』


「はい。月菜から聞きましたよ、吸血鬼だって」


『そう、月菜が自分から……それならどうか怖がらないであげてちょうだい』


 画面の月美さんにそうやって切実に願うように言われて、俺は思わずキョトンとしてしまった。


 そんなこと言うまでもないことだ、怖がるどころかむしろ普段から可愛すぎてヤバいと思ってるし。


 それがしっかりと月美さんに伝わるように、そう思って、気が付いたら俺の手は自然と月菜の頭を撫でてた。


「怖がりなんてしませんよ! 月菜はもう家族だから!」


『星夜君……本当にありがとう』


 そう言って、俺に撫でられて「うぅ~」って蕩けてる月菜を見る月美さんの瞳は心の底から月菜を愛おしく思ってるのが伝わるようだった。


『あっ! そうだ!』


 とすると、月美さんは突然パチンと手を叩いて。


『二人とも今は高校の制服なのよね? せっかくだから、立って全身を見せて頂戴!』


 そういう月美さんの要望を聞いて、スマホをダイニングテーブルに置いて全身が写るように月菜と並んで立つ。


『おぉ~! 二人ともバッチリ似合ってるわ! ほら、健星さんも見てあげて!』


『お、どれどれ? 確かに! 生で見れないのが残念だ』


 俺たちの姿を見た、両親二人は裏表の無いまっすぐな感想をくれる。


 なんか、どことなく気恥ずかしいな。月菜もそう思ってるのか、裾を摩ったりしてもじもじしてる。


『——ふふっ。こうして見ると、なんだか二人がカップルみたいね』


「ちょっ!? お、お母さん!?」


『あら? 月菜、あなたその反応はもしかして……』


「な、何言ってるの! もぅ……」


 ん? 今の言葉、月菜がそんなに取り乱す要素があったのかな? なんとなく俺も、客観的に見れば兄妹というより、カップルの様な気がしてたんだけど……父さんの方も、今のやり取りを不思議そうにしてるし、男性陣二人は蚊帳の外だ。


『けどまぁ、確かに。月菜ちゃんは月美さん似だし、星夜は母親似だけど俺の面影もあるから、二人を見てると俺たちが高校生だったらこんな感じなのかなって思うな』


『あら、健星さんは高校生の時の私が見たいのかしら?』


『月美さんの制服姿か、確かに見てみたいな……けど、俺は今の君に夢中だよ』


『もう、健星さんたら』


『月美さん……』


 ——さらば父よ、——さらば月美さんよ。


 そう胸で呟いて、二人の世界に入ったあの人たちを置いて俺は通話を切った。


 なーに入学式の朝から盛ってるんだか……ん? 向こうは夜なのかな? まぁ、二人が幸せそうならそれでいいか。


 なんだか、こっちに帰ってくる頃にはまた妹か弟かが増えてる気がするな。


「さて、そろそろいい時間だし、家出るか……月菜?」


 時計を見て、バックを手に取ったら、月菜が少し赤みのさした表情で俺の方を見てるのに気づいた。


「兄さん……その……」


「ん?」


「……なんでもない」


 何か言いかけた月菜はスッと目をそらすと、自分のカバンを取って足早に玄関に向かった。


 そんな様子を不思議に思いながら、俺もまた高校初登校を始める。



——————

【あとがき】


ここまで読んで頂きありがとうございます! 折り返しです。


月菜と星夜の兄妹デートが思ったより長くなっちゃいましたが、幼馴染キャラを楽しみにしてた方、大変お待たせいたしました。


次からはやっと幼馴染ちゃんを出させてあげられます!


カクヨムコンも自分が思っていたよりランキングが上で嬉しい限りです。


これも読んでくれる皆さんのおかげですね!


もしも、これからも本作を応援してやってもいいぞって思っていただけたらレビューや応援等を頂けるとすっごく嬉しいです!


なるべく更新が滞らないよう頑張っていくので、これからもよろしくお願いします!

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