第15話 兄さんはやらなくていいよ



「おまたせ」


「おかえり。いいのあった?」


「うん、可愛いのあった」


 月菜が出てきたのはランジェリーショップだ。


 さっき服買った時に、オフショルダーの下着は持ってないとのことでついでに買うことにした。


 それで妹の下着まで選ぶわけにもいかないし、ランジェリーショップは俺も流石に入るのに抵抗があったから店の前に立って待ってたわけだ。


 しかしまぁ、月菜が選んだ下着か……自分で可愛いって言ってたしちょっと気になるな……妹的な意味で。


 いや、ほらあまりにアダルティのだったらなんかちょっと心配になるし、逆に子供っぽ過ぎるのも……ねぇ?


 これは断じて下心的な奴じゃなくて純粋に月菜の心配をね! してるんだよ!


「……見せないよ?」


「い、いやいや、わかってるとも、はい」


 なにか不穏な気配でも感じ取ったのか、月菜がジトッとした目で俺の方を向いてきた。


 まるで変態を見るような目だ、俺はただ心配をしただけなのに……ちょっと冷や汗がでたけど。


 まぁ、別に今見たいわけじゃないし、そのうち着ることになったら俺が洗う時に見ることになるだろう。


「あ、それと、今日から下着は私が自分で洗うことにするから兄さんはやらなくていいよ」


「えっ」


 なんだろう? これは、月菜がちょっと自立したと喜べばいいのか……それとも、ある意味悲しめばいいのか。


 うぐぐ……これはきっといいコトのはずなんだ! だけどなんか素直に喜べない自分がいる!


「ふ、ふ~ん。確かに自分でやることは偉いけど……でも、月菜に洗濯機使えるかな? ほら、流れる水とか苦手でしょ? やり方も知らないだろうし」


 しばらく葛藤した結果出てきたのが今の言葉です。


 イエスともノーとも言わずやんわりと微妙にってね!


「大丈夫。手洗いするわけじゃないし、洗濯機の使い方も兄さんが洗濯してるとこ全部見て覚えたから」


「へ、へぇ~……そうなんだ…………ん?」


 今、月菜が言ったことにサラッと聞き捨てならないことが……。


 全部……全部見てたって、もしかしてマジで全部?


 俺が、月菜のバストサイズいくつだr……ごっほんごっほん! 女性ものの下着ってどう洗うんだろうって思ってじっくり見てたこととか……も?


 ちなみに、月菜のブラのサイズは『C75』だった。つまり、推定DよりのC! やっぱり結構ある!


 それと、洗い方はものによるけど、基本的にネットに入れて『オシャレ着洗い』で、ドライコースはデリケートを選ぼう! もっといいのは手洗いだよ!


 で、今はこんな現実逃避してる場合じゃない。


 もし、そんなとこまで見られてたりしたら、俺は……どうしたら。


 恐る恐る、月菜の方を向けば。


「……ほんとに兄さんはえっちだよね」


 少しだけ顔を赤くさせながら、サッと身体を抱いて自分の胸を腕で隠すようにした。


 うっ……バレとる……これ普通にバレとるぞ。


 でも、認めるわけにはいかない! そう、あくまで建前は下着の洗い方を見るためなんだから! ……あ、建前って言っちゃった。


「ええいっ! そ、そんなことよりこれからどうする? ちょうどおやつの時間だけど、またどこかお店入る? ミスドとか」


「あ、誤魔化した」


 これは分が悪いと思ったから、大振りに下着の話題は吹き飛ばしてこれからどうするかの話に変える。


 ……ちょっと無理があったかな?


 でも、月菜は別に怒ってるわけでも無いのか、それだけ言うと「う~ん……」って考え始める。


「今日はもうパンケーキ食べたし、今から何か食べたら兄さんの料理食べれなくなりそうだからおやつはいい、でもちょっと疲れた」


「それじゃ、今日はもう帰るか。アニメグッズと服とって結構荷物も増えたし、あんまり夜遅くなったりしても明日から学校だからよくないしね」


「うん」


 月菜が頷いたため、Uターンをして足をショッピングモールの出口に向ける。


 まだちょっと早いとは思うけど、別にこれぐらいでもいいだろう。


 帰って今日やり残した家事とか明日の準備とかしたらたぶんいい時間になってるだろうし。


 明日の準備と言ったら制服があったな。


 きっと月菜が着ればそれも似合うんだろうなぁ。


 そんなことを思いながら、今日の夕飯は何がいいとか、どんな高校生活が待ってるだろうとか、その話の延長で「私、吸血鬼だから学園無双できるかもしれない」って何を無双するのか知らないけど、月菜が無双計画立て始めたりして家に向かって歩く。


 それで、今日のそもそもの出かけた目的は兄妹デートと言う名の街案内だから行きとは違う道で帰ろうってことになって、大通りから外れた商店街の方から帰ることになった。


 そのまま数分、牛丼チェーン店やハンバーガーチェーン店、眼鏡屋、携帯ショップなどの店舗が並ぶ商店街を歩いてると、いつの間にか隣にあった日傘が少し後ろで立ち止まってることに気づいた。


「月菜?」


「兄さん、ここって」


「ん? あ~、ゲーセンだよ」


 月菜がそこで見ていたのは新機種そこそこ、古い機種まぁまぁの五階建ての割と大き目なゲームセンター『ヴァンピィ』。


 確か一階と二階はクレーンゲーム、三階はアーケード、四階はメダルゲーム、五階はレトロゲームで新商品の入荷頻度も多く、そのゲームの種類の多さから若者から老人まで平日休日問わず人足の絶えない人気のゲーセンだ。


「へぇ~! なんか名前に親近感を感じる」


 俺の説明を聞いた月菜は、そんなことを言って目をキラキラさせてる。


 アニメオタクでゲームも好きな月菜のことだし結構興味あるんだろう。たぶん、行ったこともないだろうし。


「兄さん、入ってもいい?」


 ……まぁ、そうなるよなぁ。


 でも、こういうところだと一つ心配事があるんだよね。


 仕方ない、俺が目を光らせてればたぶん大丈夫だろう。


「……いいけど、その代わり俺から離れるなよ」


「うん? 分かった! さっそく行こう!」


 俺が念を押すように言うと、月菜は不思議そうにしつつ意気揚々とヴァンピィに向かった。


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