第8話 ちょっとくらい見ても?
「じゃあ、俺は向こう向いてるから、はやく入っちゃって」
「わかった」
俺が側にいるって言ったことで安心してくれたのか、幾分か普段の落ち着きを取り戻した月菜から視線を外して背を向ける。
というか、改めて冷静に今の状況を考えてみると、色々とギリギリな気がするぞ。義理の兄妹だけに……。
そもそも、下着姿の美少女が俺の背後でその最後の布地を脱ごうとしてるっていうシチュエーションが色々ギリギリだと思う。義理の兄妹だけに……うん、つまらん。
……まぁ、妹なんだけどさ。
そうやってなるべく無関心を貫こうとしていると、プツンって感じの何かが外れる音がした。
きっとブラのホックを外す音だろう。
悲しいかな、男というものは例え妹だろうとそういう音がなんだか気になるのだ。
そうして肩紐を外せば、もう支えるものはなく、ゆっくりと重力に引かれていき、露わになるおっぱ——。
いや、ちょっと待て! 何でこんなにはっきりと今の月菜の姿が目に移って……はっ!?
その時になって俺はやっと気づいた。
さりげなく後ろを向いたけど、その正面は浴場の鏡と洗面所の鏡の合わせ鏡になってて、そこに反射して写る月菜の姿をガン見していたことに。
「——っ!!」
はらりと月菜のブラが落ちる寸前、俺は全意思を総動員して両目をぎゅっと瞑った。
セーフ! ……いや、ほんとにセーフだからね? ちょっと横乳とか見えたり見えなかったりしたけど、頂点の大事なところは見えてないから。
……ていうか、そもそもなんで俺は興奮してるんだ! 月菜は妹なんだぞ、妹!
でも一応、このまま目は閉じておこう、その方が俺の精神衛生上いい。
と、思ってたんだけど……。
今度はスーッと、滑らかに何かが擦れるような音が聞こえてくる。
人間、どれか一つの感覚を閉じれば、他の感覚が敏感になるものなんです。
だから、目を瞑った俺には今の音がはっきりと聞こえてきたわけで、それで月菜はブラを取ったらあとはショーツだけの格好だったからどんな音なのかは簡単に予想がつくわけで。
今、全裸の美少女が後ろにいる。
あぁ、なんて妄想が捗るんでしょうか……妹だけど。
「兄さん、ちゃんとここにいてね」
「う、うん、いるから早く入っちゃって!」
俺が後ろを振り向かないようにジェスチャーでも「はよ入れ」と伝えると、がらがらと風呂場の扉があく音が聞こえてすぐ後ろにあった月菜の気配が遠ざかる。
しっかりと扉を閉める音も聞いた後に、やっと目を開くことができた。
「はぁぁぁぁぁーー……」
大きなため息と共に身体の力も一緒に抜けてその場にしゃがみこんだ。
なんというか、疲れたな。
でも、そうやって気を抜くのはまだ早かった。
脱力して座って、なんとなくチラッと洗濯籠を見て見れば、当たり前だけど脱ぎたてほやほやの月菜の下着一式が目に入った。
「うっ……」
思わず、目をそらした……けど、無意識のうちに自然と視線が向かっていって、そのレースのついた下着を何度もチラ見してしまう。
……これじゃあ、変態みたいじゃないか。
でも、ちょっとくらい大目に見てほしい。
別に今まで俺は女っけが無かったわけじゃないんだよ。
けどそれはもう清く健全な付き合いをしてたわけで、こういう性的な感じのはあんまりなかった。
それと、俺の家族構成を考えてほしい。
月菜が来る前の宵谷家は俺と父さんの二人暮らしだ。
男二人、色気無し!
だから、こういう風に普通に女性ものの下着とかをお目にかかることなんてそうそうなかったわけで。
うん、やっぱり情状酌量の余地はあるんじゃないかな?
ていうか、ぶっちゃけ月菜のサイズってどれくらいなんだろう。
改めて言うけど、服の上からじゃわかりにくかったけどさっき見た時は俺が思ってた以上に主張してたし。
「……ちょっとくらい見ても?」
なんというか……重力に引かれるように、あらがえない衝動に駆られて俺の手がゆっくりとブラに引き寄せられる。
「——ゴクリ」
これは……そう、チェックだ! ウチでは洗濯物をまとめて洗うから、その時に洗濯するのは俺になると思うし、洗い方とか間違ってたら困るから確認するためで……。
そんな誰に言い訳してるかも分からないことを心の中で羅列しながら、そろりそろりと俺の魔手が忍び寄って、ついに触れようとしたその時——。
「兄さん、ちゃんといる?」
「ひゃ、ひゃいっ! まだ触ってません!」
「え?」
「あ、なんでもないなんでもない! いるよ! いるいる!」
「あ、うん。いるならいい」
月菜に声をかけられて寸前まで伸びかけてた手を慌てて引っ込めた。
今、俺は何をしようと……妹の下着を取ろうとしたのか? ……変態じゃないか。
変態といえば修学旅行の夜、脱衣所で掃除機の吸引口に自分の股間のモノを突っ込んで「吸い込まれるぅ~~!」ってふざけていた山田君は元気だろうか‥‥‥。
親切心から俺が抜けていた電源コードをそっと差し入れて、さりげなくスイッチを入れてあげたらすごい悲鳴をあげてのたうち回ってたっけ。
それがまた業務用のでっかい奴だったからものすんごい吸引力で、危うく山田君が変態して女の子になるところだったな。
まぁ、いいや。こんな古き良き時代の思い出なんてどうでもいい! 今はこの溢れ出しそうなリピドーを何とかしないと!
もし月菜に俺が下着を持ってるシーンを見られてでもしたら次の日からは口を聞いてもらえなくなること間違いなしだ。
止めよう止めよう、こんな邪な感情は兄妹間にいらんいらん!
ブラの誘惑に負けないよう心を無にするんだ、凪の心境になれ!
なんかちょっとかっこいいコト言ってるけど、ようは目を瞑って耳も塞いで、悟りを開いたようになろうってことです。
で、そのままじーっと己の胸の内と話し合っていると、あら不思議。
それはもうどんな誘惑にも負けないような鋼の精神が——。
「——兄さん!」
「ん? なに?」
「洗濯機の上に私のボディーソープ忘れちゃったから取ってって」
「あぁ、分かったたたたたたたた!?」
「ありがと? 変なの」
月菜に言われた通り、ボディーソープを渡すと俺の奇声に首を傾げつつもすぐに浴室に戻っていった。
では、ここでなぜ俺が奇声を発してしまったか。
なにを隠そう、見えてしまったからだ。
……いや、別にはっきりと見たわけじゃないよ?
流石の月菜も全裸で出てくることは無く、半身だけ出して腕を伸ばしてきただけなんだけど、それでも水滴が滴る鎖骨とかちょっと火照ったうなじとか、際どい足の付け根から骨盤部分とか。
それに加えて、扉に近寄ったからシルエットだったけど、その細いウエストとか、スタイルははっきり見えちゃって。
あ~あ~あ~! ダメだダメだ! その黒いシルエット部分が勝手に脳内加工で肌色を付けていきやがる!
ていうか、今までなんとなしに目の前の下着に意識が向いてたけど、すぐ扉一枚先には裸の美少女がいることに今更ながら思い至った。
「妹! 妹なんだよ、妹!」
心頭滅却! 友達が言ってたんだ、こういう興奮は家族を想像すれば萎えるって!
……が、その扉一枚先にいる美少女はその家族の妹で。
想像すれば想像するほど、いったいどこから洗うんだろう? とかそういう考えが膨らんできたりして。
だってしょうがないじゃん! 俺の実の母親はこういう性の意識が芽生える前に亡くなっちゃったし、新しい母さんの月美さんは……なんかもっと生々しいこと思い浮かべそうだし!
そんな言い訳をしながら月菜が上がるまで悶々とする俺でした。
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