第3話 『歓迎パーティー』



 ◇◇星夜side◇◇



「ずーん……」


 現在、俺はつい声に出てしまうくらいずーんって気持ちだった。


 なぜなら、月菜が部屋に戻ったきり出てこないから。


 現在の時間帯は夜、ご飯もお風呂も歯磨きも終えて後はもう寝るだけ。


 一応、ご飯食べるときとかに声をかけたりしたけど音沙汰なく、やっぱりいきなり兄妹になるのは難しんだろう。


 そう思って、部屋に突撃とかはせず食事は扉の前に置いておくにとどめて置いたけど。


 俺は……ほんとに嫌われてしまったのだろうか。


 もしそうなら、流石に心に来るものがあるなぁ……。


 そりゃあ、最初はほんとに父さんの妄想だと思ってたけど、そうじゃなくて事実なら普通に嬉しいんだ。


 だって、小さいときは兄妹に憧れてたんだから。


 周りの人がお姉ちゃんがー、お兄ちゃんがー、妹がー、弟がーって言う話をしてる時は羨ましいって思ってたし。


 流石にこの歳になって父さんに兄弟姉妹が欲しいなんて言えないから諦めてたけど、こうして血のつながりは無くても妹ができたことが自分でも思ってる以上に嬉しく感じてる。


 だからこそ、もし出会って一日も経ってないのに嫌われたなんてなったら、立ち直れないかもしない。


「……いや、もしかして」


 思い立ったことは、ただの俺の願望の様なものかもしれない。


 きっと月菜は極度の人見知りなのだ、それなのにいきなり知らん男がお兄さんになんてなったら、そりゃあ部屋から出たくなくなるよ。


 つまり俺が嫌われたっていうわけではなく、単にお互いを何も知らなくてどう接していいかわからないだけ!


 そういうことだろう。


「そうじゃないとこれからやっていけない!」


 ということで、精神衛生上そう思うことにして、明日やることが決まったな。


 明日は月菜と仲良くなるために、歓迎パーティーをしよう! そうしよう!


「そうと決まれば、今日はもう寝るか」


 明日は早起きして色々準備しないとだし。


 俺は、作るものや買うものを思い浮かべながら眠りについた。



 ■■



 次の日。


 俺は朝から張り切ってた。


 昨日みたいに寝坊することなく午前七時に起きて、いつも通りの日課の家事をこなして、豪華な夕飯の為にできる仕込みをすべて終わらせる。


 この間、月菜が部屋から出てくることは無かった。


 午前十時。


 近所のスーパーや百均ショップが開いたため部屋の飾りつけとか、足りなかった食材、飲み物の買い出しの為、自転車をかっ飛ばす。


 正午。


 色々買ってきた俺は家に戻ってきた。


 この時もまだ月菜は起きていなかった。


 まぁ、昨日の俺もこのくらいの時間まで寝てたから、月菜も結構お寝坊さんなのかもしれないな。


 午後二時。


 折り紙を切って輪っかにしたのを飾ったりしてリビングの飾り付けがだいたい終わり、もういつでも歓迎パーティーは始められる。


 後は、仕込みをしてた料理を仕上げして準備完了だ。


 でも、それは夕飯前にやればいい。


 それで、主役の月菜はといえば……まだ起きてなかった。


 まぁ、それならそれでパーティー会場であるリビングをさらに凝ったものにして待ってればいいか……お、ここらへんにくす玉とか作ってみるか! 


 午後四時。


 もう後はどこに飾り付けすればいい? って思うくらいリビングをデコッってやった。父さんが俺にサプライズでやってくれた誕生日パーティー以上に華やかになったと思う。


 で、肝心の月菜はというと……まだ部屋から出てこない。


 流石にもう起きてると思う……俺のことを避けて部屋から出てこないわけじゃ、ないと思う……そう思いたい……。


 あぁ、やめいやめい! こういうときはクラッカーを打つ練習でもして気長に待とう!


「はっ! ……いや、もうちょっと上に向けて……はっ!」


 ちょっと虚しかった。


 午後八時。


 もう夕飯時だし、仕上げもしちゃおうと思って色々料理を完成させた。


 ローストビーフ、パスタ、サラダ、グラタン、ピザ、唐揚げ、天ぷら、寿司、などなどと月菜の好物が分からないから、和食洋食限らず種類多めでたくさん作った。


 ただ、月菜はまだ起きて来てない。


 料理を作ってるときはなんとか気を紛らせていられたけども、全てを完成させた後に一人でテーブルに座った途端にもう俺のガラスのハートは限界だった。


 午後十時。


 月菜はいない。


 嫌われ、確・定! 


「はぁ……俺、なにかしたのかなぁ……」


 俺のガラスのハートはもう粉々である。


 ずり落ちてる三角帽子と冷めた料理と机に突っ伏してる俺を見れば全米が泣く事間違いなし。


 でも、一つだけ違和感があった。


 それは、生活音が全くしないこと。


 流石にここまでずっと寝てるとは思えないし、それなら足音とか扉を開ける音とか聞こえてもおかしくないはず、なのにそれがしない。おかしい。


「……いや、まさかな。様子、見に行ってみるか」


 これは嫌われてる嫌われてない以前の問題で、もし倒れてたりして動けないとかになってたら……そう思ったら心配で俺は様子を見ることにした。


 午前〇時。


 俺は月菜の部屋の前でうろうろしてた。


「おーい! 月菜! 大丈夫かー?」


 もう何回も声をかけてるけど中から物音ひとつしない。


 それでも部屋に入ることをためらってるのは、なんでもなかった時に「なんで勝手に入ってくるの!」とか言われて枕とか投げられてさらに好感度が下がったりしたら耐えられそうになかったからで。


 でもさすがにこうも音沙汰がないと、そんなことは関係なくなにか異常が起きたとしか思えない。


「はぁ、たとえさらに嫌われても命には代えられないか」


 俺は、意を決して月菜の部屋に入ることにした。


「月菜、入るよー……?」


 恐る恐るドアを開ければ……よかった、枕は飛んでこなかった。


 けど……。


「月菜?」


 月菜の姿はそこには無かった。


 部屋は真っ暗で、荷解きの後だろうダンボールが積まれてる、まだ来たばっかりだからかそこに生活感は無い、あるのは棺桶のようなモチーフのギターケースだけだった。


 ベッドはあるけどそこに人が寝てるようなこんもりと膨らんでることは無くて、ベランダに続く窓は空いてるのか外からの風を受けてカーテンが不気味にゆらゆら揺れてる。


 そんな部屋の様子を見て、俺はスッと血の気が引いていく感覚がした。


 姿の見当たらない月菜、夜中なのに不用心にも開いてる窓。


 最近はここら辺でなにか事件があったとかは聞かない、せいぜい犬の遠吠えがうるさいくらいだ。


 けど、月菜はすごく美少女だ、それでいて儚い雰囲気があってつい魔が差したってこともあるかもしれない。


 誘拐、夜這い、強姦——そういう悪い予感が頭に流れてきて、気が付いたら呼吸が浅くなっていた。


 いつからだ……いつから月菜はいないんだ?


 わからない、わからないけど探さなきゃ……たとえ嫌われようが、一日しかたってなかろうが彼女はもう俺の妹なんだから。


 兄である俺が守らないと!


「——月菜っ!」


 ベランダに出て叫ぶ。


 もしかしたらまだ近くにいるかもしれない。


 目を凝らせば、すっかりと消灯した住宅街、カチカチと点滅する外灯、人っ子一人いない道路。


 見える範囲に月菜はいない。


「くっ!」


 そうして夜の街に飛び出して探しに行こうとした時だった。


「星夜……?」


 そんな俺が探そうとしてた少女の声が後ろから聞こえて。


「——っ!」


 俺は振り向いて息を飲んだ。


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