【祝10万PV達成!】再婚した父さんが連れてきたのは吸血鬼な妹でした

しゅん

第一部

プロローグ 父さん再婚しようと思うんだ


 ある日の夜のこと。


 俺がお玉でカレーをかき混ぜてると、リビングのテーブルに座って夕ご飯を待ってる父さんが話しかけてきた。


「星夜、明日からまた一か月くらい家を空けることになるがいいか?」


「ん~」


 いつものことだ。


 だから俺は適当に返事をする。


 父さんは世界でも結構有名な医者で、その関係で海外へ飛ぶことが多いから、数か月間家を留守にすることが多々ある。


 小さい頃は寂しかった想いもあるが、今年からもう高校生、流石に一人で生活するのにも慣れた。


 どうしても誰かと話したくなったら隣の家には幼馴染がいるし、問題ない。


 そんなことよりも、カレーの具合は~……うしっ! 我ながら今日もなかなかいい感じだ!


 カレー皿にご飯と宵谷家特性カレーをよそってると、恐る恐るという感じに父さんがまた話しかけてきた。


「……星夜、実は父さん再婚しようと思うんだ」


「ほ~」


 これもいつものことだ。


 再婚するって言葉、父さんの口から何度聞いたことか。


 前は巨乳のナースのお姉さんと、その前は女狐みたいなナースのお姉さんと、その前の前はほんわかしたナースのお姉さんさんと、その前の前の前は切れ者感があるナースのお姉さんと、その前の前の前は……どんなナースのお姉さんだっけ?


 お父さん、ナースのお姉さん好き好きだろ。


 次はどんなナースのお姉さんなのか……。


 いい加減まともなナースのお姉さんを見つけてほしい、毎度毎度お父さんの財産目当ての人とか、そういうのはもううんざりだ。


 というか本当にそんな再婚相手がいたのかもよくわからないし、お母さんもこのままじゃきっと草葉の影から泣いてるよ。


 ここまでで分かる通り俺には母さんはもういない。


 だから、これまで男手一つで育ててくれた恩もあるし、特に再婚に関して反対するつもりもない。


 それに来週からは俺も義務教育課程を終えて高校生になるし、むしろ父さんもそろそろ自分の幸せを追求して欲しいとも思ってる。


 ただまぁ、さっき言ったナースのお姉さんたちのことは父さんが言ってたことで実際に俺は見たことないし会ったこともないから本当のことなのか疑わしいんだよね。


「それでこれが一番大切なことなんだが。相手には娘さんがいるんだが、星夜は構わないか?」


「……あ~」


 おいおい、この歳になって義妹、もしくは義姉ができるのか、まるでどっかのライトノベルみたいじゃないか、はっはっはっ!


 ……うん、ありえん。これはきっと父さんの願望みたいなものだろう! 


 ほら、クラスに可愛い子がいたら男子の誰しもが一度はその子と付き合う妄想するみたいな奴と同じようなものに違いない。


「わかったわかった。父さんの妄想の話は聞いてあげるから、とりあえずご飯できたから机の上片付けて」


「いや、妄想とかじゃないんだが……」


 俺はちょっと呆れたような態度をとりながら、机の上に広がってる数多の海外挙式の資料らしきものを片すように言う。


 しっかし、父さんの妄想捗りすぎだろ……これよくテレビでも紹介される有名な所だし、ペタペタ付箋が沢山はってあって、『新婚旅行はパリだ!』とか書いてある。


 ……やべぇ、最近は見て見ぬふりしてたけどウチのおっとんかなり拗らせてるかもしれない。


 なんだか父さんが可哀そうに思えてきた。


「……父さん。俺、父さんと二人だけでも十分幸せだからな」


「お、おう……? いきなりどうした、そんな子を見守るような母親の様な目で見てきて……? とにかく明日から、式場の下見とかしてくるから家のこと頼むな」


「ほいほい、妄想のことね。それよりカレー冷めちゃうし早く食べよう」


「だから妄想じゃないんだが……」


「いただきます」


 父さんの妄想の話は聞いてあげたいけど、カレーを食べる方が優先順位高めだ。


 ということで無視して食べ始めると、苦笑しつつ父さんもカレーに手を付け始めた。


「うん! 星夜の作る料理はうまいな! 掃除洗濯と家事もこなしてくれるし、母さんに似て面倒見もいいし、いつも助かってるよ」


「あはは、なんだよいきなり」


 褒められて悪い気はしないけど、照れ臭いわ。


 俺は仕事が忙しい父さんの代わりにできることをやってただけなんだから。


「これなら安心して月菜ちゃんを任せられる」


 ——カラーン。


 流石に父さんのこの発言には驚きを隠せなくて思わずスプーンを落としてしまった。


 いや、だって……。


「……父さん、その……るなちゃん? って?」


「ん? 明日から俺の義娘、星夜の義妹になる子の名前だよ」


「……」


 あぁ……前言撤回。


 ウチのおっとんかなり拗らせてるのレベルじゃなかった……。


 妄想の義娘に名前まで付けてるなんて……拗らせてるを通り越して壊れてるよ。


 これが痛々しいシングルファザーの慣れの果て……なんと哀れで悲しいことか……おぉ、神よ、誰かこのおっとんを救いたまえ~!


「これがまた可愛らしい子なんだ。きっと星夜もうまくやっていける」


 だが残念かな、神はおっとんを見捨てたようだ。


「……父さん、神は見捨てても息子の俺は父さんのことは絶対見捨てないから、一緒に頑張ろうね」


「おう? なんだか良くわからないが、明日から月菜ちゃんのことよろしく頼むな」


 あああああああああああああ! 父さん帰ってきてぇぇぇぇぇええええええ!


 俺こと宵谷星夜よいたにせいやはこの日、あまりの父さんのイタさにここまで壊れてしまうほど手遅れになってしまったのかと夜な夜な枕を濡らすことになった。


 ……そして、翌日からこれからの生活が一変するとは露ほども思わなかったのである、まる。

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