第17話 ハミルトンの後悔(ハミルトン視点)
色あせたブラウンの髪と、細めの目の奥は濁った沼のように不気味に光っている。
少しも愛らしく見えない、印象の薄い女だ。
これが、クロエ?
「ちょっと、貴女。私の弟にベタベタするのはお止しなさい。なんて、下品なのかしら」
姉上が、憎悪に満ちた顔でクロエを睨み付けていた。
「うるさいわね!黙っていてよ!おかしいわね、解けているのかしら?」
私は、この女の肩越しにオリビアの肖像画を見ていた。
あれほどの美貌の妻に酷い仕打ちをし、この下品ないかれた女を”天使”などと呼んでいたとは!!
愚かすぎだ・・・いくら魔法をかけられていたとはいえ・・・・
「クロエ。貴女の魔法はもう私にはきかない。早くここから出て行かないと私は貴女に、なにをするかわからない」
私が、壁に掛かっている剣を手に取った途端、クロエの顔が青ざめて全速力で走っていく。
「まぁ、あの女を逃がしてはいけないわ。裁判にかけないと・・・・」
「裁判?そんなことをしなくても、多分、国外には逃げ出せないでしょうね」
オリビアに付いていた侍女達の身のこなしを、私は思い出していた。
あの、身のこなしは、多分・・・
オリビアを最も愛する父親が付けた
”愛娘に仇なす者を跡形も無く始末する・・・・”だろう。
そして、自分もその対象かもしれない。
オリビアにしてきたことを考えれば、文句は言えない。
むしろ、殺してほしいとさえ、今は思う。
「姉上、私は取り返しのつかないことをしてしまったようです・・・」
姉上は悲しげに微笑んだ。
☆
私は、オリビアがいなくなったパリノ家の屋敷を見渡した。
オリビアが揃えた品のいい家具と、パステルカラーのクッションは彼女のセンスの良さがうかがえる。
そして、なにより、彼女の思いやりのこもった優しい言葉を思い出す。
使用人とも気さくに話す、快活な優しい人柄の女性だった。
お金の管理は大事だと、私に優しく諭した彼女は、間違ったことは一つも言っていなかったのに・・・
オリビアの性格の良さや、上品な仕草は、冴えなく見えたあの頃でさえ好ましく映っていた。容姿などで、全てを判断していた自分が恥ずかしい。
しかも、相手は絶世の美女だったというのに、情けなくて・・・涙がでてきた・・・
クロエに今までされたことを思えば、クロエは性格も最悪な性悪女だ。
私は、性格も素晴らしい至宝を手にしながら、性悪な石ころに夢中になっていたバカだ・・・
許してはくれなどとは言えない。ただ、オリビアに謝りたい。
明日、ベンジャミン家に行こう。
オリビアは、こんな酷いことをした私に会ってくれるだろうか・・・
(
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