第17話 ハミルトンの後悔(ハミルトン視点)

色あせたブラウンの髪と、細めの目の奥は濁った沼のように不気味に光っている。

少しも愛らしく見えない、印象の薄い女だ。

これが、クロエ?


「ちょっと、貴女。私の弟にベタベタするのはお止しなさい。なんて、下品なのかしら」

姉上が、憎悪に満ちた顔でクロエを睨み付けていた。


「うるさいわね!黙っていてよ!おかしいわね、解けているのかしら?」

私は、この女の肩越しにオリビアの肖像画を見ていた。

あれほどの美貌の妻に酷い仕打ちをし、この下品ないかれた女を”天使”などと呼んでいたとは!!

愚かすぎだ・・・いくら魔法をかけられていたとはいえ・・・・


「クロエ。貴女の魔法はもう私にはきかない。早くここから出て行かないと私は貴女に、なにをするかわからない」

私が、壁に掛かっている剣を手に取った途端、クロエの顔が青ざめて全速力で走っていく。


「まぁ、あの女を逃がしてはいけないわ。裁判にかけないと・・・・」


「裁判?そんなことをしなくても、多分、国外には逃げ出せないでしょうね」

オリビアに付いていた侍女達の身のこなしを、私は思い出していた。


あの、身のこなしは、多分・・・

オリビアを最も愛する父親が付けた

”愛娘に仇なす者を跡形も無く始末する・・・・”だろう。

そして、自分もその対象かもしれない。


オリビアにしてきたことを考えれば、文句は言えない。

むしろ、殺してほしいとさえ、今は思う。


「姉上、私は取り返しのつかないことをしてしまったようです・・・」

姉上は悲しげに微笑んだ。





私は、オリビアがいなくなったパリノ家の屋敷を見渡した。

オリビアが揃えた品のいい家具と、パステルカラーのクッションは彼女のセンスの良さがうかがえる。


そして、なにより、彼女の思いやりのこもった優しい言葉を思い出す。

使用人とも気さくに話す、快活な優しい人柄の女性だった。

お金の管理は大事だと、私に優しく諭した彼女は、間違ったことは一つも言っていなかったのに・・・


オリビアの性格の良さや、上品な仕草は、冴えなく見えたあの頃でさえ好ましく映っていた。容姿などで、全てを判断していた自分が恥ずかしい。

しかも、相手は絶世の美女だったというのに、情けなくて・・・涙がでてきた・・・


クロエに今までされたことを思えば、クロエは性格も最悪な性悪女だ。


私は、性格も素晴らしい至宝を手にしながら、性悪な石ころに夢中になっていたバカだ・・・



許してはくれなどとは言えない。ただ、オリビアに謝りたい。

明日、ベンジャミン家に行こう。

オリビアは、こんな酷いことをした私に会ってくれるだろうか・・・



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