32 芋と世界の秘密と
「芋を植える」
畑の主であるビットーリアの決意にみんな「芋かあ」と呟いた。先日、畑に作った2列の畝に植える作物を皆で検討していたが、一番の権力者であるビットーリアが芋と決めた。それも植えるのは白芋。泰山は無類の好きで、だから嬉しいものがあった。
「いいか、等間隔で幅とって植えろよ。去年は誰かさんが詰んで植えたから育ちが悪かった。30本植えて大15個だとよ。情けねえ」
取り仕切るヌークレオはそういいながら渋面を作った。もっともな意見だと思った。
「去年も芋の時期に息子は徴兵されたわ」
手を休めることなく芋の茎を並べるマーレイの言葉に皆視線を下げる。彼女の息子も働き盛りというのに家業と家族を置き去りにして徴兵へと連れていかれる。
「今度の遠征は王子が出兵されるそうだな」
そう言ったのは齢65のジョセフだった。皆本当かと目を丸くしている。
「王子様はそんなお歳かの」
泰山の疑問に答えたのは恰幅のいいシャーナだった。
「もう45歳になられるわ。王子も行かれるのなら国に文句も言えないわね」
「文句もいいたくなるさ」
声を張り上げて立ち上がったのはヌークレオだった。彼はムードメーカー、彼がいると畑が明るい、泰山はそう感じていた。
「ヌーさんあんた職業軍人だったろ」
呆れたように笑うビットーリアへヌークレオが反撃の声を上げる。
「オレはよお、常にあいつらの喉元で殺るスキを伺っていたんだぜ。王族ってのはどうもいけ好かねえ」
皆ぶっそうだよと笑う。この会話が聞こえたら一体どうするつもりなのだろう。
「ヌーさんは王族が嫌いなんか」
泰山の遠慮がちな呟きにシャーナが答える。
「レネの国はね、あまり軍事が上手くないの。ヌーさんはそれを不安に思ってて腹立たしいのね。もっと訓練してプロを養成すべきだって嘆願書を提出し続けたら2日間拘束されて……」
「おい、ババア! 古い話をもちだすんじゃねえよ」
シャーナがふふふと笑う。分かるような、分からないような話だなと泰山は思った。
「お孫さんはいつ帰還予定かしら」
「分からん」
無骨な泰山はそのようにしか答えることが出来ない。何しろ知らないということもあるけれど。
「危険だけれど、戻ってきた人も多いのよ。心配しないで」
すると黙々と作業を続けていたジョセフが声を上げた。
「心配にもなるさ」
「お前らジョセフの心情を推し量れよ。あっちもこっちも大変なんだ」
ヌートリオが口にすると何でも可笑しくなる。
「王子は出兵されて何をなさるおつもりなんだ。まさか最前線に向かわれるということはあるまい」
ビットーリオの疑問に答えたのは再びジョセフだった。
「激励目的だろうが、命を懸けない戦いになんの意味がある」
そういうと悔し気に唇を噛みしめた。彼の息子は今戦地だろう。
「人魔というのは何なんだい。どうしてヨミにばかり現れるんだ」
泰山の問いに即座に答える者はいない。少し置いてビットーリオが呟いた。
「その答えはヨミの国の成り立ちにあるかもしれんね。あの国はゴミの国なんだ」
「ゴミの国?」
泰山は問いかえす。
「どこからか流ついたゴミがヨミには散乱しているそうだよ。それがまあ、人魔とどういう風に関係あるかは証明できんが、全く関係がないということはないだろうな」
泰山は考え込む。ゴミから産まれる人魔、人魔はもしかしてゴミ人間なのかと想像する。
「ゴミを片付けたら人魔は出ないんじゃないかの」
泰山の呟きにヌークレオはハッとした表情で無言で立ち上がる。
「どうしたヌーさん?」
ビットーリオの問いかけにヌークレオは小さく口を動かす。
「ターさんあんた冴えてるぜ。ゴミを片付けりゃゴミ人間は出ないよな」
投書、投書といいながらヌークレオは畑の外に走る。みんな、ふふと笑う。
「ヌーさん、そんなんで解決出来てりゃ事態は昔に動いてるさ」
ビットーリオの声は届かないようで畑の外から返事は帰ってこない。
「ゴミはどこから流れ着くんかの」
試すように問うたという感覚は泰山にもあった。その答えをすでに麗奈に聞いて知っているからだ。そして、誰も答えないということはこの世界の人々は真実を知らないのだ。
「ゴミが流れ着く……」
自問するように泰山は考える。遥か遠く、いやもしかすると、どこよりも近いかもしれない日本を想う。
世界の秘密を知ることで、もしかしたらこの世界に呼ばれた秘密に近づくことが出来るのだろうか。泰山は芋の茎をしっかりと埋めた。
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