8通目 空に会いました。3.5day

 ____________________________________________________________________________

2*?*年#月#日 

とある学者が言った

「家畜に使っていたシステムを人類に使うことになるとは、皮肉なことだ…天罰なのかもな」 

____________________________________________________________________________


 その夜、寝ていると外からトントンと扉を叩く音がした。

「…?」

 陸は気のせいかと思ったが

「陸。音が聞こえます。外に何かいます」

「な、何かってなんだ…?ここって誰もいないはずだろ」

 暗闇の中、声を潜めて話す。

「…いないとはいえないです。未知の生物はいるかもしれません」

「えぇ…」

 そのレターの言葉に、陸はまたチリチリと首の後ろに恐怖で焼ける。考えてみれば、人間がたくさん死んでいる街の中で寝ているのだ。ここで亡くなった人間は誰も弔っていないだろう。そのことを思い出して陸は体が恐怖で震えた。ヘルメットをしっかりかぶり、こわごわと扉を開けて、外の様子を伺う。辺りは真っ暗で何も見えない。

「…やっぱ気のせいか」

「こんばんわ」

 陸が声をした方をゆっくりと見ると、横に人が立っていた。それはここでよく見た骨ではなく…ちゃんと陸と同じ防護スーツを着ていた。

「だ…だ、だれだ…ど、どどうしてここに?」

 人がいるというありえない状況に陸は声が震えた。

「それは、私のセリフだ。なんでここにいるの?自分の地区からは基本は離れたらダメでしょ?」

 そう言った声が、普通だったので陸は一呼吸した。

「お、俺は、政府からの依頼で荷物を運んでいる。地区89。郵便員の陸だ。そういう君こそなんでここにいる?…名前は?」

「…え?郵便局員?…えっと…わ、私の名前は…えっと…そう…そら!」

 慌てたようにそう言う空と名乗る人物の声に、陸はいくらか落ち着きを取り戻し始めた。

「そらぁ…?」

 その奇妙な名前に陸は首をかしげる。

「それって名前じゃないだろ」

 陸達、人間は産まれた時に番号を割り振られる。名前はその番号に因んだものをつけられる。

 陸の番号はJA89018406

 だいたい下一桁から三桁で名付けられる。だから、ろく。陸は明らかな偽名に目の前の人物を怪しむ。

「それは、本当の名前じゃないだろ。所属もつけてないし」

「しょ、所属はないの!そう自由なのよ!私は自由な空なの!」

 相手の言動に幼さを感じた陸は、平常心を取り戻していた。

「…君は何歳なんだ?」

「…初対面で年齢聞くの失礼じゃない?立ち話もなんだから中に入れてよ」

 テントの中に入ろうとする空。

「うーん…」

 陸は迷った。明らかに怪しい。怪しいが、ここで追い返したところでなんで、こんなところに一人でいるのか気になってしまう。迷った末に陸は空と名乗る人物をテントの中に入れた。テントの天井から消毒液が降ってきた。

「ふーん…中ってやっぱり一緒なのね。何もない殺風景」

 そう言いながらヘルメットを脱ぐと茶色の髪が広がった。つり上がり気味の青色の瞳が陸を見る。空の額には冷却剤が貼ってある。

「…女の子…」

「なによ」

「いや…」

 じろりと睨んだ顔を見ながら、陸もヘルメットを脱いだ。

「ふーん…結構、おじさんなのね」

「おじ…!?…さん!?」

 あまりにも失礼な言葉に陸は言葉を失った。

「確かに、君より年上だけど俺はまだおじさんっていう歳じゃないぞ!」

「おじさんって皆そう思うんだよね」

 冷めた目で言われ、陸の心にぐさりと言葉が刺さる。

「ぐぅっ」

「陸。こちらの女性は何故こんなところにいるのでしょうか?」

 二人のやりとりを静かに聞いてた、レターが話す。

「わ!ロボットが勝手にしゃべった!」

 空が驚いたようにレターを見る。

「あーそうだよ。なんで、お前はこんなところに1人でいるんだよ」

「私の勝手でしょ。それより、貴方、本当に地区10に行くの?荷物って何?このロボットはなんなの?」

 空の質問攻めに陸は口を閉じているとレターが代わりに応えた。

「私はレターと言います。陸は私を地区10まで運んでいるのですよ。あなたのお名前は?」

 レターを面白そうに見つめた空は、明るい声でこたえた。

「私は空よ。よろしく。レター。こうまでして運ぶってことは、あなたってすごいロボットなの?」

「それは私にもわかりません。そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません」

「ふーん…曖昧ね。それにロボットがわからないって言うのなんだか新鮮ね…普通ロボットって、それはプログラムされていませんとか、認識できません。もう一度言ってくださいとかよね」

 そんなことをつらつらと、小さな口で話している空に、陸は口を開いた。

「そろそろ、お前がここで1人でいる理由話せよ…」

 その言葉に、彼女はしばし視線を彷徨わせたあとに話した。

「私は…大人になる手術を受けたくないから、地区60から出てきたの」

「え…じゃあ、手術受けてないのか?」

「…そうよ」

 陸は目の前の彼女の顔を穴が空くほど見つめたあと。

「それはまずい…と思うぞ」

「嫌なものは嫌なのよ」

「嫌…って」

 陸がそのどうしようもない理由に戸惑った。

「生物として彼女は正しいです」

 レターが言った。

「あら、よくわかっているじゃない」

 空は肯定的な言葉がかえってきたのが嬉しかったようだ。

「ただ社会で暮らしていく人間としては、適切ではないですね」

「だよな…!」

 レターの言葉に陸は即座に同意した。

「だから、こうやって社会に頼らずに一人でいるんじゃない!」

 そのレターの言葉に、空はさっきと一転して噛みつくように言いかえした。

「あーあー、私と似たように飛び出してきた人がいると思って、期待したのにがっかりだわ」

 口をとがらせて空はぼやく。

「いや…普通にいないだろ…というかいつ飛び出してきたんだ?」

「うーん…半年前ぐらい…かな」

「半年前!?」

「1人で、よく半年も生きられましたね」

 レターと陸はその期間に驚く。

「まぁね。かなり前から周到に用意してたからね。地区60の近くに放棄された地区があるの。そこから転々とあって。その放棄されたどの施設も、電気を発電できれば、まだまだ使えるのよ。夜にここにいたのは、散歩よ。ここって、結構、街が残ってるじゃない?結構使えるものとかあってね拾ったりしてるの」

 その彼女の言葉に、陸はやはり目を丸くして聞いてる。

「あと、ここには紙の本がたくさんあってね時々、借りて読んでるのよ…それに夜の方が誰かいたらすぐわかるしね」

 テントにも電気が使われていて、確かに夜ならばわずかに光っていて見つけやすいだろう。とりあえず、さきほどの話で一番気になったところを質問した。

「…放棄された地区って、まだ使えるのか?」

 使える施設を放棄している事実に陸は目を丸くした。素直にもったいないと感じたからだ。その疑問にレターがすぐに補足した。

「地区を運営できるだけの人数が足りなくなったら、放棄しますね」

 その言葉を聞いてますます疑問に感じた。

「…コウノトリで人数調整は完璧なはずだろ?なんで、人数が足りなくなるっていう事態がでるんだ…?いや不慮の事故とかで人が減るっていうのはあるとは思うけど…」

「それは

 空が顔をしかめて言う。

「放棄される地区は5年前ぐらいから放棄するって決まっているの」

「決まっている…?それって…誰が決めるんだ…?」

「政府よ…理由は単純に原料である植物の劣化が進んだことで食料生産が難しくなったことや、災害による建物の倒壊で、地区の立て直しが難しい場合とかに地区の放棄を決定するわ…これは総務に所属してる人間ならだれでも知ってるわ」

 その情報に陸は口をぽかんと開けた。

「区長に通達がきて、総務部がコウノトリにを止めるように言うのよ…」

「生産って」

 陸がその言葉に、少し難色を示すと

「本当のことでしょ?」

 ピリッとした空気になった。

「数年かけて、地区を統合します。そのときだけ人間の地区間の移動がありますね」

 そう補足するようにレターが解説する。

「空は…今の仕組みが気に入らないのか?」

 大人になる手術を受けたくないと飛び出してきた空。

「それよ。だって、おかしいじゃない…子宮をとるなんて…!工場の生産みたいに子供をつくるくせに…自然に産むことを禁じてるなんてさ…!」

「そうはいっても男も去勢する…人類は人口が増えすぎて、滅んだんだ…そういう対策するのは…仕方がないんだよ…空。自由にできるなら制御ができない…君も廃墟になった街の現状をみたんじゃないか?…いたずらに増えたら、食料が足りなくなって餓死で死ぬ人達が出る…間引きは残酷だ。とても…」

 陸はベッドに横たわる家族を思い浮かべた。過去の人類はその罪を全て背負って、陸達に引き継いだ。そう思うと、なんとも言えない気持ちになった。

「わかってるわよ!そんな話は聞き飽きたのよ!私は…!でも、それでも嫌なのよ!」

 陸は怒りで燃える瞳と声に惹きつけられた。何がそんなに彼女をここまで動かしてるんだろうかと思った。陸は、14歳のときに子供をつくれない体にされたことに怒りさえ感じなかった。きっと空とはずっと分かり合えないと思った。空は陸が怒りさえ感じなかったことに激しく燃え盛り怒っているのだから。

「…子供産みたいのか?」

「いずれはね。私みたいに逃げてきた骨のある男がいればいいけどね」

 果たしてそんな勇敢な男はいるだろうかと陸は思ってしまった。

「…それで…空は今晩、寝るとこどうするんだ…?」

「この近くに放棄された地区があって、今はそこを拠点にしてるの。私はそこで寝ているわ」

「陸。充電できるなら、そこに行った方がいいと思います」

 レターのその言葉に、確かにと同意しつつ空に聞いた。

「そのー充電とかさせてもらえたら助かるんだが」

「別にいいわよ」

 あっさりと了承してくれたことに陸は、ありがたいと思った。

「…そうか、ありがとう。じゃあ、時間も勿体ないし、さっそく空の地区にいくか」

 

 陸は急遽テントを閉じることにした。テントの外に出ると近くに陸のじゃない浮遊バイクがあった。

「お前も浮遊バイク持っているのか?」

「えぇ…移動できないと終わりよ。この世界だと、なおのこと」

「バイクってたぶんどこの地区も余分にないと思うんだけど」

 なんとなく、顔も知らない郵便局員が苦労してるんじゃないか…?と思ってしまいそんな言葉がでる。

「わたしの前の地区は他の地区の吸収を何回かしてるからバイクが少し余分あるのよ。私のバイクはもともと、使われていない壊れかけのバイクよ」

「それは羨ましい話だな」

 空の浮遊バイクに近づいて見ると、いくつか本が積んであった。

「本を持って帰っているのか?」

「そうよ。電気がなくても読めるなんて画期的なものよね。良い暇つぶしよ。まあ、本は洗浄できないから、昼間に外で読むかんじなんだけど…」

 そう言いながら、空は上を見上げた。つられて陸も見るがいつもの曇った黒い空があるだけだった。

「なんで見上げるんだ?」

「ときどき、雲の隙間があるのよ」

「え?そんなことあるのか?」

 そう聞きながらも、雲をじっと観察したことがなかったと思った。いつも仕事があるし、外は放射能が満ちている。できればあまり外に出ない方が健康に良いのだ。

「ずっと見とけばね…いまは、隙間はないみたい。隙間から星が見えるのよ」

「…見たのか?」

「一回だけね」

 空が嬉しそうに言うその言葉に、陸はテンションが上がった。

「聞いたか?レターすごいな…!俺達も一回ぐらいみたいな星を」

 その言葉にレターは赤いランプをちかちかと光らせた。

「えぇ…陸。もしそれが本当なら、希望の光ですね…」

 二人とロボットは、しばらく無言で上を見た。残念ながら、相変わらず黒い曇った空だ。

 陸達はそのあと、空の案内によって、放棄された地区75に向かった。


【地区75 山口】

「着いたわよ」

 今まで見た地区と変わらない並びの建物があった。見慣れた景色だけに不気味さが増していた。誰もいないとわかっているだけで、こうも雰囲気が違うのかと思った。

「私が寝泊まりに使っている建物は発電所だから」

「あぁ…そっかそりゃ…そうだよな…」

 空の浮遊バイクの後ろをついて行った。風車の森を抜け、見慣れた建物の中に入った。入る前に消毒を行った。

「消毒液とかの消耗品は、どうしてんだ…?消毒とか食料とか、ないだろう?どこから持ってきてるんだ?というかお前の前の仕事って発電所の職員だったのか?」

 陸はヘルメットを脱ぎながら聞いた。

「私は総務部に所属だったわ。消毒液も食料もここの地区の工場を動かして作ってるわ」

 その言葉に陸は目を丸くした。

「いやいや…発電所や工場を動かす知識がないだろう…?」

「ふふ…私、総務で働いていたのよ。職業のマイクロチップをこっそり…盗ん…んん!もらったのよ。だから…」

「それって…のカプセルを飲んだってことか?」

 陸は眉をひそめた。

「まぁ…そうよ…」

「それは…体に悪いどころの話じゃないぞ!」

 陸の脳裏には水葬場で働いている百が思い浮かんだ。あれは脳のマイクロチップがうまく癒着していないのだ。数百人に一人はそういう体質の人が生まれると聞いた。1人につき脳に入れるマイクロチップはひとつと決まっている。人間の脳の容量が決まっている。過去に複数飲んだ人間は著しく脳の劣化が早かったという事実はもう証明されている。

「わかってる。危険なことぐらいわかってるわよ。でも1人で生きていくには、そのぐらいしないといきいけないのよ。なんでも出来なきゃいけないの」

 そのやりとりを傍観していたレターが口をはさむ。

「なるほど。納得しました。貴方が半年間、1人で生き残れたことに。知識を所有しているマイクロチップのカプセルをいくつか飲んで…一人で地区の運用をしたんですね…作業用ロボットを動かして作業すれば不可能ではないですが…長期的に生活するなら望ましくないですね」

 レターの言葉に、空は眉をひそめていた。わかっていることを改めて言われて不快に感じているようだった。

「普通は一人につき、職業のマイクロチップのカプセルは一個だけだ。脳の許容量をオーバーする…。ヘタしたら上手く話せなくなるし…何も考えられなくなる。空は一体いくつのカプセルを飲んだんだよ」

 その言葉に空は、眉をひそめて不機嫌にこたえた。

「さぁね。もう覚えてないわよ」

「覚えてないって…そんなに飲んだのか」

「たぶん長く生きられないわね…最悪、すぐに脳が劣化して、廃人。良くて突然死。でもね…自分の地区に戻って大人になる手術受けるぐらいなら…こっちのほうがマシよ」

 肩をすくめて、自分の体のことを投げやりに言う空に、陸はますます困惑した。

「それじゃあ、子供を作ったとしても…相手も子供も長く生きられないだろう」

 その言葉に空を悲しそうな顔をした。

「そうよ…長くは生きられないわ。私の言っていることは、支離滅裂で結局叶えられない夢なのよ…」

 空は諦めた目をしていた。重い沈黙が流れた。

 そのことに陸は何も言えなかった。静かな沈黙の後に陸は一言謝った。

「ごめん…」

「いいよ。貴方に言われなくても、じゅーぶんわかってる」

 背中を向けた空が、話を変えた。

「…陸は充電方法はわかる?」

「あぁ…わかる…」

 陸はそう答えて、自分の浮遊バイクを充電場にもっていった。空が一人で動かしている発電所。いままで見てきた発電所と同じ建物のはずなのに、ひどく静かに感じた。多分、最低限の機械しか動かしていないのだろう。

 搬入口付近にある充電場に浮遊バイクのコネクタを繋いだ。

 陸は防護スーツを脱いで、壁に防護スーツもかけ、充電した。薄い服だけの状態になる。レターを抱えた。

(発電所で泊まれるところって、休憩室しかないよな)

 とりあえず、休憩部屋に行くと空がいた。彼女も防護スーツを脱いでいた。

「貴方が寝るベッド、あるわよ」

 陸に向けて空がいった。

「ありがとう。助かる。テントの中はやっぱり疲れるからな」

 素直にありがたいと思った。

 休憩部屋にはカプセルベッドが一つしかなかった。

「違う部屋にカプセルベッドがあるのか?」

 と陸は聞く。

「いいえ。一緒に寝るのよ。ここカプセルベッド一つしかないのよ」

「…え?」

 陸の顔が強張る。

「狭いけど、我慢してね」

「いやいやいやいや…じゃあ俺がテントで、寝るよ」

 首を左右に勢いよく振り、陸は部屋から出て行こうとする。

「あら、嫌なの?私との添い寝」

「嫌というか、それなりの年齢の他人が寝るのはな…常識的になしだろ」

 冷や汗をかきながら言う。

「こんなところで常識とかなんの役にもたたないわよ。気にするのは貴方だけよ。そう思わないレター?」

 陸の腕に抱えられているレターは、赤いランプをチカチカとさせた。

「私はそういう事に関しては無関心です。空と陸が一緒に寝てても何も思いません。何も思いません」

「2回いってるぞ…レター…ちょっと気にしてるんじゃないか」

「ロボットも常識を気にするのね」

 くすりと空は笑った。

「安心してよ。私たちが一緒に寝ても赤ちゃんできないわよ」

 それはそうなんだけど…と思いながら陸は空に言った。

「うーん…空は嫌じゃないのか?俺と寝てさ…」

「別に」

 そういう彼女の顔を見ていると、陸は七の顔を何故か思い出した。いや付き合ってないし、浮気ではない。それに空は年下だ。ないないと考えている。

「そっか…じゃあ…俺も嫌じゃないから…えっと…ベッドお借りします…」

「最初から素直に言えばいいのに」

 やれやれという態度で言われ、陸は少しばかり理不尽に感じた。そうやってると小腹が空いた。幸い、今日の分のドライフードは少し残っている。

「寝る前にドライフード食べようと思ってるけど…空はご飯とかどうしてんだ?」

「私はここで生産したドライフードがあるわ。作業ロボットを動かして原材料の植物を育てて、加工して生産してる」

「そうか…じゃあ、俺は遠慮なく自分のドライフードを食べれるな」

 陸はドライフードを袋から出して、軽量カップに入れた状態で食べようとしたところで

「それって、あなたの地区で作ったドライフードなの?」

「そうだけど」

「ちょっとだけ交換してよ…もしかしたなにか違うかもしれない」

「うーん…ちょっとだけなら」

 空が作ったドライフードと陸のドライフードを数粒交換して食べてみたが

「‥‥味しないな」

「同じね…つまんないのー」

「製造方法は同じなので、何も変わらないですよ」

 レターが横から口をはさむ。食事はすぐに終わった。

「はぁ…」

 陸はカプセルベッドを前にしてため息が出る

「寝床を貸してあげてるのに、ひどい態度ね。貴方モテないでしょう」

「モテ…久々に聞いた。もうそれは死語じゃないか?」

 モテるとか、モテないとか基本的にないのだ。そもそも家族を持つという方が難しい世界だ。陸はレターをベッドの脇に置く。薄いインナーを脱いで全裸になる。

 陸が裸でカプセルベッドに横になると空も裸で隣にきた。大人1人用のカプセルベッドなので、狭い。…空の体が小さいので、なんとか二人で寝れる。

「誰かと寝るのは何年ぶりかな」

「ほんとうに…ふふ…ちょっと面白いわね」

 陸は空の体温を感じた。通常より熱かった。つい空の額を触ってしまった。保冷剤が貼ってあるのに、熱をもっていた。

「勝手に触るのはマナー違反よ」

「ごめん…」

 陸は慌てて、手をどける。

「だから、これでおあいこね」

 空の細い手が陸の額を触った。

「…あなたは冷たいわ」

「これが平温だよ。空」

「そっか」

 空はするりと2度、3度体温を確かめるように撫でたあと、手を戻し視線をカプセルの天井に向けた

「マイクロチップのカプセル飲むまでは、私は親と一緒に寝てたわ。貴方もそうでしょう?」

 ちらりと視線で聞かれたので、陸はそうだと頷いた。

「きっと、どこもだれも何も変わらないんだね…」

 そう言った後、空は話をつづけた。

「あのさ、わたし、地区10まで行ったことあるよ」

「え!?」

 その言葉に驚きで声が出た。

「ほんとに政府があるのかなって思ってね。地区10は私たちの地区とは違った。あそこは大きなドームの建物が一つあるだけで、他にはなにもなかった。ほんとになにもないの。首都は入念に爆破されたんだなぁって。建物の入り口は閉ざされていたわ。入れないか試してみたけど、開かなかった」

「へー…。地区10は他の地区とは違うんだな。というか、充電とかどうしたんだ?いくら、放棄された地区で充電してきたとしても、流石に政府周辺の地区は放棄されていないだろう?どうやってそこまていったんだ?」

「陸の言う通り、政府周辺の地区は放棄されていないわ。だから、普通に発電所を訪れて充電させてもらったのよ。発電所の人達って、基本良い人だからね。充電させてもらわなきゃ、死ぬのよって言うと拒む人はいなかったわ」

「な…!それは、脅迫だろう」

「他人の命じゃなくて、自分の命を使ってるから良いじゃない」

「はぁ…たくましい…つよいな」

「ふふ…だって、1人で飛び出すぐらいよ。強くなきゃやらないわ」

「たしかに…」

 薄暗い中、空の吐息を感じた。緊張して眠れないと思っていたが、そういう話をしているうちに、いつの間にか二人で穏やかに眠っていた。

 そんな二人を確認したレターは静かに言った。

「おやすみなさい」


※注釈

 大人になる手術:去勢手術のことである。

 

 マイクロチップ:5歳の試験を受けた後、能力に見合った職業のマイクロチップを服用することが義務付けられている。それを服用することによって、マイクロチップが脳に運ばれ埋め込まれる。脳に埋め込まれるとその服用した職業の知識を全て会得する。よって6歳から仕事に就くことが可能にしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る