5.少女は対応する
「…………何?」
私はウザいという感情を必死に抑えて、声のした方を向くと、予想通り、男四人がこっちに近づいてきていた。
全員、見た目は冒険者っぽい格好をしている。
でも着けている装備はどれも安っぽい物で、それぞれの武器も特出した性能はない。これと言った特徴はなく、いたって普通だ。
「君たち、二人だけ?」
先頭を歩いていた薄皮鎧の男、おそらく男達のリーダーが汚い口を開く。
「……だったら何?」
「いや、ここに来る前によぉ? 仲間が減っちまってな。……ほら、このご時世だからよ。俺達四人だけってのは心もとないと思っててなぁ」
「あっそう、大変そうだけど頑張ってね」
お前達とはもう話すことはない。と言いたげな雰囲気を出しつつ、視線を男達から外す。
「まぁまぁ! そんなこと言わずにさぁ、まずは俺達の話を聞いてくれって」
明らかにチャラそうな盗賊風の男が、私の視界に強引に入ってくる。
──チッ。
「さっきも言ったように、このご時世だ。女の子二人ってのは色々と危険だろ?」
危険ではないけど、面倒だね。
今まさにこの状況がそれに当てはまるね。
「この街で新しい仲間を見つけたい。なぁそうだろ?」
何を勝手に決めつけてんだ。
無駄なドヤ顔やめろムカつくな死ね。
「俺達もここで仲間を見つけたくてよ。ほら、互いに目的が合っている。……だろ? そういうことだから──ってぇ!?」
リーダーが私に手を伸ばして触れようとした直後、横から乱入してきた手に腕を握られ、男は情けない悲鳴を上げる。
乱入者はプリシラだ。
彼女の顔はまるで般若が宿ったようで、仲間であるはずの私でさえ、咄嗟に目を逸らしそうになるほど怖かった。
「ご主人様に近づかないでいただけますか?」
「いで、いででででっ! は、離せ! 離せって!」
離れようと暴れる男。
でも、プリシラの腕力の前ではそんな抵抗も無意味でしかない。
……というか腕からメキメキって音がしてますけど、それ大丈夫? うっかり「ポキッ」っていったりしない?
そこで周りが若干騒がしくなった。
情けない男の悲鳴のせいで変な注目を集めてしまったみたいだ。何事かと様子を見るような多くの視線を感じる。
「はぁ……プリシラ、離してあげて」
「かしこまりました」
「──ッ、テェ!」
パッと手を離したため、男はバランスを崩して尻を地面に勢いよくぶつけた。
すぐに慌てて立ち上がり、咳払いを一回。
「それで、俺達のパーティーに入らないか?」
…………すごいな。
あんな醜態を晒しておいて、よくもまぁ同じことを言えたものだ。その度胸だけは認めるよ。
ただ、私の考えは変わらない。
「雑魚はいらないから」
「「──なっ!」」
明らかな否定に、リーダーとチャラ男は息を詰まらせた。
「……待て。雑魚とは聞き捨てならないな」
「ああ、僕達だってそれなりの実力があると自覚している」
今までずっと黙っていた残りの二人が、初めて話に混ざってきた。
雑魚と言われて怒ったのかな。ピリつく空気を出しながら、私の前に立ちはだかる。
片方は背中に大剣を背負った大柄な男だ。頭は残念なことに生命を感じなかったが、この男たちの中では、そこそこの実力を持っているのがわかる。……あくまでも、この中ではの話だけれど。
もう一人は四人の中では唯一の魔法使いだった。
インテリメガネをかけていて、見るからにプライドが高そうな男だ。こういう男を見ていると嫌な記憶を思い出すから、こいつは無条件で嫌いだ。
この二人はまだ最初の二人よりは腕が立つ。
ただ、それでも──私とプリシラに比べると弱い。圧倒的に。
「ご主人様、そろそろ我慢の限界が……。消し飛ばしていいですか?」
「……それはやめておこうか」
さらっとエグいことを言うんだよなぁ、この子は。
「……とにかく、仲間が必要だったとしても、アンタらはいらない。他をあたってくれる?」
こっちは散々断ったんだ。
これで諦めてくれたらよかったんだけど、そこはやはり諦めがつかない男達。
「……そこまで言うなら、俺達が本当に弱いか確かめてみるか?」
ここまで馬鹿にされたことに苛立ったのか、リーダーは剣をゆっくりと抜いて私に切っ先を向ける。
他の男達もそれを見てチャラ男は弓を、大男は大剣を、メガネは杖を。それぞれの得物を構え始めた。どうやらやる気満々らしい。
「はぁ〜ぁ、どうしてこうも馬鹿が多いんだか……」
「同意見です。ちょっかいをかけるだけならまだしも、ご主人様に刃物を向けるとは──万死に値します」
こっちもこっちで殺気凄いし……血気盛ん過ぎるでしょ。
この状態のプリシラに全て任せると、本当に彼らを殺しかねない。街に入る前に犯罪者とか流石に嫌だし?
そういうのは隠れた場所でするのが一番楽で安全なんだ。プリシラには後で暗殺者の心得ってものを教えてあげなきゃいけないな。
「……私はね。目立つのは好きじゃないんだ」
「は? 急になにを言ってんだ?」
でも、もう野次馬はできている。
こうなったらもう後戻りはできない。騒ぐ騒がないの問題じゃない。今回はおとなしく諦めて、さっさとこの場を鎮圧するのが最善だろう。
手先から糸を編み出し、鞭のようにしならせる。
直後、男達の真横が爆ぜた。
小爆発が起きた規模くらいのくぼみが出来て、男達は無言でそこを一瞥した後、視線をこちらに戻した。
そんな彼らに向けて、私は笑顔で一言。
「まだやる?」
問いかけるけど、返事はない。
「もう用がないなら──失せて。邪魔なんだよ」
リーダーの足元にもう一度、糸を叩きつける。
それは先程以上に深々と地面を抉り、男達は小さな悲鳴を上げてその場からそそくさと逃げていった。
「……よろしかったのですか?」
奴らが逃げていった方向を見ながら、プリシラはそう言った。不服ですと言いたげな声色だ。
「これでいいんだよ。こんなところで問題を起こすほうが後々面倒になる」
「……意外でした。ご主人様なら歯向かった者は容赦なく全て殺すのかと」
「私への印象について一度話し合う必要がありそうだね。言っておくけど、私はそこまで非情じゃないからね?」
抗議の声をあげると、プリシラは冗談ですと小さく笑った。
…………勘弁してよ。
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