42. 少女は怒られる


「随分とお楽しみだったようですね」


 それがプリシラと合流した時、開口一番に言われた言葉だった。

 その中には多少の呆れと微かな怒りが込められていた。


「ええ……?」


 怒られるとは思っていなかった私は、ちょっと困ってしまう。


「私だって……ご主人様の復讐を手伝いたかったのですよ」


 プリシラは拗ねていた。

 唇を尖らせて、手を組みながら地面を軽く蹴っている。


「……ああ、ごめん。でも、プリシラが居なかったら、私はもっと苦戦していた。だから感謝しているよ。本当だよ」



 ──違う。

 彼女が言いたいのはそういうことではない。



 私が悪くて憎くて仕方がないゴンドルの最後を、同じ共犯者として見届けたかったと、そのような気持ちがひしひしと伝わってきた。


「たとえ無理をしてでも、私はご主人様と居たかったです……」


「本当に悪いと思っている。だから、どうか機嫌を直してくれないかな? ……ほんとごめん。私ができる範囲なら、プリシラのお願いを一つ聞くよ」



 ピクリ、と下を向いていじけているプリシラが僅かに反応する。



「…………本当ですか?」


「うん、それで許してくれるなら」


「嘘ではありませんよね?」


「え? もちろんだよ。プリシラに嘘はつけない」


「絶対に、絶対ですよ?」



 なんだ?

 妙に食いつきがいいな。



「わかりました。それで手を打ちましょう。──約束、忘れませんからね」


 どうにか納得してくれたことに、内心ホッとする。


 まさかここまでプリシラが怒るとは予想外だった。

 状況だけを見ると、怒る女房とそれを宥める旦那みたいだな、と場違いなことを思ってしまう。


「それで、奴はちゃんと死にましたか?」


「死んだよ。惨めに無様に死んでいった」


「そうですか、それはおめでとうございます。これからはどのように?」


「復讐をしている間に、新たな敵ができた。今からそいつらに宣戦布告をしに行く」


 その言葉を聞いて、プリシラは口元を歪に釣り上げる。

 おそらく、今の私も同じ顔をしているだろう。


「その、新たな敵とは?」


「アーガレス王国、その全てだよ」


「…………ん?」


 口元を歪ませたまま首を傾げて疑問符を作るプリシラの表情が、少し阿呆の子っぽく見えて可愛かった。


 ……でも、それは、私の心の中だけに留めておこう。

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