19. 少女は過去を語る
私は最高の駒を手に入れた。
いつか使い潰して、使えなくなったら適当なところで切り捨てるつもりだったけれど、その考えを放棄するほどに──良い買い物をした。
──プリシラ・ヴェール。
私の奴隷であり、私の駒であり、唯一の理解者。
彼女とならば、最高の舞台を作り出せる。そんな気がしてならなかった。
「さて、まずはお互いのことを知らないとね」
そう呟くと、プリシラは元気良く手を挙げた。
「はいっ! プリシラ・ヴェール。五十二歳です! 魔王の娘ですが、もう彼らとは絶縁しました。奴らが私の殺したい敵です。得意なのは空間魔法。人間では扱いが難しいとされている空間収納も会得しているので、遠慮せずに使ってください!」
──んん?
魔王とか絶縁とか……なんか色々な単語が出てきたけれど、まず一番気になったことが一つだけある。
「もしかしてプリシラ……おばあちゃん?」
「なっ!? ち、違います! 魔族は人間と違って長寿で、まだ私は成人したてのピッチピチな女の子です!」
自分で『ピッチピチ』と言う辺り、おばさん臭い気がするけれど……まぁ、本人がそう言うのであれば、主人として信じてあげよう。
「なんでしょう……ご主人様の目が優しい気がします」
なんのことかわからないな。
──こほんっ。
一度目では、魔族と関わったことがないから、あまり『魔族』という種族についての知識は得ていない。長寿というのも今初めて知った。
こっちは人間専門だったし、他に構って居る余裕が無かったというのが正直なところで、魔族や魔物を相手にするのは冒険者や勇者といった役割の人達だったから、完全に違う世界の話だと思って意識すらしていなかった。
『魔王』ってのも知らないな。
王って付いているくらいだから、魔族の王様?
──え、もしかしてプリシラって王女様だったの!?
貴族っぽい身のこなしだったから、どこかのお偉いさんだとは思っていたけれど、最上位だったとは予想外だ。
…………プリシラについては、これからゆっくりと知っていくことにしよう。
「さぁ! 次はご主人様の番です!」
ワクワクと、僅かに興奮した様子のプリシラ。
……なんか期待されています?
「えぇ? 私はただの人間だし、名前だけ知って入ればそれで良いんじゃない?」
「ダメです! 復讐相手も何も知りませんし、これから共に死地に身を置く者同士、色々なことを知っておいた方が得だと思うのです」
ぐぅ、正論。
「わかったよ。……私はノア・レイリア。数日前まで普通の村娘をしていました。年齢は十歳。家族は多分殺されているから、もう誰も身内は居ない。私の復讐相手は家族を殺した貴族と、一度目で私を陥れた奴ら全てが対象だ」
自己紹介をし終えたら、プリシラは呆けた顔で突っ立っていた。
内容を理解しようとして、何もかもを理解できていない人の顔だ。
「普通の村娘……十歳!? わ、私、普通の十歳の人間に負けたのですか!」
──あ、そこなんだ。
と言いつつ私もプリシラの年齢に驚いたから、同じか。
「私の記憶が正しければ、人間って六十歳前後が寿命ですよね? ……え、十歳って成人もしていませんよね?」
「人間の成人は二十歳だね。私はその半分だよ」
「さては貴女、人間ではありませんね!?」
「いや人間ですけどぉ!?」
急に人間否定されたことで、自分のキャラじゃないのに大声で言い返してしまった。
こっちはれっきとした十歳の村娘で、父親も母親も混ざりっ気のない純粋な人間だ。
となれば、その二人から産まれた私も純粋な人間……であるはずだ!
「ですがご主人様。十歳の人間は普通、魔族相手に勝てませんよ。しかも私は魔王の娘で、同年代の人達や三人の兄にだって負けない実力を持っていました。奴隷になって弱っていたとしても、この国相手に一人で戦えるくらいはできます」
「まぁ、そうだろうね……でも事実だし、困ったなぁ……」
プリシラとはこれからも行動を共にするだろう。
隠し事をするつもりはない……とは言わないけれど、今後も変な疑問を抱えたままにするのは共闘に支障が出るかもしれない。
──別に言ってしまっても良いとは思う。
ただ、信じられるかどうかは別の話だ。
私だったら絶対に信じない話を、彼女が受け入れてくれるかどうかは正直、賭けだ。
「プリシラ。どうか私の言葉を信じて聞いてほしい」
そして私は、全てを話した。
一度、私は裏切られて死んだこと。
気が付いたら十年前の過去に戻っていて、こうして二度目の人生を歩んでいること。
十歳とは思えない実力と知識は、全て一度目で得たと言うことを。
プリシラは驚いていたけれど、最後まで真剣に話を聞いてくれた。
私の話を邪魔しないように俯き、静かに全てを飲み込んでくれた。
「──ってわけだ。そんな簡単に信じてもらえないと思うけれど、全部真実だ。私は裏切られて死んで、復讐するために蘇った。だから私は……あの、プリシラさん?」
「…………、……」
「えっと、大丈夫? 変な奴だと思われたかもしれないけれど……ごめんね? 無理して信じてもらう必要は無いんだけれど、その……あの、」
「……う、ゔぇぇええええんっ!」
──泣いていらっしゃる!?
「ど、どうしたの! 大丈夫?」
「だ、だっで……ご主人様の過去があまりにも、可哀想で──ッ、チーン! ぐすっ、私だけが不幸だと思っていた自分がえっぐ、情けなくなって……ご主人様も大変な思いをされていたのですね」
「う、うん? ……まぁ大変だったけれど、え? そんなに泣く?」
「泣きますよ! 全く、人間は酷いです。こんな幼気な少女の家族を殺して、平穏な生活をぐちゃぐちゃにして……! 絶対に許しません! 必ず殺しましょうご主人様!」
「……あ、うん。そうですね」
暴走気味に騒ぐプリシラを見たら、逆に冷静になってしまった。
ガッ! と手を握られ、気合を入れ直す彼女に、私は適当な相槌しか返せない。
「えっと、プリシラ? さっきの話、信じてくれたの?」
「普通は信じられません!」
「……だよね、そう、だよね」
「ですが、ご主人様が意を決して私に話してくれたことが、嘘だとは思えません。だから私は信じますよ。……というより、信じなきゃ私が弱すぎるのではないかと不安になってしまい、今後立ち直れそうにありません!」
「そっちなの!?」
声を荒げてしまったけれど、ちゃんと理解している。
これはプリシラの冗談だ……半分は本気で言ってそうだけれど。
暗くなった雰囲気を少しでも明るくさせようと、彼女は気を使ってくれている。
その気持ちがありがたくて、何よりも突拍子もない話を信じてくれたことに嬉しくなった。
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