シチメンソウ~その赤いじゅうたんが色づくとき~

野林緑里

シチメンソウ~その赤いじゅうたんが色づくとき~

第1話

 颯太は眠り続けていた。

 たくさんのチューブにつけられ

 食べることも

 話ことも

 できずに

 ただ白い天井を見上げたまま眠り続けている。

 

 その光景を私は毎日のように見ていた。


 毎日


 毎日


 颯太の眠る病室にゃってきては、話しかける。

 返事はない。

 頷くこともなく、今日も天井を見上げている。

 目は薄っすらと開いているのに、まったく私の存在に気づいていない様子だった。


「颯太。今日はいい天気なんだよ。そうそう、もうすぐ颯太の誕生日ね。華ったら、お父さんが元気になるようにって一生懸命折り鶴つくっているのよ。まだ三歳なのにね。手の器用なのはあなた譲りね」


 愛娘の話をするけれど。まったく反応を見せてはくれない。


「今日、華は保育園なのよ。もうすぐ迎えにいくわ。そしたら、華と一緒にっていいたいところだけど、無理ね。小さい子供はつれてきちゃいけないのよ」

「矢ケ部さん。時間です」


 看護師さんの声が聞こえた来る。

 もうそんな時間?

 たった十分。

 やっと、面会ができるようになったというのに、たった十分。

 颯太の顔を見れる時間はそれだけ。

 本当は触れたい。

 颯太に手を握りたいのに許されない。

 ほんの少し離れた場所で話をする。それだけで、今日の面会が終わる。


「颯太。明日もくるわね。今度、華の動画とってくるわ。華もだいぶん大きくなったのよ。じゃぁね」


 私は、颯太に手を振る。

 もちろん、颯太が手を振り返すことはなかった。


「すみません。よろしくお願いします」


 私は、看護師さんに一礼すると病室を後にした。

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