ハーレム計画進行中♡
弾丸箱
第1話キスまでOK
「井伏君、明日私と買い物しましょう」
曲田杏は頬を赤らめながら告げる。夕暮れの部室の窓をバックに、カーテンは風ではためいている。まさに理想的なシチュエーションだ。これはもちろん曲田が整えたものである。告げられた、井伏 沙月は彼女の色が感染したように真っ赤になる。それから、彼は爽やかな笑みを浮かべた。
「分かりました、曲田先輩。喜んでお供します」
「そう、よかった」
「じゃあ、今日はこれで解散にしますか」
「ええ、さようなら。明日の予定は後で、LINEで伝えるわ」
「はい。よろしくお願いします。それじゃ」
井伏はカバンを取ると部室を後にする。そして、部室から十分離れたところでガッツポーズをした。
「つっしゃーーーー!」
井伏はやったぜと心の中で叫んだ。あの文化研究部という訳の分からない部活に先輩目当てで入って早一年、やっとデートに漕ぎつけたのだ。今まで先輩と買い物をしたことがなかったわけではない。しかし、二人きりでのお出かけは初めてだ。完全にデートだ
「つうか、買い物ってなんだよ! デートだろ! かわいいかよ」
先輩の誘いの言葉を思い出し井伏は悶える。
「なにしてんだ? こんなところで」
男の低い声が聞こえて、井伏は顔を上げた。
「勇心か……。驚かせるなよ」
そこにいたのは、井伏の幼馴染(男)の矢板勇心だった。
「驚いたのはこっちだろ。帰りか?」
「うん。勇心も生徒会の仕事終わったの?」
「まあな。と言っても今日はただの雑用だったが……」
矢板は肩を揉みながら答える。
「じゃあ、一緒に帰ろうよ」
「まあ、いいけど。なんか用でもあるのか?」
「ふふふ、モテない勇心に幸せのお裾分けをしてあげようと思ってね」
帰りのバスの中、井伏と矢板は一番後ろの席に二人並んで腰かけていた。
「ふーん。じゃあ曲田先輩にデートに誘ってもらったのか。よかったな」
「まーね。ここまでくればもう実質、カップルみたいなもんだよ」
「すげー自信。じゃあ、一つ聞いていいか?」
「何だね」
「先輩のことそんなに好きなら、なんで早く自分からデートに誘ったり、告白したりしないんだ?」
「ふっ、それはね。僕が後輩の折坂ちゃんのことも好きだからだよ」
「なるほどな」
「僕は二人のことが好きなんだ。いや、もっと言うとかわいい女の子は全員好きなんだよ。だから、僕から踏み込んだり、告白なんかしたら二人ともとはいちゃいちゃできないだろう」
「クズだな」
「モテない男の嫉妬は見苦しいぞ、勇心。それにね、僕が好きな女の子の表情は自分から勇気をだして踏み込んでくれる姿なんだ。僕はそれを見たいだけ。だからクズじゃない」
堂々と言い切る井伏を矢板は白けた目で見た。バスの案内放送が流れる。
「お、次か。降りるぞ沙月」
「うん」
二人はバスを降りると同じ方へ向かって歩く。二人の家はほとんど隣同士だった。
「それでさ、勇心。先輩は僕に惚れてる。後輩の折坂ちゃんもあと一歩だ。そしたら後は同級生だとおもわないか?」
「お前、ちょっと頭おかしいよ」
「何言ってんだい。僕のハーレム計画は着々と進行中だよ」
「ここは、法治国家だぞ。一夫多妻制は認められてないぞ」
矢板の発言にうわー……といった感じで井伏はひいた。
「え? 俺おかしいこと言ったか?」
「いや、付き合う話をしてるんだよ僕は。それを急に結婚だなんて、重い男だね勇心は。ストーカーとかにならないか心配だよ」
「俺はお前の倫理観こそ心配だけどな」
「まあ、それで。僕は小澤ちゃんなんかいいと思うんだよ」
「は?」
「知らないわけないだろ。一緒に生徒会やってるんだし」
「いや、知ってるけども。お前が狙っているとは知らなかった」
「だってかわいいじゃん? 胸も大きいし」
「まあ、そうかもな」
「でさ、よかったら勇心にも手伝ってもらえないかと」
「いやだよ。俺はカタギでいたいからな」
「ちっ、残念だな」
日も落ちかけていた。二人は足を止める。ここは、井伏の家だった。
「じゃあ、また月曜日。また、幸せのおすそ分けしてやるから待ってろよ」
「いや、そんなのいらないんだが」
そこで矢板は言葉が詰まり、下を向いた。
「ん? どうしたんだよ」
「いや、お前さ……。いつになったら告白するんだ」
「いや、だから僕からはしないって」
「いや、そうじゃなくて、お前が女だっていうことをだよ」
井伏は驚いたのか目を開いた。そして、閉じてニコリと笑った。
「高校の間は誰にも言わない。矢板も黙っててくれるよね」
「まあ、約束だしな」
「僕はかわいい女の子が好きなんだ。それには中性的な男子のお面は都合がいい。分かるだろ」
「いや、でも、いつかはばれるだろ」
それに、井伏はジト目で矢板を睨んだ。
「エッチ、勇心は変態だなあ」
「そういう意味じゃねえよ」
怒る矢板をしり目に井伏は家の鍵を開けて、ドアを開ける。
「知ってるかい? 勇心。高校生はキスまでしかしちゃいけないんだぜ」
井伏は扉を閉める。辺りはもう暗くなっていた。
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