第2話 真実の愛に目覚めたと婚約破棄されました

「せんぱーい、すみません、今日も母の介護があるので残業かわっていただけませんか?」


 そう言って頭を下げてきたのは去年会社に入って来た可愛い金髪の女子キリカちゃんだった。

 会社で仕事をしていれば、すまなそうに頭を下げて来る。何でも話を聞けば、母親が要介護状態らしくよく仕事が終わらない日はよく残業を代わっていたりした。


「まぁ、しょうがないよね。

 お母さんお大事にね」


 私がそう言えば「ありがとうございます!先輩いつもすみません」って嬉しそうに彼女は笑う。

 その笑顔が可愛くて、しょうがないなと、思っていたのだけれど。


「あの子、あなたに残業押し付けて遊んでるみたいよ?

 SNSやってたみたいで、貴方が残業変わってあげた日も普通に遊んでる」


 別の日。昼食時、仲のいい会社の同僚サヤと食事をしていたら、そう告げられた。


「え? まさか。それ本当?」

「ほら見てよ、これ」


 私が慌てて彼女のSNSを見せてもらえば、確かにそこにあったのはキリカが遊んでいるツイートだった。

 特にその日にしかないイベント等を扱っていたので、私が残業を変わってあげた日に間違いない。


 この事をキリカに「どういう事?」と、会議室に呼びだして聞き出せば、母親の介護でストレスがたまっていてやってしまったという話で、その場では落ち着いた。

 けれどそれ以後残業を変わってやる気にはなれず、距離をおいていたのだ。


 そして、休日に会社のバーベキューだったので会社の同僚で友達のサヤと前日に料理を仕込み、意気揚々とバーベキューのキャンプ場についたとき、なぜか職場の同僚たちがもめていたのである。


「どうしたの?」

 と、私が声をかければ、友達のサヤが


「ちょっと聞いてよ!クミ!!カズヤとキリカが浮……!!」


 と、何か言いかけたのを遮って、


「ごめん、クミ!婚約を取り消してほしい!僕は真実の愛に目覚めたんだ!!」


 と、頭お花畑な発言をしたのは……先月婚約したばかりの恋人のカズ君だった。

 カズ君の両親との挨拶を終え、これから式場をきめて幸せいっぱいなはずだった、彼だ。

 確かに最近誘っても会えない日が続いていたけれど……。

 食材や調味料などがつまったクーラーボックスや調理道具の入った重いバックを持ったまま思わず(は?取り消す?つまり婚約破棄?)と、固まっていれば、なぜかカズ君とキリカが黒い塊のようなものに吸い込まれて、私もそれに吸い込まれてしまった。そして気が付いたら魔法陣でまた強制転移させられたのである。

 

 展開が急すぎてついていけない。

 あれ、もしかしてこれって、残業断ったから嫌がらせで彼氏とられたって状況なの?

 いや、残業代わってあげてたのは好意であって義務じゃないでしょ!?

 それをこんなひどい仕打ちする?普通?

 カズ君もカズ君だ、そりゃあんな可愛い子に言い寄られたらデレデレするのはわかるけど、婚約者がいるのに浮気する!?

 しかも結納まですませて婚約破棄とかどういう事!?


 いや、それ以上に命の危機に無視って何!?



 絶対に許さないんだからぁぁぁぁぁぁ!!!

 二人とも慰謝料請求してやるぅぅぅ!!!

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