幼馴染におもちゃにされた俺はボッチを目指す いじられキャラは卒業です

うさこ

もう嫌だ


 今日の予報では大雪が降るみたいだ。

 いつも賑わっている駅前には人影が少なかった。


「さみ……」


 俺は震える身体を抱きかかえるようにして、かれこれ三時間待っていた。

 上手く動かない手でスマホのメッセージアプリを操作する。


 ――既読は付いているけど返信は無い。


「マジか……もう帰っていいかな? あっ」


 プシュっという音と共にメッセージが来た。


『寒いからみんな帰るって』


 俺は溜息を吐きながらスマホをポケットにしまい込んだ。


「……もういいか、あっ、雪だ……」


 俺は返事を書く気力も失せて、雪が降る中、一人家へと帰る事にした……







 俺は温かい湯船に浸かって、自分の事を考えていた。


 俺、田中祐希たなかゆうきは友達が多い……みたいだ。

 ……どうやら俺はいじられキャラ認定されているようで、俺には何をしてもいいという空気があった。


 ボッチでは無いけど、知らない奴から馬鹿にされる事も多々ある。

 クラスメイトが俺に話しかけてくる時は、大体俺をいじって笑いを取ろうとする。

 俺の反応を見るのが楽しいみたい。


 ……俺は全然楽しくないのにね。


 好きでも無いグループに無理やり入れられて、リア充のおもちゃにされる毎日。

 幼馴染のあかねもそのグループにいるけど、俺に対してひどい扱いをするだけであった。


 ……昔は一緒に遊んだのにな。


 湯船に顔を沈める。

 ――どこで間違えたんだろ? 俺、なんでいじられてばっかりなんだ?


 俺はリア充になんてなりたくない。普通の友達と、普通に喋って、普通に高校生活を送りたいだけなんだ。


「ぷはぁーー! ふぅ……」


 さっき、駅で待っていたのも、茜リア充グループの女子四人衆に無理やり誘われて、遊びに行く予定であった。

 だけど、待ち合わせの時間になっても誰も来ない。


 ……いつもの事。


 前にどこかの店に入って待っていたら、『なんで時間にいないのよ!! マジありえねー』って言われて、それ以来俺は待ち合わせはずっとその場で待機してろって言われていた。


 ――一人でポツンと立っている俺を笑っているのは知ってるよ。これ、おかしいよな? 


 アイツらにとって、俺は壊れないおもちゃなんだろうな……。


 もうすぐ高校二年生。そろそろ俺の精神も限界かも知れない。


 俺は冷えた身体が温まり、風呂から出ることにした。

 身体を拭いていると、妹の岬がやってきた。


「……おにい、風呂長い。ていうか、何で私より先に入ってるのよ。……はぁ、風呂のお湯代えなきゃ」


 ジト目で俺を見る妹は、裸の俺を無視して風呂のお湯を抜き始めた。


「あ、ああ。ご、ごめん」


 妹は少しイラッとした声で俺に言った。


「……なんで高校生になってから、そんなに卑屈になっちゃったの? ……昔はもっと……はぁ……もういいわ。邪魔よ」


「ご、ごめん……」


「謝らないで! 早く出ていって!!」


 俺はこれ以上、妹の機嫌を損ねないように自分の部屋へと戻ることにした。








 次の日、俺は熱を出して学校を休んだ。




 俺は熱にうなされながら自分で自分の事を恨んだ。

 なんでこんなにも弱いんだ。

 俺がもっと気弱な性格じゃなかったら……


 悪寒がひどい……吐き気がする。

 親は仕事で、妹は学校だ。


 俺は一人ぼっち。

 本当に一人ぼっちだったらどんなに楽だろう。


 人から馬鹿にされない。

 いじられない。

 昼休みにふざけて弁当を投げ捨てられない。

 授業中頭を叩かれない。

 体育倉庫に閉じ込められない。

 悪事は俺のせいにされない。

 プロレス技の実験台にされない。

 全部冗談で済まされてしまう。


 ――俺はそんな事があってもへらへら笑っていただけだ。


 みんなが笑って楽しんでくれたらそれでいい。

 俺がいるからクラスが円滑に回る。

 ああ、俺は道化で……生贄なんだ。



 クラスにいるボッチな男子とボッチな女子が羨ましい。

 孤高を貫く意思が欲しい。


 ――頭が熱い。思考がぐるぐる回る。





 俺は一日中、ベッドの上で苦しみながら過ごした。






 そして朝が来た。

 熱は完全に引いた。体調は万全だ。


 心の何かがごっそりと削ぎ落ちた気分だ。


「――なんだ? 心が軽いぞ?」


 心から無駄な感情が無い?

 クラスメイトの顔色を伺う? ありえない。

 俺がいじられる? なんで?

 熱によって、無駄な感情が浄化されたのか?


「は、ははっ……ははっ、俺は生まれ変わった。俺は自分らしく生きるんだ!!!」


 飛び起きたら額に貼ってあった冷えピタが床に落ちた。

 ――俺はそんな物貼ってない?


 ドタドタ音がして俺の部屋の扉が勢い良く開いた。


「おにい、朝からうるさい! って、フルチンじゃん!? ……か、身体大丈夫なの」


 もしかして、こいつが冷えピタを?

 俺は冷えピタを拾って妹に見せた。


 妹はそっぽを向いて俺に怒鳴った。


「は? し、知らないわよ。あんたが寝ぼけて貼ったんでしょ? わ、私、朝練があるから……」


 俺は去っていく妹の背中に声をかけた。


「――岬、ありがとな。お兄ちゃん、今日から変わるよ」


 妹は一瞬だけ、立ち止まって、本当にわずかだけど小さく頷いてくれた。












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