291 傍観
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
もう何年前だろうか
この子を迎えに行った時よりもずっと前
その時、同じくらいの年齢だったかもう少しだけ幼かった頃
確か40年くらい前だったか・・・
私は
神と契約を交わした
【なんだ? 子供か、こんな所で、、死んでは いないか】
力無い状態で雑に手首を握られた
姿、その格好は恐らく騎士なんかでは無い
つばの広い帽子を被り、剣を腰元に携(たずさ)えた金髪の男
、、だが、山賊の様な一般の生物がいる訳も無く
違う意味だが 『見つかった』 そう思った
本当に探していたのは、願いは、、こういう事では無くて
だって叶うと聞いたんだ
この森には、世界にただ一人
『願いを叶える』魔女がいるという
そんな
ある訳の無い嘘を信じて
そんな嘘を真実として、気付いたら此処まで来て、、、、
死にたかっただけ?
もう
【嫌だよ˝ぉ˝】
声なんて出ないと思っていた
【なるほど、通りで生きている訳だ、貴様】
【 鬼か 】
【あっ、あ˝ぁうぅ に˝、人˝間にぃ な˝りたいよ˝ぉおお】
みっともない最後の 最後の ちょっとした、、囁きみたいなものだ
【ふっ、妖精の類であれば契約時に役立つかとも考えたのだが、、】
頭部の突起を確認され、殺される そう思った
ソレでも いや 『それで』良いと
本当の願いなんて叶わない
そう思っていた
【小鬼風情が何用でこんな所まで来たのかと思えば、ふふふ、ははははは! 人間なんぞになりたいとは、笑わせてくれる】
私は虚ろな意識のまま手首を掴まれ宙へと浮いた
【取るに足らんそんな、、いや、待てよ】
何を思ったのかは分からない
誰かと話していた様にも思えたが影や形は無かった、、いや、それさえもぼやけた脳では理解出来なかった
【、、、ふん、良いだろう、そんなちっぽけな願いくらいなら私が叶えてやる】
【 ぇ】
それは詐欺師の様な台詞だった
優しさを感じない、吐き捨てる様な
、、だけど
そのしっかりと体温を感じた腕に、、最後の希望に
騙されても良いと
半分くらいは自棄(やけ)だ、どうなっても良いと、そう思った
【人間なんて者はか弱く、良いものでは無いのだがな 幼さからか、、馬鹿な娘だ】
私はそんな言葉を耳にしながら全てを任せる様に項垂(うなだ)れ、暫くの間意識を失った
【 い】
【 おい 着いたぞ】
目の前、、いや、少し上からの声に目を開いた
のだが景色は無く、真っ暗だった
もう少し上を見上げると光が差し込み、自分の胸から下がやっと確認出来た
【生きて帰れたならソレはそのままやろう、つまらん願いには十分だ、、しかしどうせなので利用させてもらう さぁ!貴様が先に選ぶが良い】
抱き抱えられていた胸元から降ろされ
眼前の生物?の美しさ、神々しさに息を飲んだ
それは自分の汚れた身や心、それこそ、、生きているのが恥ずかしくなる程に
【ぁ ぅ ぇ? 何】
何故か涙が止まらず、男の方へと視線を逃がした
【貴様の願いは人間になる事だろう? たかが角の一本くらいソレでどうとでもなるだろう? そんな事よりも、願いは対価に応じてその神が叶えてくれるぞ? 言え、何も持たぬ者よ】
幼くても、その表情で分かった、、だが
願いが叶ってしまったからこそ
【あ、あ あののっ!価値があるかどうかと言われたら無いと思う ます、けど! 見える様になりたい、色々! いっぱい ぁっ!た、対価は!!】
願ってしまった
願ってしまったからなのか・・・
【全部あげます! き、記憶とかでどうでしょうか】
残念な事に幼い私の対価では足りなかったらしい
完全な『能力』では無く、欠けた『能力』を授かった
見ていた男は平気な顔で別の対価を払い『能力』を得た
それはもう目を背けたくなる程に凄惨(せいさん)な
痛ましく、惨(むご)たらしい対価、、
いや
これは、こんなものは初めから対価なんてモノでは無く
代償の選択だったんだ
神では無く、美しい悪魔だったのかもしれない
だけど
私は生き延びた
生き延びてしまった
願ってしまった
、、足りなかったから? だからこそ 私はあの日から
傍観者となった
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