268 陣営

本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい



2/25 15:50



「はぁ  はぁ」



どれくらいの距離を一気に駆けただろう

引っ掛かるツインテールは雑に一緒くたにまとめ、服の中へと納めた

時間で言えば約二十分程の全力疾走

自慢の、、美脚では無いけど馬と追いかけっこくらいは出来る気がする


追い付けない訳が無い



そう思ってたのに



「はぁ  はぁ」



なんで?



「はぁ  はぁ」



距離が縮まらない



毒が残ってる?  ないない、もうほとんど感知してるし

病み上がりだから?今日の疲れのせい?  これも違う 走れてる この速度 目で追う方がしんどい

吸血鬼は身体能力が高いとか  だっけ?



違う



違くはないけど多分、そこだけじゃない



歩行術、走法?

いや、パルクールと言った方が正しいのかもしれない

直線ならばいざ知らず、障害物を蹴り倒し、飛んで跳ねての動作に遅れが生じる

木々の密集している場所で少女のスピードは活かしきれていないのだ


それに比べこの吸血鬼、恐らく狙って道を選んでいるのだろう

身体能力はもちろんなのだが単純に


森での移動に慣れている



(どうしよう、どうしよう、どうしよう)



この『どうしよう』にはそのまま三つの意味がある

まずは前方の吸血鬼


そして上空、、意識を戻したらしい雇い主が声を張り上げ叫んでいるのが聞こえる

走り出してから気が付いた事なのだが


上への攻撃手段が無い


だが体を動かしているせいだろうか

脂汗を流す様な、、助けられない歯がゆさや焦燥感(しょうそうかん)  とか呼べるレベルの思考では無い


なんせ三つ目の


至極当然(しごくとうぜん)な事なのだが






(帰り道わっかんねええええええ)






「あんたはあっち」とか言った手前、期待はしていなかったが少ししてから後方をちらりと確認した

もちろんエルフの姿は無く、代わりに水蒸気の様なものが立ち昇っていたのでどうやら唯一の目印だった煙の元は消火されたらしい

、、まぁどのみち今となっては臭いも届かない位置ではあるのだが


(もしかしてこのまま森出ちゃうんじゃないの、、ってえええ!)


急に、合図でも送ったかの様に

吸血鬼は右、上空は左、と二手に割れた


(も~!も~!!)

牛の様に、今回は唸(うな)り声を出さず


少女は左の届かない方を追う











「行ったか」


吸血鬼は誰に話すでもなく

、、もとい、先程空からの伝言を伝えに来た一羽のカラスに問う


「良い判断だ、あの女だけならやれただろうが魔剣持ちの戦姫が追って来ていたら勝ち目が無いだろうからな」


「、、言われていたのは補助までだ、悪く思うなよ」


「構わないさ、これで三度目だ駄目なら流石に処分だろう」


「あんたらの所も魔族の所も数がいるから変えが利く、だから詰めが甘いんじゃないのか?」


「少数精鋭(しょうすうせいえい)と言えば聞こえは良いな、だがそれはまるで自分達だけが優秀だと、失敗した事が無いと言い切れるのか? 笑わせてくれる」


「ちっ」


「ふっ、私から言わせれば魔族も貴様らもなんら変わらん、魔力を持たない分むしろ劣化版と言う括りだが?」


「貴様っ!」


「まぁこんな事どちらでも良いバミーに伝えておけ、部下の教育がなっていないとな!」


そう毒を吐き終わるとカラスは挑発する様にゆっくりと翼を広げてから飛び立った


「、、くっ、元人間風情が」

その声は小さく


掴んで握り潰すかの様な迫力は直ぐに消えた



「ふん小物が、覇権争いに負けた吸血蝙蝠ごとき雑用に過ぎんのだよ」



不吉な象徴の黒い羽を撒き散らし


王国の方へと羽搏く

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